第45話 パーティー
試合はニ対一で星の丘が負けている。今は八回裏で星の丘の攻撃だ。
相手が投げる。拓真は思い切りバットを振り抜いた。
バットに弾かれたボールが、高く飛び上がる。
「よっしゃー!」
「取られるな!」
他学年の生徒達も叫ぶ。
頬杖をついていた伊月も、思わず空高く舞うボールを目で追っていた。
そしてそのボールは、一階の観客席に落ちていった。
「うおーっ!」
「やったァァ!!」
生徒達が飛び跳ね、吹奏楽部が得点を祝うメロディーを奏でる。
(……どうして)
伊月は、笑いながらグラウンドを走る拓真を目で追った。
(所詮球打ちなのに、何でこんなにはしゃぐ?)
理解できなかった。
(一点取ってドローになっただけだろ。ここまではしゃぐ必要があるのか?)
慧悟に持たされたメガホンをじっと見つめる。
もちろん、野球の試合などは見たことはあった。その度に思っていた。
(スポーツって……そんなに面白いものなのか?)
再び応援の声が響き渡る観客席で、伊月は一人考え込んだ。
怪盗達はアジトに集まっていた。
「ターゲットが運び出されるまで後一週間だ。計画を伝える」
相賀はプロジェクターのリモコンを操作し、コンクリートの壁にターゲットのアレキサンドライトの写真を投映した。
「決行時間は午前二時。一時半にここに集合だ。ターゲットが運び出されるのは午前三時。それまでに奪還する」
「侵入場所は、今回は裏口から」
相賀に続き、海音が説明しだした。
「え? 屋上じゃないの?」
詩乃が口を開いた。
「屋上からも入れるんだけど、今回は大田君がいるから用心のためにね」
「なるほどな……」
拓真が頷きながら頭の後ろで手を組む。
「この間も実鈴を出し抜いて事件を解決したらしいし、頭脳は実鈴以上の可能性がある。実鈴と同じようには行かないかもな」
相賀が言うと、一同は重苦しい空気に包まれた。
「だから今回は今までと同行を変える。海音と朝井さんは、いつも通りここでナビ。そして博物館に忍び込むとき、瑠奈と拓真だけじゃない。俺と中江さんも一緒に突撃する」
「え、まとめるの?」
瑠奈が思わず訊き返す。
「ああ。向こうはいつも通りに二手に分かれて来ると思ってるだろう。だから盲点が生まれる。そこを突くんだ」
「そういうこと……」
雪美が呟いた。
「じゃあ細かいことはおいおい話すとして……。パーティーやるぞ」
相賀が急に言った。
「は?」
拓真がきょとんとするが、そうなったのは拓真だけだった。
「やろーやろー!」
「ほら拓真、来てよ」
「お、おい!」
詩乃達がぞろぞろとアジトの出入り口に向かい、海音が拓真を引っ張っていく。
一同がリビングに下りると、相賀はキッチンに入った。そして冷蔵庫からたくさんの料理を出してくる。
「拓真君のお疲れ様パーティーだよ!」
詩乃がニコニコと言う。
「そんなんせんでもええのに……」
眉を下げた拓真だが、瞳には光が宿っている。
「負けたんやし……」
同点には追いついたが、九回表で二点追加されてしまい、九回裏で点を取れなかったのだ。
「それでも、決勝戦には行けたんだし、去年より良い結果だったらしいじゃないか」
サラダをテーブルに置きながら相賀が言う。
「せやけど、オレ達にとっては納得がいってないんや。祝われるほどじゃないんやで」
「拓真」
海音がふと、名前を呼んだ。
「そんなに拒否することないでしょ。拓真達は納得がいってなくても、頑張ったことには変わりないんだから。これは、活躍した拓真のお疲れ様パーティーなんだから」
少し圧を感じる声に、拓真はため息をついた。
「……わかった。そんなに言うなら、甘えさせてもらうわ」
仕方なさそうに笑いながら、椅子に座る。
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