第174話 断言

「そんなの、できるわけ無いだろ……」


 沈んだ声で言うと、ウエストポーチからナイフを取り出した。


「R、包帯持ってるか?」


「あ、うん」


 Aは翔太をパイプに縛り付けているロープにナイフを当て、切った。支えを失った翔太がパイプに背中を滑らせて座り込む。


「……ごめん、もう立てない……」


「高山……」


 Tがしゃがみ、翔太を心配そうに見つめる。


 当然だ。立ったまま縛り付けられていた上に出血していたのだ。体力はもう残っていないだろう。


「…………?」


 Aは一瞬眉をひそめたものの、すぐに後ろ手に繫いでいるロープも切り落とした。


「R、ガーゼを傷に強く当ててくれ」


「わかった」


 頷いたRが翔太の頭の傷にガーゼを押し当てると、Aは受け取った包帯で固定した。


「手、離していいぞ」


「うん」


 Aが包帯を結んでいる間に、Rはウェットティッシュで翔太の頬についた血を拭き取った。


「……よし、脱出するぞ。翔太、肩貸すけど、立てるか?」


「……なんとか……」


 翔太はAの肩に手を回し、パイプをつかみながら立ちあがった。


『出血からして、すぐに病院に行かないと危険かもしれない』


「ああ、わかってる。ただ問題は……」


 Aは突然、開きっぱなしの入口の扉を睨みつけた。


「お前らから逃げ出せるかどうかってことだけどなぁ」


 ハッとしたR達が扉を見る。ここからでは正面の壁が見えるだけ。しかし、Aは気づいていたのだ。死角から感じる、殺気を。


「……流石に気づいていたか」


 声とともにベクルックスが姿を表す。


「そもそも隠す気なかっただろ」


 Aが冷たい声で言い返し、一同が身構えた。あたりの空気が一気に張り詰める。


「で、ここまで俺達に手を出さなかった理由は何だ? まさか、翔太を連れているなら俺達が負けるとでも?」


「まるで勝つことを宣言している発言だな。……まあ、そういう打算もないわけではないが」


 ベクルックスが独り言のように付け足した言葉は、A達には聞こえなかった。


「話すほどのものでもないな。――高山の生死は貴様らにかかっている。わかっているだろ? 木戸」


 ベクルックスはAに意味ありげな視線を向けた。


 支えている翔太をチラリと見たAはベクルックスを決意のこもった目で睨みつけた。


「……ああ。俺は、お前らに翔太を渡すつもりはない。決めたんだ。皆で帰るってな!」


 断言されたベクルックスは軽く舌打ちをした。


「それがうぜえって言ってんだ」




「…………?」


 ヘッドホンから聞こえた二人の会話に、Kは違和感を覚えた。


(なんだろう。なんか、噛み合っていない気がする……気のせいかな……)


 Kはヘッドホンに軽く手を当て、険しい表情を浮かべた。



「――! 危ない!」


 突然、なにかに気づいたUが側にいたRに飛びついた。


「きゃあ!」


 飛びつかれて倒れたRの側に、甲高い音を立てて何かが落ちる。


「U、大丈夫か!?」


「R!」


『何が起きた!?』


 T、A、Kが同時に叫ぶ。


「上!」


 Uが倒れながらも天井付近を指さした。

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