第220話 集合

「…………」


 五島警部は、眉を下げた。


「……実鈴君。頼りないかもしれないが、何かあったらいつでも言ってくれ。まあ、こんなおっさんに言われても、と思うかもしれないが……」


『……いいえ。ありがとうございます、警部』


 いつもよりも、低い声。五島警部には、早く電話を切りたいという意思表示に思えた。


「ああ。また何かわかったら連絡するよ」


『はい』


 電話を切った五島警部は、息をついて背後の壁に寄りかかった。


(兄と慕っていた人間に裏切られ、挙句の果てにそいつは捕まった……か)


 言葉にしてみれば、あまりにも残酷な出来事だ。心を病んでしまうのも、無理はない。まして、実鈴と紬は多感な時期だ。精神的なダメージが増幅されてしまったのだろう。


(なにか手助けしたいものだがなあ……)


 実鈴の言い方からして、今は放っておいて欲しいのだろう。それなら、今口を挟むべきではない。


 だが、放っておいたら、取り返しのつかないことになりそうで。


 自分の非力さがもどかしく、五島警部は唇を噛み締めた。



 事件から、三日後。


 現場検証も終わり、ひっそりとしている教室に永佑が入ってきた。倒れていた机や椅子も元通りに並べられていて、まるで何もなかったかのような教室を見回す。


 学校は、本来なら今日まで臨時休校だ。だが、家でじっとしていることが出来ず、教室に来てしまった。


 フッと息を吐けば、空気が一瞬、白く曇る。


(……あいつら、大丈夫なのかな……)


 怪盗達は、いつの間にか屋上から姿を消していた。何も訊くことができていないし、事情もわからない。自分達は完全に蚊帳の外だった。


 しかし、なにか深い訳があるのだろうと、それぐらいは察していた。そしてそれにより、相賀達が苦しんでいる、ということも。


 正直、あの時伊月が話していた事は、まだ理解しきれていない。だが、理解する必要もないのだと思っていた。自分達が理解したところで、何も出来ないから。


 永佑は教師だ。困っている生徒がいるのなら、導くのが仕事だ。しかしこの問題は、永佑の手が届く範疇にはない。


(教師って、重要なことには踏み込めないんだよなあ……)


 ギュッと拳を握った時。


「――先生」


 背後から、声がした。驚いて振り返ると、慧悟達が入口に立っていた。


「皆!? どうして……」


「先生と同じ理由ですよ」


 光弥が苦笑する。


「……それもそうか」


 永佑が頷くと、一同は教室に入ってきた。当然の事ながら、相賀達九人の姿はない。そして。


「……安藤は?」


 翼の姿も、ない。


「連絡はしたんですけど」


 竜一が眉をひそめる。


「折り返しがないんです。多分……高山レオンのこと、知ったから」


「ああ……」


 確かにあの日、翼はずっとショックを受けていた。事情聴取でも、掠れた小さな声で受け答えしていたらしい。

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