100日目 ミラクル・クリエイション(2)
まずはソーダを飲んで~、うん、ばっちりバフ付いたね。
で、次は資材を作業台の上に並べるかな? それとも型紙の調整から始めるかな?
まあ言ってもね、私が提唱している方程式なんて単純なものなのだから、『違い』とやらがあったとしても大したことじゃないと思うんだ。でもだからこそ、そのささやかな決定打を見逃さないため、私が注意深くならなきゃいけない。
そう考えて次の一手がくるのを息を潜めて見守っていたらば――――――……あれ?
例のごとくモブアバターな検証員さんは、システムパネルをおもむろに開く。そして、いきなり見覚えのない画面が現れた。
そもそもがVR内で2D動画を見せられているというややこしい状況なんだけど、今はさらにその2D動画の中で何かのソフトが起動され、その画面が映されている、みたいなかんじね。
近いのはお絵描きソフト、かなあ。
真ん中は大きな余白になってて普通に背景となる作業台が映されてるんだけど、端のほうに『スキル』だとか『レシピ』、『素材』といった項目が並んでいる。検証員さんの右手にはいつの間にか、ペンが握られていた。
そして次の瞬間――――――魔法が始まる。
私の目に、それは奇跡のような技術だった。
検証員は左手で並んだキーを操作し、右手のペンで作業台上に出現した衣装やらパーツやらをいじっていく。描画と画像編集と3Dモデリングを一気にこなしているかのような、そんなかんじ。
自在に両手を動かし、尚且つボイスによるコマンド入力なんかも混ぜつつ衣装を形作るその様は、歌いながら超絶技巧を披露するピアニストにも近いものがあった。
「とまあ、こういった具合なわけです」
私が呆気に取られていると、ゆうへい氏は動画の再生速度を速めたもので、そこからはもう益々訳が分からなかった。気付いたら、帽子ドレス手袋靴といった、クラシカルなコーデ一式が完成していた。
私はゆうへい氏と顔を見合わせ、興奮そのままに叫んだ。
「凄い!!」
「え?」
「魔法みたい! まさに奇跡ってかんじ! ミラクルクリエイションってこういうことなんだね!!」
「………………」
しかし胸を高鳴らせる私とは対照的に、彼のほうは呆れているような怒っているような、変な顔をしている。
ああ、でも、待って。これを見せる前の彼は、何て言ってた?
確か『あなたと一般ユーザーの認識の根本的な違い』があるとか何とか。
つまり、これが、そういうこと? 私にとって確かにミラクルなクリエイションであるこの作業がまさか、彼等にとっては普通のことだった……?
「まあ、平たく言うとそういうことです。そして先ほどのあなたの言葉、そっくりそのままお返しします。あなたから送られてきた動画を見たとき、我々はミラクル・クリエイションとはこういうことなのかと、まさにそう思いました」
「ええ!? 私のやってることなんてこの動画に比べたら全然普通だよ。だって普通にちまちま裁縫やってるだけだもん。こんな、ゼロからイチを生みだすようなこと、それにこんな機械みたいな正確さとスピードでなんて、とてもとても……」
「はあ……我々はシステムとテンプレートに則ってデザインやパーツに調整を加えてるだけなので、決してゼロからイチを生みだしているわけではないのですが……。……まあ、この辺り突き詰めても時間の無駄になりそうなので、今はいいとします。因みにブティックさん、このオリデザ機能のことは知っていましたか?」
「知らなーい。初めて見ました。DLCですか?」
「……当初から備わっているアプリです」
ええっ、嘘だあ!
そんなの聞いてないよ! チュートリアルのときにも教わらなかったし!
そう反論するも、クラフトアプリを開くと鉛筆のアイコンが端にあるでしょう、とあっさり論破されてしまう。
ひええ、ほんとやあ。今まさに動画で見たシステムが、私の視界にも表示されている。
「ブティックさん、工房もしくはNPCクランを訪れたことは?」
「ないです」
「チュートリアルで詳しいことはそっちで教われって言われるはずなんですけどね」
「言われました。でも自分で適当にやってて何とかなっちゃったから別にいいかなってスルーしてました」
「じゃあしょうがないですね。オリデザ機能の話は工房かクランでレクチャーされるものなのでね。文句の言いようもないですね」
そうですネ!
……まあ、実際この機能を知ってたところでってかんじではあるけれど。寧ろ最初からこんなメカニックなクラフト方法を教えられたら、私にはオリデザなんて無理だわーって匙投げてたかも。
そう思えば、私のいい加減さもグッジョブってことだよ。プラス思考、大事。
「でもでもじゃあ、そうすると通常のきまくら。プレイヤーは、型紙を作業台に広げて手描きで調整したりしない、ってこと?」
「しません。形を変えるとしたらアプリから現物のデザインを直に調整します」
「じゃあ【製図】スキルがなかった頃、レシピから製図データを取り出して描き写す作業なんかもやらなかったの!?」
「何ですかそれ。製図データなんて基本見ることすらしませんよ。スキルがなくても工房かクランに製図士いますし」
「でもとりあえず一回仮縫いはするよね?」
「しねーよ」
私が発言するごとに、なぜかゆうへい氏の声音は段々低くなってきて、ついにはぞんざいな口調で切って捨てられてしまった。
なんか怖いよ……。これ以上尋ねようものなら、もっと怒られそうだよ……。
いや。でも、でも……!
こっちにだってまだ、
******
【きまくらゆーとぴあ。トークルーム(公式)・総合】
[くるな]
気持ちは分かるがその場の勢いに流されて安易に結晶使うのはいかんよ
ちゃんと目当ての賢人に辿り着くまで貯めとけ
[ロッタ]
そろそろ星&霧ケツ、課金コンテンツにしてもいいと思うの
限定幾つまで購入可、とかで
[にゅー]
クソゲ化が進むだけ
[ナルティーク]
課金要素がゲームの進行やプレイヤーの強さに影響しないっていうのがきまくら。のいいところだってのに
[くまたん]
(画像)
うええここの扉狂力で開くのお!?
古城に狂力持ち連れてくだけでこんなに周回が楽になるとは
基本固定メンツでやってるから気付かなかった
[ミラン]
そこに限らず古城は分かりやすく狂力優遇マップだゾ
迷路とか謎解きとかほとんどガン無視で進める
[鶯*]
Pパ、とりわけ固定パ勢はこういうギミック案外と気付かないよね
NPパで且つ幅広くキャラ使ってると慣れたフィールドでも結構新鮮な発見があったりする
[ポワレ]
ファンデで森の主に会いに行けるイベントは粋だなって思った
[深瀬沙耶]
ミコトきゅんが馬鹿力発揮できる場所見つけておいでおいでしてくるの堪らないんじゃあ~
[いりす]
フィールド情報を仕入れるって点で言えば森羅会得のログ見るんも有効よ
暇なときに遠征の履歴とか眺めてるけど、何じゃこりゃって行動してるプレイヤー見つけて後で確認しに行ってみると、
隠し通路とか隠し宝箱とかあったりして面白い
[くまたん]
はー
きまくら。界は広し、だなー
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