第131話 約束 

三十分後には、全員が相賀の家に集合していた。コスチュームを着て地下室に集まり、顔を強張らせて相賀を見ている。


「……さっき、メールが来た」


 相賀はスマホの画面を一同に向けた。


「ここ……」


「あいつらのアジトかな。隣町じゃない」


 雪美と海音は表示された住所を見て即座に場所の検討をつけたようだ。


「そうだ。ここから車で一時間はかかる。あいつらに指定された時間は明日の午前二時だ」


「ギリギリになるね」


 瑠奈は厳しい表情のまま言った。


「じいやに車を回してもらうよ。流石に、僕達だけじゃ間に合わない」


「……海音」


 と、拓真が口を開いた。


「宇野ハンに怪盗のこと話したんか?」


 全員がハッとして海音を見る。さも当たり前のように話していたため、スルーしてしまっていた。そういえばそうだ。


「話してないよ。けど……じいやってすごく勘が鋭くて、バレちゃった。それでも、事情は理解してくれたよ。渋い顔してたけどね。だから、車の手配くらいとかはしてくれると思う」


 相賀は顔をしかめた。それでは、宇野まで巻き込むことになってしまうのではないか。しかし、今はそれを争っている時間はない。ここは甘えさせてもらうしかない。


「……わかった。頼む」


「相賀……」


 瑠奈が声を上げるが、相賀は無視した。


 海音が電話を済ませて戻ってくると、相賀は一同を見回した。


「……ほんとは、俺一人で行こうと思った。けど、実鈴達の命がかかっている。また危険なことになるが……」


「そういうのはなしだよ、木戸君」


 仮面を握りしめた翔太が言った。


「もう僕らは、そんな覚悟とっくにできてるんだから」


 一同が力強く頷く。


「……そうだったな」


 相賀はフッと微笑んだ。


「今回のターゲットは佐東実鈴。フォーマルハウトの話からして、実鈴の家族も囚われた可能性が高い。敵の数も、何人いるかわからない。けど、約束だ。絶対に、皆無事でここに帰ってくること。……できるよな?」


「もちろん!」


「当たり前や!」


「もとからそのつもりさ」


 一同の返事を聞いた相賀は頷いた。


「よし。――行くぞ!」


「OK!」



「……ちゃん……お姉ちゃん!」


 気絶していた実鈴は何度も呼ばれ、ようやく目を覚ました。


「……紬……?」


 頭がボーッとする。軽く頭を振って、記憶を呼び覚ます。


「……っ!!」


 ようやく思い出した実鈴はガバっと身を起こした。


「……兄さんは?」


「お兄ちゃん? ううん、見てないよ。紬が寝ちゃう直前までいたんだけど……」


「……そう……」


 実鈴はあたりを見回した。コンクリートがむき出しになった殺風景な部屋で、物置のようだ。部屋の隅に段ボールが何個か積み上がっている。


 実鈴と紬は後ろ手にロープで縛られていた。


「ねえ、お姉ちゃん、ここどこ? 帰りたいよ……」


「紬……」


 実鈴はそっと紬に寄り添った。


 きっと紬は、豹変した大空を見ないまま眠ってしまったのだ。


「そうだよね、怖いよね……」


 実鈴はそう言うことしかできなかった。

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