第173話 突撃

 テールランプが遠ざかっていくのを確認して、Aはビルを見上げた。薄暗くてよく見えないが、五階建てほどのビルで、窓から灯りは見えない。


「何も見えないね……」


 Uが呟く。


『遮光カーテンでもつけてるんじゃないかな。呼び出しているくらいだから、人はいるはず。電気会社と契約もしてないから、自分達でライトとかつけているんだと思う』


 Kの声も少し硬い。


「だろうな。セキュリティは?」


『……特にないの。デネブがなにか仕掛けてるかと思ってたんだけど……』


 Yの声が、自信がなさそうに小さくなっていく。


「……誘い込まれてるわけか」


 Aはフッと頬を持ち上げた。


「上等じゃねえか。――行くぞ!」


「「「OK!」」」


 ビルの入口に駆け寄ったAはガラス戸を少し押し開け、中の様子を伺った。


「……誰もいないみたいだな」


 R達を手招きし、ガラス戸を押し開ける。


「Y、ビルの図面は?」


 Rがサングラスを暗視モードにしながら尋ねる。


『今ダウンロードしたところ。……部屋の広さだけじゃ何階かわからないけど、高山君がいる可能性が一番高いのは……』


「最上階、だな」


 Aがいつになく低い声でYの言葉を引き継いだ。


「俺らが逃げ出しにくくするのには最上階が一番いい。それを見越して下の階、ってこともあるけど……」


「それやったら、手分けして探すしかないやろな」


 Tの声も低い。


 一同は一階のフロアの奥にあった階段を駆け上がった。



「…………」


 ベクルックスは遮光カーテンの隙間に手をかけ、外の様子を覗いていた。黒っぽいSUVが道路を走っていくのが見え、表情を暗くする。


「……来たか」


 フッと息を吐いたベクルックスはカーテンから手を離し、窓に背を向けた。



『写真の間取りからして、廊下の突き当たりの部屋だよ!』


「わかった!」


 スピードを緩めずに階段を駆け上がった一同は廊下を突っ切り、突き当たりの扉を勢いよく押し開けた。


「翔太!」


 一歩部屋に足を踏み入れたA達は顔色を失って立ち止まった。


 確かに、翔太はいた。だが、頭から血を流しながらぐったりとうなだれている――!


「――! 翔太っ!!」


 Aは固まってしまった足を無理矢理動かし、翔太に駆け寄った。


「翔太、返事してくれ! 翔太!!」


 両肩をつかんで、大声で呼びかける。


(頼む、起きてくれ……っ!)


「……う……」


 と、閉じられていた翔太のまぶたがピクリと動いた。


「――! 翔太!」


「高山君!」


「高山!」


 気づいた一同が一斉に呼びかける。すると、翔太はゆっくりと目を開けた。


「……み、んな……? なん、で……」


「良かった……!」


 Aが表情を崩して笑う。


 生きてくれていた。間に合った――そう思ったのもつかの間。翔太がハッと目を見開いた。


「ダメだ逃げろ!」


「え?」


 突然叫んだ翔太に、Aは困惑したような声を上げた。


「僕のことなんか放って――」


 そこまで言ったとき、頭の傷が鈍く痛んだ。


「っ……」


 思わずうつむいた翔太を、Aは悲しげに見つめた。

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