第121話 体育祭②

「翼! 拓真は大丈夫か!?」


 翼が二年A組の待機場所に戻ってくると、相賀達クラスメートが駆け寄ってきた。


「軽い熱中症だって。さっき目を覚ましたから話してきたけど、大丈夫そうだったよ」


 翼の返事に、一同が胸をなでおろす。その時、『五分後にリレーを再開します。代表者は集まってください』とアナウンスが入った。


「よし、じゃあ円陣組むぞ!」


 永佑の声に、一同は円陣を組んだ。


「拓真の分も走るぞ! 勝つぞ!!」


 翼が叫び、一同が「おーっ!!」と一歩踏み出した。


『さぁピストルがなった! 最初にトップに躍り出たのは……二年チーム高山選手! 早い! さっきよりもすごいスピードで走っていきます!』


(……最初は、断ったけど)


 翔太の脳裏に、リレーの選手を頼まれたときの記憶が蘇った。



『え、リレーの選手?』


 翼に話しかけられた翔太は素っ頓狂な声を上げた。


『うん。トップバッターなんだけどね、瑠奈さんに頼もうとしたんだけど、次の綱引きに出るからって断られちゃって。それで、翔太も足速いだろ? だからどうかなあって』


『いや、僕は……』


 全校生徒の前で自分の姿を晒すなんて。ただでさえ、このオッドアイでクラスメート以外からは若干避けられているのだ。走るなんて――


『ええやないか高山!』


 豪快な声とともに翔太の肩に腕をまわしたのは拓真だった。


『うわっ……』


『やろうで!』


 衝撃で少し前のめりになった翔太は首をひねって拓真を見た。


『……林君も出るの?』


『ああ、アンカーでな』


『……そうなんだ』


『――大丈夫や』


 突然、拓真がそう言い、翔太は『え?』と聞き返した。


『なんかあったらオレらが守る。やから、安心せい』


 ニカッと笑った拓真をじっと見た翔太は少し微笑んだ。


『……ありがとう』


 こうして、翔太は代表を引き受けることにしたのだ。



 あの屈託のない笑顔が脳裏に蘇る。確かに、周りの視線は、他の選手に向けられるそれとは少し違う気がする。けれど、構わない。だって、自分を応援してくれる仲間がいるのだから。


「走れ翔太ーっ!」


「翔太君頑張れーっ!」


 フッと笑みを浮かべた翔太はさらに加速した。距離を詰めてきていた一年生の男子生徒との距離を再び離し、オーバーテイクゾーンに走り込む。次にバトンが渡ったのは実鈴だ。


『ニ年チーム、トップでバトンが渡った! 次は佐東選手だ! 続いて一年チームも田中選手にバトンが渡る!』



「…………」


 拓真は保健室の窓から校庭を見ていた。額に冷却シートを貼ってはいるが、それ以外は特に何事もないようだ。


 校庭では、さっきよりも白熱したリレーが行われていた。実鈴が一年チームとほぼ同時にバトンを渡している。次に走り出したのは光弥だ。


「……スマンなァ」


 思わず口に出していた。きっとみんなは、こんなことを聞いたら逆に怒ってきそうだが……


「勝ってくれ」


 心から、そう願う。

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