第104話 組織のボス
思い出した相賀は息を付きながら前髪をくしゃりと掴んだ。
「クソッ……何で今日に限って、通信機壊れてたんだよ……」
廊下を走っていたとき、通信機が繋がらないことに気づいたのだ。
その時、相賀はコスチュームのジャケットを着ていないことに気づいた。
「……何で……?」
テーザー銃で気絶させられるまで、ジャケットを脱いだ記憶はない。
と――突然、扉の向こうから機械音がした。
「――!?」
相賀は驚いて扉を振り返った。扉が横に開き、入ってきた人物に目をむく。
「やっぱりお前か……!!」
相賀は扉から入ってきたフォーマルハウトに向かって吠えた。
「どういうつもりだ! 大沢伊月!!」
相賀のジャケットを着たフォーマルハウトはニヤリと笑って被っていたマスクを破り取った。その下から現れた素顔は――大沢伊月だった。
「よくわかったな」
「わからないほうがおかしいだろ。――何の目的で俺に変装した!? あいつらに……瑠奈達になにかしたんじゃないだろうな!?」
伊月の問いを一蹴した相賀は再び声を荒らげた。
ベッドの柵に繋がれた右手が激しく動き、手錠がガチャガチャと鳴る。
「狙いは俺なんだろ!? 瑠奈達に手出すな!!」
息をついたフォーマルハウトは素早く拳銃を相賀の額に向けた。
「――っ」
「少し黙れ。安心しろ、殺しはしてない」
「殺しはって……」
「それより来い。ボスがお前に会いたがっている」
「え?」
相賀は目を丸くした。ベクルックスはベッドの柵から手錠を外し、素早く相賀の左手にはめた。後ろ手に拘束された相賀はうつむいた。
「……こんなのされなくたって逃げねぇよ。お前達相手に勝てる気しないからな」
「お世辞はいらねぇ。――行くぞ」
ベクルックスは相賀の手錠の鎖を掴み、相賀を押すようにして部屋を出た。
「……お前らのボスは、どうして俺に会いたがっているんだ?」
廊下を進みながら相賀がベクルックスに投げかけると、ベクルックスは意味ありげな笑みを浮かべた。
「それはオレよりボスの口から聞いたほうがいいな」
「……」
相賀の胸に、さらに違和感が渦巻いた。
階段を上がって最上階についた二人は更に廊下を進んだ。
「ここだ」
ベクルックスは廊下の突き当たりにある豪華な両開きの扉の前に相賀を連れてきた。そして扉をノックする。
「ボス、ベクルックスです。怪盗Aを連れてきました」
「入れ」
中から低い男の声が返ってきて、扉が内側に開いた。
扉を開けたのは屈強な男二人だった。
「シリウス、プロキオン、下がれ」
ベクルックスが言うと、シリウスとプロキオンは部屋を出ていった。
正面の壁はガラス張りになっていて、その前に木彫りの豪華な机が置いてあった。そこに男が背を向けて座っていた。
四十代くらいの背の高い男だ。
「よく来たな、木戸相賀」
「――っ!」
相賀は男の声に凍りついた。
(何なんだ……この威圧感は……!)
低く、それだけで相手に圧を感じさせる声。相賀の体中に鳥肌が立った。
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