第69話 大ピンチ

(思ったよりしぶといな……。あっちにベガ達を配置しといて正解だった)


 ちらりとアルタイルを見る。Rもまだアルタイルと戦っていた。顔には疲労が見えているものの、技はまだキレがある。


(そんなに体力は残ってねーはずなのに……)


「うぜぇな」


 吐き捨てたベクルックスは階段を降りた。



「クソッ、部屋が多すぎる!」


 A達は扉を手当たり次第に開けながら廊下を進んでいた。危険な方法ではあるが、一番探しやすい。しかし、ホテルのように部屋が並んでいるため、時間がかかる。


「そっちはどうだ!?」


 Aは、別れて探しているUに訊ねた。


『まだ見つからないよ!』


 Uの声も焦っている。Aは歯噛みした。


(実鈴達の用意が終わるまであと十分。ここに来るまでに二十分はかかったからまだ三十分ある。それまでにR達が保つかどうか微妙だ。早く二人を探して脱出しないと……!)


 その時、ヒュッと小さな風切り音がした。


「――!?」


 咄嗟にバックステップで後ろに下がる。すると、足元に何かが刺さった。


「……俺の足止めはお前ってことか。ベガ」


 Aが言うと、少し先にあるドアが開き、ベガが出てきた。両手にはナイフが握られている。


「死角からの攻撃だったのに。よく避けるわね」


「お前達の気配には慣れてるんでな」


(俺にベガが来たってことは……Uのところにも誰か行ってるな……クソッ!)


 Aは構えを取った。


(Uは戦闘向きじゃない! 早くこっちを片付けて行かないと……!)


「安心しなさい。始末するのはXだけ。アンタには寝ててもらうわ」


「……そういうわけには、行かないんでね!」


 Aは言い終わると同時に飛び出した。


 ベガがナイフを何本も連続で投げる。


(間合いを詰めないと不利だ。ここは強引にでも突っ込むしかない!)


 飛んでくるナイフがAの腕や頬を掠るが、Aは構わずにベガに蹴りを放った。


 しかし、ベガはバク転で軽くそれを避けた。


「さすがね。急所を狙わないのを見抜いて強引に間合いを詰める。でも……」


 ベガは一瞬でAとの間合いを詰めた。


「遅いわ」


「ぐはっ!」


 蹴りをまともに食らったAは吹っ飛んだ。


(まずい……このままじゃ……!)



「遅い!」


「きゃああ!」


 Uの足止めにはシリウスが来ていた。


 シリウスの右フックを両腕をクロスしてガードしたものの、ガードごと吹っ飛ばされる。



「今の声……詩乃の……?」


 雪美は廊下から聞こえてきた声に目を見張った。


「間違いない。中江さんの……」


「どうしよう……早く、ここを出ないと……!」


 雪美の声に焦りがにじむ。海音はクッと歯噛みした。


(どうする!? どうやって出る!? 考えろ……導き出せ!)


 しかし、焦りのためか頭が回転しない。


 その時、鍵が開く音がした。


「――!」


 雪美がドアから離れ、座っていた海音も立ち上がる。


 ドアが開き、入ってきたのは――Xだった。


「ここにいたのか」


「高山君!? どうしたんだよ……ボロボロじゃないか!」


 Xのマントには穴が開き、肩や頬には切り傷ができていて、左手で右上腕部を押さえている。


「伊月にやられてさ。なんとか動けるから大丈夫だよ。さあ、行くよ」


「大田君に……?」


「ああ……もう正体は知ってるんだろ?」


「組織の人間……としか」


 海音は頷いた。


「アイツはベクルックス。スパイだったんだよ。――実鈴がもうすぐ来るはずだから、とにかく脱出しよう」


 Xは無理矢理話を切り上げ、廊下に出ていった。

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