第24話 行方不明

「じゃあまた明日ねー」


「じゃあなー」


 クラスメイトが次々に帰っていく。


「相賀ー、帰らへんのかー?」


 教室の入り口で、林拓真が相賀を呼ぶ。側には渡部海音もいる。


「あー……。俺先生に呼ばれてるから。先帰っててくれ」


「何や? なんかあったんか?」


「さあ? 俺も知らないんだ」


 相賀が肩をすくめると、海音は「……わかった」と頷いた。


「ほんなら、また明日な、相賀」


「また明日」


「……ああ」


 相賀は曖昧に頷いて二人に手を振った。


 教室に一人残った相賀は、瑠奈と翔太の机の中に封筒を入れた。


「……じゃあな、皆」


 小さく呟くと、教室を出ていった。


 夕日が誰もいなくなった教室を赤く染めていた。



 部屋着を着た瑠奈はベッドに腰掛けてスマホを睨みつけていた。スマホには相賀都のトーク履歴が映っている。


「全く……。そろそろ仕事だって言ったの相賀なのに……。何で既読つかないのよ……」


 ため息をついた瑠奈はスマホの電源を切った。そしてベッドの側のミニテーブルに置き、ミニテーブルに置いてあるスタンドライトの電源も切ってベッドに潜り込んだ。


 ほとんどの人が眠りについた丑三つ時。


 瑠奈の部屋のカーテンが揺れた。開けっ放しになっていた窓が開き、誰かが入ってくる。


 足音を立てないように着地した人影が雲の間から顔を出した月に照らされる。


 それは相賀だった。


 黒いナップザックを背負った相賀は眠っている瑠奈をじっと見つめた。


 相賀に背を向けていた瑠奈が寝返りをうち、仰向けになる。


「ん……」


「…………」


 相賀は仰向けになった瑠奈にそっと近づいた。そしてかがみ込み、瑠奈の頬に顔を近づける。


 顔をあげた相賀はそっと窓枠に飛び乗り、屋根に降り立った。そして窓を閉め、地面に飛び降りた。


 振り返り、瑠奈の家をじっと見つめて脳裏に焼き付ける。


「……じゃあな、瑠奈。楽しかった」


 小さく呟いた相賀は街灯の少ない暗い道を歩きだした。


 月はまた雲に隠れていた。



 翌日。起きた瑠奈はトーク画面を見て頬を膨らませた。


(まだ既読ついてない……。相賀のやつ……)


 しかし、同時に不安の念が押し寄せてきた。


(こんなに連絡つかなかったことなかったのに……)


 心配になった瑠奈は急いで身支度を済ませ、いつもより早めに相賀の家に行った。


「相賀ーっ、起きてるー?」


 チャイムを鳴らしながら叫んでも物音一つしない。


(……もう行ったのかな?)


 確か、今日は相賀が日直のはずだ。


 瑠奈は早足で学校に向かった。



「……いない」


 瑠奈は思わず呟いた。学校についたものの、教室には誰もいなかった。


(ほんとに、どこに行ったんだろう…?)


 相賀に電話をかけてみる。しかし、電源が入っていないというアナウンスが流れるだけだった。


「……」


 瑠奈は不安に思いながらも教科書類をリュックから取り出し、机に入れた。と、机の中でクシャリと紙の音がした。


 覗いてみると、封筒が入っている。


「手紙……?」


 封筒を手に取った瑠奈は表を見た。【瑠奈へ】と書かれている。


(相賀の字!!)


 瑠奈は慌てて封を切った。便箋に書かれた文を見た瑠奈の表情がどんどん青くなっていく。


 しばらく呆然とした瑠奈はハッとしてスマホで電話をかけた。


『ファ……。どうしたんだい? こんな朝に』


 電話に出たのは翔太だった。あくびを噛み殺しながら尋ねる。


「相賀がいなくなったの!!」


 瑠奈は机に入っていた手紙のことを話した。


『――わかった。すぐに行く』


 さっきとは打って変わってしっかりした声で答えた翔太は電話を切った。


 終話音が流れるスマホをぎゅっと握りしめた瑠奈は手紙を見返した。手紙を持つ手にも力がこもり、便箋にしわがつく。


(また……勝手なことして……っ!)



 十五分程で翔太がやってきた。


「その手紙、見せて」


 ぐしゃぐしゃの前髪を直そうとしながら息を弾ませる翔太に、瑠奈は便箋を突き出した。


 それを読んだ翔太の表情が曇る。


「『もう迷惑はかけられないからここを離れる。今までありがとう』か……」


 小さい声で読み上げた翔太はフッと笑みを浮かべた。


「ハッ、何やってんだか」


 翔太は思わず辛辣な言葉を呟いた。それに驚いた瑠奈が翔太を見る。


「ったく……。それをしたいのは僕の方だってのに……」


 独り言のように呟いた翔太は便箋を折り畳んで瑠奈に返した。


「とりあえず、授業終わったら探しに行こう。多分、そう遠くには行ってないと思うよ」


「……うん」

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