第34話 妥協

「こんなところにいたのか」


 相賀が町外れの丘にいると、翔太が丘を登ってきた。


「翔太……。学校は?」


「早退してきたよ。で? いつまで懊悩するつもりだ?」


 翔太はベンチに座っている相賀の隣に座った。


「……アイツらが諦めてくれる方法を探してるんだよ。なんで了承したのか自分でもわかんねえんだ。それが分かれば、まだ楽なんだけどな……」


「……結局、僕と君は似てるよね」


「は?」


 相賀が間抜けな声を出して翔太を振り返る。


「仲間欲しくないって拒絶してるのに、どんどん増えてく。心のどこかでは、仲間を欲してるんだよ。一人孤独なのも怖いから。僕はそこまでじゃないけどね」


 そういう翔太のオッドアイは揺れている。


「まあ、僕が人と関わらないのは巻き添えにされる可能性があるからだけど、君はそうでもないだろ? 組織は人前にはほとんど出てこない。君は命を狙われる心配がないから大丈夫だろ? もっと受け入れてもいいんじゃないか?」


 翔太はそう言うと立ち上がり、丘を下っていった。

 

「……強がり。自分だって、欲しいんだろ」


 取り残された相賀はポツリと呟いた。



「相賀、何やってるの?」


 翌日。放課後にアジトにやってきた瑠奈は作業をしている相賀の手元を覗き込んだ。


「瑠奈、お前コスチュームスカートだろ?」


 唐突にそう聞かれ、瑠奈は「え? うん……」と曖昧に返事をした。


「これとスカート、どっちがいいか聞かせてくれ」


 そう言って突き出したのは、スカートと同じ色のスラックスだった。


「お前、前にスカート引っ掛けてたろ? ズボンの方がいいのかと思って作った」


 相賀はミシンの前に座ったまま振り返らない。


「ありがとう」


 ちょっと微笑んだ瑠奈は試着室に入っていった。


 一分ほどで出てきた瑠奈はその場で回し蹴りやジャンプを繰り返した。


「うーん、あんま変わんないけど、ズボンの方がいいかな。結構寒いんだよね、スカート」


 瑠奈が苦笑すると、振り返っていた相賀は頷いた。


「中江さんのコスチュームもそうしておく」


「うん。……って、いいの?」


「何がだ?」


 相賀は再びミシンに向き直りながら訊いた。


「詩達を仲間にするの」


「……まあ、最終的にいいって言ったのは俺だしな。それに、何かあったらその時は……。俺が必ず守る」


「……」


 決意したような声に、瑠奈はしばらく相賀の背中を見つめたあと、ズボンを履き替えに試着室に戻った。



「用意はいい?」


 廊下を走っていたRはチラリと後ろを振り返った。後ろには濃い緑色のコスチュームを着た拓真とくすんだオレンジ色のコスチュームを着た詩乃、Aがいた。


「OKだよ!」


「いつでもええで!」


『TはRと警備員を倒しに行って! その階にはいないから、もう一つ降りて』


『UはAと金庫に! 二つ下よ!』


 通信機から海音と雪美の声も聞こえる。


「サンキュー、K、Y!」


 階段を駆け下りたRとTは早速二人組の警備員を見つけた。


「行くよ!」


「おう!」


 二人は一気に警備員に近づいた。


「なっ、なんだおまっ……」


「ガハッ!」


 Rはズボンを履いた足で一人に回し蹴りを食らわせ、Tはもう一人の腹に拳を打ち込んだ。


「流石。やるなァ」


「Tもね」


 少し照れたように笑ったRは走り出し、Tも後を追った。



「そう、もうちょっとだから、少し待ってて」


 KとYはアジトにいた。


 眼鏡を外したKはヘッドセットをつけてパソコンのキーボードを叩いている。長い髪を一本の三つ編みにしたYもヘッドセットをつけて別のパソコンを見ていた。


「R、T、警備員達がその階に集まり始めてる。気を抜かないで」


 ヘッドセットのマイクを口を近づけたKが言った。パソコンのディスプレイには防犯カメラの映像が映ったウインドウがいくつも映っていた。


『OK!』


『サンキューな』


 R、Tからそれぞれ返事が返ってきて、Kはそっと唇に笑みを浮かべた。

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