第22話 隠し事

 目を覚ました瑠奈は、相賀と一緒にアジトにいた。


「あーあー……。ジャケット焼け焦げてるじゃねーか」


「しょうがないじゃん……ケホッ。爆発にまきこまれたんだから」


 瑠奈が軽く咳をしながら答える。


「まあ、あれだけの爆発で軽い一酸化中毒で済んだんだから、翔太と自分の悪運に感謝しとけよ」


「わかってるよ……」


 瑠奈は軽く口を尖らせながらコップに入った水を一気に飲んだ。


 相賀は瑠奈のジャケットを繕いながら厳しい表情をしていた。


(あの爆発は組織のせいだと言うか……? もうこれ以上瑠奈を巻き込むのは危険だ……。もしかしたらあれは瑠奈を狙ったものかもしれないし……。でも、瑠奈のことだ……。言ったってついてくるに決まってる……。でも言わないのも……なあ……)


 相賀が悶々としていると、側に置いていたスマホが震えた。見ると、翔太から電話がかかっていた。部屋の隅に寄り、電話に出る。


「なんだ?」


『君、石橋君に全部言おうとしてるだろ?』


 出し抜けに図星を刺され、相賀は返答に困った。


『やっぱりね。電話してよかったよ』


「……そう言うってことは、言わないほうがいいってことだな?」


『ああ。石橋君に言ったってどうにもならない。それに、あれは組織のせいじゃないかもしれない』


「え?」


 相賀は思わず聞き返した。


「どういうことだよ?」


『奴らに殺されかけてる僕に言わせてもらうと、奴らは今まであんなに派手に出てきたことはなかった』



 自室の窓枠に腰掛けて電話をしていた翔太は長い前髪をかきあげた。赤い右目があらわになり、月光に照らされて淡く光る。


「前に僕が撃たれたときだって、サイレンサーをつけてライフルで撃ってた。しかも真夜中にね。君達があそこにいなくて僕を撃ち殺せた場合、死体の回収にも来てただろうね。証拠を残したくないから」


『……ほう』


「でも今回は派手に爆発させて、警察や野次馬を呼び寄せている。しかも誰かが爆死した場合、遺体を回収するのが難しい。どこに飛んだかわからないし、警察とかもいるしね。そこから見て、組織じゃないかもしれないんだ」


『なるほどな』


「でもこれは確定事項じゃない。何らかの理由で爆弾を仕掛けた可能性もある。だから……石橋君に追求されたときは誰か知らないバカが仕掛けたとでも言っておいたほうがいい」


『わかった。サンキューな』


「ああ」


 電話を切った翔太は、西に沈みつつある月を見ながら呟いた。


「本当に組織の仕業なら、木戸君達より僕を狙うはずだからな……」



 スマホを耳から離した相賀はデスクに近づいた。


「今の電話、翔太?」


 瑠奈に尋ねられ、一瞬言葉が詰まる。


「……ああ。瑠奈は大丈夫かだってよ」


「ふーん……。で? あの爆発、相賀はどう考えてるの?」


「……どっかのバカが仕掛けたんだろ。後は警察がなんとかしてくれるだろ」


 瑠奈は素っ気無い態度の相賀を訝しげに見つめた。



 月曜日。自分の席に座っていた実鈴は教室に入ってきた相賀を険しい目で見つめた。


(……ツインタワー爆破の時、木戸君は現場にいた。しかもあの反応はただの野次馬じゃない。タワーに駆け込もうとさえしていた……)


 実は、実鈴はあの現場に駆けつけていたのだ。


(高山君と同じね……。調べて見る価値はありそうね)


 心の中で頷いた実鈴はスマホを取り出し、メールを打ち出した。

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