第142話 探偵の覚悟
「それに、悪いのは君じゃない。フォーマルハウトだ。君が責任を追う必要はない」
Xがきっぱり言い切ったとき――
「お喋りはそこまでにしておけ」
冷たい声が部屋に響いた。ハッと振り返ると――ベクルックスがドア枠に寄りかかって立っていた。
「ベクルックス……」
実鈴が呆然と呟く。
「あっ!」
Xが何かに気づいたように立ち上がり、ドアに駆け寄った。ベクルックスが勢いよく閉めようとしたドアの隙間に手を突っ込み、閉められるのを止める。
「くっ……」
挟まれた右手が痛むが、ドアを開け放ったXはベクルックスを睨みつけた。
「間に合いやがって……」
ベクルックスが顔をしかめる。
「何しに来た」
「特に何も。佐東の様子を見に来ただけだ」
「違う。そっちじゃない」
Xはオッドアイでベクルックスをまっすぐ見据えた。
「フォーマルハウトがいたのに、なぜ僕達のクラスに来たのかと訊いたんだ」
実鈴がハッと顔を上げる。
(……教えてやってもいいか)
「……オレはスパイとして貴様らのクラスに編入した。だが、他にも目的がある。貴様らのクラスにいる、アクルックスを組織に引き入れるためだ」
そう言い放ち、ジャケットの内ポケットから拳銃を取り出してXの左胸に突きつける。
「――!!」
「高山君!」
「この距離なら、外さない」
静かに言ったベクルックスは人差し指を引き金にかけた。動けないXの頬に冷や汗が流れる。
「高山君避けて!」
駆け寄ってきた実鈴がXを突き飛ばし、ベクルックスの前に立ちはだかる。
「佐東君!?」
「お姉ちゃん!!」
流石のベクルックスも目を見開く。しかし、すぐに鋭い目をした。
「佐東、死にたくないならそこをどけ」
「絶対に退かない! その銃を下ろしなさい!」
「貴様、自分の立場わかってるか?」
「そんなの関係ないわ! 私は探偵よ!」
実鈴の目には、いつもの光が戻っていた。
『人を助けるんだ』
Xの言葉が脳裏に蘇る。まさに今、その時なのではないか。
ベクルックスがイライラと言う。
「……もう一度言う。そこを退け。さもないと撃つ」
「撃ちたいなら撃ちなさい。私は動かないわ」
「ダメだ佐東君! 避け――」
「貴様は黙ってろ」
Xを睨んで黙らせたベクルックスは引き金に人差し指を掛け直した。が――
(――引けない)
人差し指に、力が入らない。
(どうして……)
銃口はまっすぐに実鈴の心臓を向いている。引き金を引いてしまえば、確実に心臓を撃ち抜けるだろう。なのに。
(オレはベクルックス。今更、怖いなんて――)
自分に言い聞かせようとしたベクルックスはふと、思いとどまった。
(……怖い?)
自分の中にある感情が、わからない。
(……何が、怖いんだ)
引き金を引くことをためらう理由。何を持って、怖いと感じるのか。
(何人も殺ってきたのに。女一人殺るくらいになんでそんなに――)
その時、「やめろ!!」と声が轟いた。それと同時にベクルックスに蹴りが入れられる。
「!?」
ふらついたベクルックスが顔を上げると、そこにいたのは――
「……何しに来た、怪盗A」
怒りに燃えていた怪盗Aだった。
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