第8話 仲違い
金曜の夜十時。瑠奈はコスチュームを着てアジトにいた。そばでは、相賀が焦った様子でパソコンを操作している。
「何かあったの?」
瑠奈が聞くと、相賀はパソコンを閉じた。
「実鈴が服部優馬を突き止めて山口邸に乗り込んでる。多分、ほっとけばペンダントは朝井さんの元に戻るが……どうする? 今回は手を引くか?」
尋ねられた瑠奈は少し迷ったが、
「行く。私が取り戻すって決めたんだから」
迷いのない瞳で答えた。
「……一歩間違ったら、逮捕されるぞ」
「そんなのいつものことでしょ。ちょっと面倒くさい敵がいるってだけよ」
「そんな優長なこと言ってられないだろ!」
突然、相賀が怒鳴って立ち上がった。
「お前今の状況わかってんのか!? どこまで楽観的なんだよ! お前はもっと頭が働くやつだろ!?」
「相賀……?」
相賀は少し怯えた瑠奈を見てハッとした。
「俺は……お前を仲間にしたときに決めてたんだよ。お前をなるべく危険な目に合わせないって。もし捕まったらどうする? 正体が露見して自滅するだけだ。だったら……今回は――」
「……何それ」
瑠奈は相賀の言葉を遮った。
「え?」
「人にどうするか聞いといてそれ? 相賀ならわかってくれると思ってたのに」
「瑠奈……?」
今度は相賀が狼狽える。
「自分の身くらい自分で守るよ! 子供扱いしないで!」
怒鳴り返した瑠奈はアジトを飛び出した。
「瑠奈!」
相賀が叫んだが、振り返らなかった。
「違うんだよ瑠奈……」
アジトに残された相賀はポツリと呟いた。
(事態は瑠奈が思ってるより深刻なんだ……。心配してるのは実鈴のことじゃない。奴らで……)
相賀はパソコンを再び開いた。重なっているウインドウの一番下にあるウインドウをクリックし、表示する。そこにはあの大男が写っていた。
(コイツ……いくら調べても何も情報が出てこない……。裏社会の組織だろうけど……俺らが狙う宝石は大体この組織が一枚噛んでる……。まあ今回は関係ないけど……。何なんだよこいつら……)
険しい目をしていた相賀はパソコンを閉じた。
(今はまだ話すときじゃないか……組織のことも、俺のことも……。人の事ばっかり心配するやつに俺のこと話しても困らせるだけだ……。けど……、なんと言われようと瑠奈は守ってみせる。俺が決めたことだから)
決意の色を瞳に宿らせた相賀はアジトを出ていった。
Rは山口邸の近くにあるビルの屋上にいた。
髪を髪ゴムで一つにまとめ、サングラスをかける。
(待ってて雪美……。絶対取り返してみせるから!)
Rはワイヤーを発射し、山口邸の屋上に飛び移った。そして屋敷の中に入っていった。
Aはワイヤーを使って山口邸に向かっていた。
(通信機にも応答がない。アイツは一度頭にきたら周りが見えなくなる……無茶して自滅すんなよ、瑠奈……!)
無事でいてくれ――Aは心の中で祈りながら全速力で民家の屋根を駆け抜けた。
山口邸の中に侵入したRは廊下を走っていた。
「えっと、階段は……」
いつもならAが教えてくれていたと思い出し、チクリと胸が痛くなる。
「あそこまで言わなくても良かったかな……」
しばらく走ったRはようやく階下に行く階段を見つけ、駆け下りていった。
実鈴はC班を連れて地下の廊下を走っていた。
「私としたことが……全員を集めるんじゃなかったわ……」
廊下の突き当りまで走り、右に曲がって姿を消した。
そこから一分程したあと、実鈴が通り過ぎたドアからRが顔を出した。
「危な……。気を付けないと」
今回は一人なんだから――活を入れ直したRは実鈴達が進んだ方向と逆方向に走り出した。ある扉に辿り着き、扉を開ける。中にはいくつかのガラスケースが置かれていた。
『山口邸にある地下室には宝石が沢山ある。ペンダントを隠すならそこだろう。自分の部屋じゃ、掃除に来た使用人に見つかる可能性が高いからな。その点、宝石がある部屋には山口禮士の許可が必要なんだ。掃除も頻繁にはできない。鍵さえ手に入れれば部屋に隠せるし、部屋の隅にでも置いとけば簡単には発見できないからな』
以前相賀が言っていたことを思い出し、部屋の隅に向かう。
「……あ」
隅に放置されていたビニール袋を見つけたRは、拾い上げて開けた。中には通帳や財布、そしてペンダントが入っていた。
「あった……!」
袋をウエストバッグに入れたRは嬉しそうに部屋を出た。
「意外と楽勝……。これなら、Aがいなくても……」
「楽勝ねえ……。本当にそうかしら?」
突然開いた扉の裏から声がして、Rは驚いて飛び退った。扉の裏から出てきたのは――実鈴だった。
「な、なんで……? さっきあっちに……」
「ええ、行ったわよ。その後戻ってきたのよ。防犯カメラにあなたがバッチリ映っていたから……」
狼狽えていたRはくっと奥歯を噛み締めた。防犯カメラをハッキングするのを忘れていた。それはAの担当だから――。
「……まあ、いいわ。あなたを倒して逃げればいいだけだもの」
声色を変えたRは空手の構えをとった。
「あなた、盗んだペンダントが何なのかわかっているの?」
「ええ。中学生の女の子のものなんでしょ? 私達はいわゆる義賊。そういういわく付きの物しか盗まないわよ」
「私達、ねえ……」
フッと笑った実鈴はスマホを取り出し、Rに突き出した。画面には――警官に取り押さえられたAが写っていた。
「!?」
Rが動揺した隙に実鈴は一気に間合いを詰めた。
「っ!」
強烈な回し蹴りをギリギリで避けたRは体制を低くして実鈴のパンチを避け、実鈴の腹を狙って正拳突きを放った。
バックステップで正拳突きをかわした実鈴はジャンプして再び回し蹴りを繰り出した。それを払い落としたRがパンチを放つが、実鈴が右手で受け止める。
「あなた達がどうして怪盗をやっているのかは知らないけど! 義賊だろうがなんだろうが犯罪は犯罪! どんな理由があっても許されることじゃないわ! 大人しくしなさい!」
Rは唇を噛みしめると受け止められている手を振り払い、回し蹴りを放った。実鈴が左腕でガードする。
「何も知らないのに説教しないで! わかってるわよ、犯罪だってことは! けれど、私達はこれ以外方法がないの!」
(相賀の闇を一緒に背負ってあげられるのは私だけ。相賀がどんな想いで怪盗をやってるか知らないくせに……!)
その時実鈴が、がら空きのRの脇腹に蹴りを入れた。
「!」
なんとか避けたRだったが、片足を上げたままだったため、バランスを崩して倒れ込んだ。その右手首を実鈴がつかむ。
「捕まえたわよ」
「っ……」
(嘘……ここで終わるの? 私……まだ相賀の役にたててない……。…………違う。私が相賀の足を引っ張ったんだ。相賀の言うとおりだった……。人の事ばっかり心配して自分のことは一ミリも考えてない……)
このまま自滅か……。Rが諦めかけたとき、天井の通風口から玉が落ちてきた。それが床に当たった瞬間――白い光があたりを包んだ。
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