第211話 考え

 学校から少し離れた住宅街。一台の乗用車が走っていた。運転しているのは――五島警部だ。


 雨月と初月を警察署に送った後、やってきたのだ。


 五島警部は車を道路の脇に寄せて停めた。そして校舎を見上げる。屋上のフェンス越しに、人影が見え隠れしている。


(……実鈴君)


 実鈴は、クラスメート達は、無事なのだろうか。


 と、その時、無線が入った。


『星の丘中学校の屋上で、複数人の部外者が暴れているとの通報あり。急行せよ』


「な……!?」


 五島警部は驚いて目を見開いた。



「う……」


「海音君!」


 気絶していた海音の顔を、雪美が覗き込む。


「大丈夫!?」


「雪美さん……ごめんね。銃声で気絶とか、情けないなあ、僕……」


 苦笑しながら起き上がった海音は、すぐに真剣な表情になった。


「状況は?」


「う、うん。教頭先生が気づいちゃったみたいで……多分、警察が来ちゃうと思う」


「……ひとつ、考えがあるんだ」


 そう言ったKは、首に掛けたままのヘッドセットを頭に着けた。



『皆!』


 通信機から突然Kの声が聞こえてきて、Aはハッとした。


「K!? ずっと反応無いから心配したぞ!」


『ごめんね、銃声で気絶してたみたいで……もう大丈夫。それでひとつ、考えがあるんだけど――』


「……ある意味賭けだね、それ」


 フォーマルハウトに回し蹴りを放ったXが、ポツリと呟く。


「成功するのかどうか怪しいところだね」


「お前、たまに無茶なこと言うよな」


 そういうAの口の端は上がっている。


『無茶じゃないよ。できるでしょ?』


 Kの声は挑戦的だ。


「やってやるよ。そろそろ決着をつけたいしな」


 Aの声にも笑いが含まれる。


 だが、瞳には光がないままだった。そして、それに誰も気づいていなかった。


「行くぞ!」


 Aの掛け声に合わせ、怪盗達はフェンス側に飛び退いた。


「何をする気だ? その気になれば、貴様らを皆殺しにして逃げることも可能なんだぞ」


「そんなこと絶対にさせねーし、する気もねーだろ」


 ベクルックスの言葉を一蹴したAは、ウエストポーチに手を突っ込んだ。


「K、囲んだぞ」


 自ら戦闘を放棄し、実鈴に拘束されたベテルギウスとベクルックス以外の幹部は、全員が怪盗達の輪の中にいた。


『了解! GO!』


 Kの合図に合わせ、五人は一斉に飛び出した。


 Rは自分の腹めがけてくり出されたアルタイルの拳をかわし、背後に回り込んだ。続けざまに飛んできた後ろ回し蹴りもさばくと、さっき自分が立っていた場所と対角線になる場所に走っていく。


 Aはベガが突き出してきたナイフを体を傾けて避けた。切っ先が右頬を掠めるが、構わずに走り抜ける。


 なんとか立ち上がれるまでに回復したUは、持ち前のすばしっこさでシリウスの攻撃をやり過ごす。


「何する気だ!?」


 Tは、プロキオンの問いには答えなかった。プロキオンが慌てて薙ぐように飛ばした腕をガードし、足払いをして走る。


「正面から突っ込んで来るとはなあ!」


 フォーマルハウトはXのこめかみに向けてハイキックを飛ばした。体をかがめてかわしたXは高くジャンプし、フォーマルハウトの肩に手を着いた。新体操の木馬のように両足を上げてフォーマルハウトを飛び越え、着地する。

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