第96話 逮捕

「嘘だろ……? さっきから姿が見えないと思ってたら……」


 相賀は呆然と呟いた。


「じゃ、じゃああいつは!?」


「ああ……長髪の彼なら、眠ってもらったよ。この子は返してもらう」


 翔太は海音を軽く後ろに押しやった。


「海音! 大丈夫か!?」


「ケガしてへんか!?」


「うん、大丈夫。……ありがとう」


 海音は柔らかい笑みを浮かべた。その優しい笑みを見て、三人はホッとする。


「渡部財閥はお前らのような小さい組織にどうこうできるようなものじゃない。よほどの命知らずだな」


 キザっぽい口調で言った翔太は一瞬で男たちとの間合いを詰めた。


「おらっ!」


 翔太の回し蹴りをギリギリで避けた細身の男はナイフを取り出して振り回した。突き出されたナイフをバク転でかわした翔太はふと足を止め、ニヤリと笑った。


「後ろの二人、立ったままでいいのかな?」


「あ?」


 翔太の挑発に、細身の男の後ろに立っていた男二人が怪訝そうな顔をする。


「敵は僕だけじゃないんだよ?」


 翔太がそう言った途端――翔太の後ろから瑠奈が飛び出してきた。


「な!?」


 瑠奈は細身の男の横を通り過ぎ、立っていた男二人に向かって突進していった。


「だから言っただろ?」


 翔太が意地悪な笑みを浮かべ、細身の男に向き直る。


「テメェら……!! よくも俺達をここまでコケにしてくれたな!!」


 細身の男が怒鳴り散らすが、翔太は飄々としている。


「渡部財閥に手を出した時点でお前達は終わってるんだよ。ほら、聞こえるだろ? お前達の終わりを告げる鐘の音が……」


 翔太に言われ、細身の男はハッとした。外からかすかにサイレンが聞こえてくる。パトカーのサイレンだった。


「もうお前達に逃げ場はない。観念するんだな」


 翔太はオッドアイに暗い光を宿し、細身の男を睨みつけた。後退った細身の男は逃げ道を探すように振り返ったが、残っていた男二人はすでに瑠奈に倒されたあとで、廊下でのびていた。愕然とした細身の男はその場にガクリと崩れ落ちた。


「貴方達大丈夫!?」


 そこに実鈴が駆け寄ってきた。


「実鈴!? 警察と一緒に来たんじゃないのか!?」


 相賀が驚いて言った。サイレンはまだ遠くで聞こえている。


「貴方達がバレたらまずいから先に来たのよ。それで……この男達が犯人?」


 実鈴は床に倒れている男達を見下ろした。


「ああ。倒した男達はビル中にいるから捕まえといてくれ。俺達のことは内緒な」


 相賀が言うと、実鈴は頷いた。



「海音っ!!」


 実鈴が駆けつけた五島警部達と一緒に男達に手錠をかけていると、執事の宇野うの晴彦はるひこ唯音ゆいと桜音おとが走ってきた。そして実鈴の横で座っていた海音に駆け寄る。


「兄さ――」


 唯音は走ってきた勢いのまま海音に飛びついた。


「大丈夫か!? 何かされたりしてないか!?」


「海音お兄様……」


 後ろに立っている桜音も泣きそうな顔をしている。

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