第193話 襲来
「次も数学だっけ?」
ジャージに着替えて教室に戻ってきた明歩は、愛と柚葉に尋ねた。
「あ、そうそう。授業変更で、明日の数学が今日に来たみたい」
愛が答える。
「永ちゃんの数学はわかりやすいけど、やっぱ苦手だからだるいなあ……」
「てか、永ちゃんまだ様子変だよね」
柚葉が黒板を見ながら言う。黒板に刻まれた文字はいつもより不安定で、消した跡があちこちに残っている。
「昨日からだよね。大丈夫かなあ……」
そんな他愛もない話をしていると、チャイムが鳴る。
「……だから、ここにxとyを代入して式を立てる。じゃあ、問十一を解いてくれ」
(ここに代入して……答えはこうね)
すぐに解き終わった実鈴は、ふと、窓の外を見た。雪は止んでいるものの、空にはまだ黒い雲がかかっている。
(今夜凍っちゃうかしら。明日早めに出ないと……)
そんなことを考えながら何気なく下を見る。すると、校門の近くに黒い車が止まっているのが見えた。
(……何? あの車……)
しばらく見ていても、車は動く様子がない。そもそも、人が乗っている様子もない。
学校は住宅街の中にあるものの、わざわざ校門の近くに止める必要は無い。学校に用事があるのなら、校舎の裏に駐車場がある。
なぜだか、胸がざわざわする。
(なんなの? この嫌な感じ……)
シャーペンを持ったままの右手が、小さく震える。
「じゃあここを……佐東」
答え合わせを始めた永佑が、実鈴を指名する。しかし、実鈴は気づかずに窓の外を見たままだ。
「佐東?」
もう一度声をかけると、実鈴はハッと前を見た。
「どうかしたか?」
「なんでもないです……すみません」
「……なら、いいけど。じゃあ、ここの答え頼む」
「あ、はい。y=――」
実鈴が、答えを言いかけた時。バンッと後ろのドアが開く音がした。一同が驚いて振り返る。
開いたドアから入ってきたのは――大沢伊月だった。
「……!」
実鈴の顔色が変わる。嫌な予感の正体は、これか。全身に鳥肌が立つ。
「伊月!」
何も知らない慧悟が立ち上がる。
「お前、学校来ないで何してたんだよ!」
呆然としていた実鈴はハッとして立ち上がり、伊月に歩み寄る慧悟の肩をつかんだ。
「ダメ! 下がって!」
「うおっ!」
実鈴が慧悟を押し退けると同時に、伊月は懐から拳銃を取り出して構えた。
「きゃああああ!」
「嘘……拳銃……!?」
近くに座っていた香澄が悲鳴を上げ、明歩が呆然と呟く。
「全員、黙れ」
ベクルックスの低い声が、教室に響く。
「黒野、佐東、席に座れ」
「伊……月……?」
慧悟が震えながら口を開くが、ベクルックスの真っ暗な目に睨みつけられ、ひっと声を上げてフラフラと自分の席に戻った。
しかし実鈴は、その場に立ったままだった。
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