第35話 新しい仲間
『A、U、警備員がだいたいいなくなったから、そろそろいいわよ』
通信機からYの声が聞こえ、ある部屋の中で待機していたAとUは頷きあった。そしてドアを開けて部屋を出ていく。
金庫は待機していた部屋の二つ隣だった。
「あー、これ、暗証番号必要なやつだよ。どうしよう……」
金庫室の扉を見たUは、サングラス越しでもわかるような困った表情をしていた。
「心配しなくていい。Kに暗証番号調べてもらってるから」
Aはウエストポーチからスマホを取り出して、Uに見せるように軽く振った。
そしてスマホを見ながらキーパッドに番号を打ち込むと、扉がスっと開いた。
「さっすが!」
Uはニコッと笑い、部屋に入った。
部屋の中央には大きなガラスケースが置いてあり、色とりどりの宝石が並んでいた。
「あ、これじゃない?」
Uが指したのは、ケースの中央付近に置いてあったアクアマリンだった。
「あ、ホントだ」
Aはさっとガラスケースを開けて、白手袋をした手でアクアマリンを手に取った。
「あーあ……今日もなのか」
突然、入り口から声がした。振り返ると、またXが立っていた。
「それはこっちのセリフだろ」
Aは笑いながらそう言った。
「しかも、ちゃんと仲間が増えてるしね。――コスチューム、変えた?」
Uのコスチュームを見たXは首を傾げた。
「ああ、もうスカートじゃ寒いしな。Rに聞いたらどっちでもいいって言うから試しに。あ、それで思い出した」
Aはウエストポーチから何かを取り出し、Xに差し出した。
「え、これ……」
Xの手のひらには、通信機が乗っている。
「今後、何かあったときの為にな。協力とかするかもしれないだろ?」
「……A、変わったね」
Xがぼそっと呟いた。
「え?」
Aは聞き取れなかったようだ。
「いや、何でもない。さ、脱出するよ」
Xはマントを翻して走り出した。
『マズイよ皆! 警備の応援が到着した!』
Kが叫んできた。
「え!? 想定より一時間も早いじゃないか!」
『近くのビルにいた奴らを招集したらしいの! 鉢合わせると面倒だから早く脱出して!』
Yも叫ぶ。
「クソッ! 行くぞ!」
Aが走り出し、XとUも続いた。
三人が屋上に行くと、RとTはもう来ていた。
「X」
「え、高山か!?」
Tが驚いたように叫ぶ。
「Xね」
Xが苦笑いしながら訂正する。
「あ……すまん」
「お、来たな」
ふと、Aが言った。
見ると、ビルの前に数台の車が止まっていた。
「増員ね」
Rがボソッと言った。
「行こう」
Aが言い、一同は頷いてメジャーを取り出した。
Xはマントの下に背負っているリュックのコードを掴む。
四人がワイヤーを発射して民家の屋根に飛び移ると、Xはコードを引っ張りながらビルから飛び降りた。
「パラグライダーか」
Tが言うと、パラグライダーにぶら下がったXは小さく頷いた。
アジトに戻った五人はそれぞれくつろいでいた。
「ハァ〜緊張したぁ」
詩乃がソファに座り、伸びをしながら言う。
「それで、ほんとにやるか?」
相賀が言う。瑠奈はそのセリフを聞いたことがあった。自分が怪盗Rとなった日に相賀が訊いてきたセリフだ。
(やっぱり、まだ迷いがあるんだ……)
当然だよね、と思う。
命すら狙われるというのに、そう簡単に巻き込めるわけがない。
仲間を失いたくないという気持ちが特別強い相賀はしつこいぐらいに心配していた。
「やるよ」
答えたのは海音だった。
「今までで一番楽しい夜だったしね」
「……瑠奈と同じ事言うじゃねえか」
相賀が呟いたが、それが聞こえたのは翔太だけだった。
「……わかった。やろう」
相賀が頷くと、海音、雪美、拓真、詩乃は笑った。
「ほら、もう夜が明けちゃうし帰ろう」
「はぁ!? もう四人現れただと!?」
某ビルの一室。男の怒声が響き渡った。
「ええ。怪盗TにU。それからナビ役としてKとYも出てきたらしいわ。この間アタシの邪魔をした奴らよ」
ベガがイライラと言う。
「どいつもこいつも……! 邪魔ばっかしてきやがって!」
アルタイルは拳をデスクに叩きつけた。金属製のデスクが拳の形にへこむ。そのデスクの上にパソコンを置いて作業をしていたデネブが顔をしかめた。
「デネブ、ベクルックス様から何か連絡きたか?」
アルタイルが尋ねる。
「……まだだ」
「ベクルックスはどうするのか聞きたいわけ?」
ベガが言ったその時、
「そいつらも生け捕りにしろ」
アルタイルでもデネブでもない男の声が響いた。
「ベクルックス様!?」
アルタイルが驚いて振り返る。
暗くてよく見えないものの、部屋の入口に人影があった。
声は偉そうで堂々としているが、そこまで声変わりはしていない。
三人はさっと跪いた。
「もう一度言う。現れた怪盗達は全員生け捕りにしろ。ただXだけは殺せ」
「はっ!」
三人が返事をすると、男は消えた。
「珍しい……」
立ち上がったデネブが呟いた。
「ベクルックス様がいらっしゃったことがか?」
「そうに決まってんでしょ。会議室に来ることなんて滅多にないんだから」
ベガはまたイライラしたように言いながら腰のホルスターからトカレフを取り出し、弄び始めた。
「デネブ。あの作戦、準備できてるか?」
アルタイルがふと訊いた。
「……ぬかりはない」
「ならいい。頼む」
アルタイルはベガと一緒に部屋を出ていった。
パソコンを操作するデネブは薄っすらと笑みを浮かべた。
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