第33話 懊悩

「それと、俺達の手伝いをしたいってことは、犯罪者になるってことだぞ。怪盗なんだから。それもわかってるか?」


「わかってた。それでもなんだよ」


「……意外と、しつこい所あるんだな、海音」


 相賀は言った。


「物分り良い方だと思ってたけどな。……そこまで言うなら、海音達が決めたことなら、もう反対しない。けど、一つだけ約束してくれ。必ず、死なないこと。それだけだ」


「……うん、わかった」


 海音達は真剣な表情で頷いた。


「じゃ、この話は一回終わりにしよっか。もう遅いし、帰ろう」


 瑠奈が明るい声で言う。時計の針は午前三時を指していた。



 自宅に帰った詩乃は、門扉からそっと敷地内を覗いた。


(やっぱり……)


 庭にあるウッドデッキに男が腰掛けていた。詩乃の兄、わたるだ。恒はよく、このウッドデッキに座ってぼんやりしているのだ。


 仕方ない。詩乃は普通に門扉を開けて入った。恒が驚いて門扉を振り返る。


「詩?」


 恒が立ち上がった。


「出かけてたのか? こんな時間に? どこ行ってたんだ?」


 恒は早口でまくし立てた。しかし、表情は心配している。


「大袈裟だよ。ちょっと散歩に行ってただけ。もう、お兄ちゃんは心配症だなぁ」


「大袈裟なんかじゃないだろ……。夜中の三時だぞ……?」


「テスト勉強で参っちゃっただけだよ。ほら、戻ろ。寒いもん」


 恒は詩乃を訝しげに見ながら頷き、部屋の窓を開けてリビングに戻って行った。



 やはり断るべきだったか――?


 相賀は懊悩し続けていた。


 自分の判断は正しかったのだろうか。海音達なら、とどこかで妥協している部分はなかったろうか――?


 正解など、最初からわかっていた。


 了承してはいけなかったのだ。あのまま、自分もしつこく突っぱねるべきだった。


 どうして、首を縦に振ってしまったのか。どうして、心のどこかでホッとしているのだろうか。相賀は自分の考えが理解できなかった。


「どうして!!」


 叫び、拳をデスクに叩きつける。跳ね上がったボールペンが落ち、床を転がる音が響いた。


「っ……」


 頭を抱え、崩れるように椅子に座り込む。


「俺は……っ、どうしたら……」


 母さん――。


「どうしたらいいんだ……」


 相賀の呟く声は、部屋にすら響かなかった。



「今日は……木戸が休みだな。じゃ、ホームルーム終了」


 三浦永佑が告げると共に、黒野慧悟と相楽竜一が教室を飛び出して行く。


 席について教科書を見ていた瑠奈の元に、海音がやって来た。


「相賀……悩んでるのかな」


「……うん、多分そうだと思う。あのときも妥協感あったしね。理由はわからないけど、相賀も組織に恨みみたいなのがあるらしいし……。自分も何されるかわかんないからね。だから……」


「……やっぱり、無茶だったか……」


 海音が呟く。


「……」


 窓の側に立った佐東実鈴は二人をじっと見ていた。

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