第107話 どちら側か
「相賀! 何してるの!?」
廊下を走るRは最後尾にいる相賀を振り返って叫んだ。
相賀はそこまで足が遅い方ではない。しかし、この中で一番体力がないUより後ろにいるのだ。
「……悪い」
相賀はうつむいたまま小さな声で謝った。
「もう……早く!」
Rは相賀に駆け寄ると相賀の手をつかんで走り出した。相賀は何も言わずに淡々とついてくる。
(どうしたら話してくれるんだろう……)
相賀だって、一人で抱え込むのはキツイはずだ。少しでも話してくれれば、楽になるかもしれないのに――。
『そこの角を左だ! 百メートル先に黒服が三人!』
Kが通信機越しに叫ぶ。
「OK!」
Tが真っ先に飛び出し、Xがその後に続く。
『頑張って! もうすぐで屋上だから!』
Yの声を聞きながら倒された黒服達の横を駆け抜ける。
その時、R達の前に煙幕が張られた。
「!?」
一同が慌てて足を止める。
「逃げる気か?」
煙の中から現れたのは――ベクルックスだった。
「あなた、よくも相賀に変装したわね!」
Rが身を乗り出して叫ぶ。
「フッ……それはこっちのセリフだ。よくもまあ、気づかないものだな」
あざ笑うベクルックスを、一同は悔しげに睨みつけた。
確かに、ベクルックスの変装を見破れなかったのは本当だ。何も言えない。
「Xも来るのは好都合だ。さっきはアルタイルを上手く巻いた様だがな」
ニヤリと笑ったベクルックスは指を鳴らした。側の扉から黒服達がぞろぞろ出てきて、後ろにはアルタイル、ベガ、シリウス、プロキオン、そして見たことがない男もいる。
「……普通に考えて、ベテルギウスだろうな」
相賀がようやく口を開く。
「冬の大三角も集合ってわけね」
Rが構えを取る。
「体力も回復したし、何とかやるしかないやろ」
「僕のことも忘れないでね」
TとXも笑みを浮かべる。
「その自信、いつまで持つかだな。――行け!」
ベクルックスの指示とともに黒服達が突進してくる。
「はあっ!」
R達も黒服達の中に飛び込んで行った。
「……」
組織のボスは、デスクに置かれたパソコンの画面を見ていた。そこには防犯カメラで捉えられた怪盗達が闘っている姿がリアルタイムで映し出されていた。
「抗う気か……」
ため息をついた組織のボスは立ち上がって窓の外を眺めた。天の川がもう西に傾いている。
「わかっているだろうに……」
「……俺は……」
座り込んでいた相賀はずっとうつむいていた。
と、突然胸ぐらを掴まれ、引き上げられた。
「っ!」
相賀を立ち上がらせたのは――ベクルックスだった。
「相賀!!」
Rが駆け寄ろうとするが、アルタイルに阻まれる。
「……何の用だ?」
ベクルックスは相賀をじっと見つめた。
「……貴様、何を考えているんだ?」
「え?」
「早く決めろ。どちら側に着くのか」
「……」
相賀はうつむいた。
「相賀!!」
突然、Rが叫んだ。
「何があったか知らないけど! 早く戻ってきて!」
「僕に仲間だって言ってくれたのは木戸君だろう!」
Xも蹴りを繰り出しながら叫ぶ。
「相賀君らしくないよ!」
「いつまで考えているつもりや! 相賀!」
UとTも続けざまに叫んだ。
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