第169話 PS
(……あれ?)
画面を凝視していた瑠奈は半分ほどフレームアウトしているものの、PSと書かれているのに気づいた。
(追伸?)
「……ねえ、これ――」
「――すぐ行くぞ」
相賀は瑠奈の声には気づかず、ソファにかけていたジャケットを羽織りながら言った。
「え」
しかし、瑠奈達は驚いたように相賀を見つめて動かない。
「……どうした? 行かないのか?」
デスクに置いていたサングラスを取った相賀が、五人を振り返って怪訝そうな表情をする。
「……いや、行くけど……相賀が一人で行くって言わないの珍しいなって」
「……ああ、そういうことか」
相賀は腑に落ちたように頷いた。「だって」と諦めたように笑う。
「信じてほしいんだろ?」
「…………」
呆気にとられたような表情をした瑠奈達はフッと微笑んだ。
「もちろん!」
「行くで!」
「うん!」
瑠奈と拓真、詩乃が頷き、雪美が髪をまとめ、海音が眼鏡を外す。
「ここ、流石にワイヤーで行くのは遠いからじいやに車出してもらうよ」
「え、こんな夜中だぞ?」
ウエストポーチに荷物を詰めていた相賀が驚いて振り返る。時計は午前三時半を指している。
「大丈夫。こんなこともあろうかと、待機してもらってるから。じいや、すごくショートスリーパーだし」
「……わかった。頼む」
だとしても、宇野は見た目からして七十歳は超えている。こんな夜中に動いてもらうのも申し訳ない、と思いつつ、相賀は頷いた。
今は、頼るしかない。
十分ほどして、宇野のSUVがやってきた。
「……頼んだよ、皆」
「ああ。絶対に救い出す」
海音、雪美から信頼を受け取った相賀達は外に出て、SUVに乗り込んだ。
「…………」
一番後ろの席に座った相賀は持ってきたパソコンを開いた。先程のメールを開き、スクロールしてPSの続きを表示させる。
『覚悟はできているよな?』
ベクルックスからの挑発メール。相賀は、この言葉が何を意味しているのかわかっていた。
(……大丈夫。たとえバラされたとしても、皆なら……俺を信じてくれてるから。俺だって皆を信じてる。俺が恐れていることにはならない……はず)
瑠奈達は、自分達を信じてほしいと言った。もちろん、信じている。だからこそ――怖い。
相賀は小さく首を振り、パソコンを閉じた。
(大丈夫。絶対に大丈夫だから……)
幼い子どもを宥めるように、何度も心の中で繰り返す。だが、不安は払拭できなかった。
「っ……」
眠っていた翔太は目を覚ました。ぼやけた視界が鮮明になってきて、薄汚れた床が見えてくる。
「……?」
まだ頭は働かず、状況が飲み込めない。
だんだんと感覚が戻ってきて、手首や腹のあたりに圧迫感を感じる。チラリと後ろを見ると、パイプに後ろ手に縛られているのが見えた。
頭が回り始め、記憶も蘇ってくる。
そうだ、自分は……
(どうしてこうなって……)
顔を上げると、右の壁際に置かれた長机でベクルックスがパソコンを操作していた。
「……どういうつもりだ? ベクルックス」
翔太が口を開くと、ベクルックスは手を止めた。そして翔太を振り返る。
「……貴様は怪盗共を釣るための餌だ」
「っ……!」
翔太は目を見開いたが、すぐにうつむいた。
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