187日目 沈黙の都(1)
ログイン187日目
さて、いよいよ【沈黙の都】パラディス・ラッシュが開幕となった。
私達はラッシュイベント初日である本日、早速探索を開始することになっている。いきなり挑戦して一日で目的を達成できるとも思ってないからね。
それに、「クー君はいつが空いてるの?」って聞いたら、「夜ならいつでも」って。クー君も「びーちゃんはいつ暇?」って言うから、私も「夜ならいつでも」って。
……要するにこれといって予定のない陰キャの集いなわけなのでね、別にあれこれスケジュールを調整する必要もなかっただけっていう。だったら少しでも早めに日程を組んで、このプロジェクトの成功率を高めようという、そういった次第なのですよ。
いや~、非リアでよかったな~! ほんっとこういうとき、非リアっていいよね~!
……ふう。
そんなわけで私は午後20時、待ち合わせ場所のレンドルシュカ南門へと向かう。クー君は既にそこで待っていた。
彼は私を認めると、おもむろにシステムパネルを操作する。すると彼のすぐそばに忽然と、二体の【オートマタドール】が出現した。
通りすがりのプレイヤーがそれを見て、ぎょっと顔を引きつらせている。
一体目は人の背丈の二倍ほどもある、でっぷりとした体格のロボット。そして二体目は逆に人の背丈の四分の一くらいの、オモチャみたいなメカ。
でっぷり君は二足歩行で、チビっ子君はキャタピラーを転がして移動する仕様だ。
この二人、見たことあるな。確か銀河坑道でも連れてた子達だよね。
それにしても、まだ野外フィールドに出てもいないのにお気に入りのメカを意気揚々と登場させるクー君のこの姿勢。
そこはかとなく彼のやる気が伝わってくるね。赤紫の瞳は今日も「(`・ω・´)」の顔文字を湛え、爛々と輝いているようだよ。
けどそれはいいとして、こんな人の往来の多い場所でこんな目立つブツを公開して大丈夫なものなんだろうか。彼の性格からしてそういう行動は避けるタイプだと思ってたけど。
「大丈夫。今日は、目立ち放題」
……あ、それでいいんだ。
なんだろ、心を閉ざしがちなシャイな少年ってかんじでクー君のこと見てたけど、そういうわけでもないのかな。或いは単に気分屋さんなのか。
うーん、よく分からん子である。ま、本人が「いい」って言ってるんだし、別にいっか。
でもね、意気込みに関しては私だって負けてないよ。その証拠をクー君にも見せてあげようじゃないか。
え、スキル? ふふん、まあそう慌てなさるな読者諸賢。
私が
まずは前菜をご賞味あれってところですよ。
あ、来た来た。おーい、こっちだよー。
と、私は町の奥からやって来た二人の青年に手を振る。
「クー君、『準備抜かりなく』って言ってたよね。私今日はばっちり入念に準備してきたから、任しといて。まずは強力な助っ人を呼んでおいたから」
クー君は怪訝な顔をして、私が手を振る方向をじっと見つめた。
因みに友達を呼ぶことの許可は、一応事前に取ってある。
クー君からは「俺は好き勝手に動くつもりなのでそっちも好きにするといい」とのこと。全然期待されてないんだろうなって雰囲気はひしひしと伝わってきている。
でも彼等のプレーを見て、いつまでも同じ顔でいられるかな?
現れたのはヤギ角の青年、そして頭を白黒のツートンカラーに染めた青年だった。そう、ゾエ君、そして[
クドウさんはリンちゃんの彼氏であり、リンちゃんゾエ君ヨシヲのクラン[秘密結社1989]のメンバーでもあるそうな。今日はリンちゃんが学祭準備で来れないとのことで、代わりに彼が協力を引き受けてくれたのだった。
それにしてもクドウさん、きまくら。だとこんな動画投稿主として活躍してそうな派手なおにーさんなんだよね。髪色真っ二つに分かれてるし、ピアスめっちゃ付いてるし、ヨシヲといいゾエ君といい、リンちゃんとこのクランってなんかチンピラ感凄いなあ……。
あ、でも上下ジャージで中ワイシャツネクタイっていうのは、寧ろ体育教師感あるかも。
などと観察する私だったが、ふと視線に気付く。
隣に目を向けると、クー君が困ったように、否、困ったものを見るような目つきで私を見つめていた。それからきょろきょろと所在なさげに辺りを見回している。
はて、この反応は何なんだろう。不思議に思っている間に、ゾエ君達が到着する。
「お疲れ様でーす。お待たせしやしたーあ」
「こんばんは。……お友達は、これから来るかんじですか?」
「え? いやいや、この子ですこの子。クー君っていいます。クー君、この方達が今日手伝ってくれる人。クドウさんとゾエベル君だよ」
こんなに目立つロボ連れてるのに、気付かないなんて不思議だな。まあクー君自身はそんな派手なアバターじゃないものの、だとしてもすぐ隣にいるのに変なかんじだ。
何かが喉につかえているような感覚をおぼえつつも、私は双方に双方を紹介する。[滅べクレクレ]っていうニックネームをそのまま伝えるのもどうかなあと思って、そこは濁したけどね。
にも拘わらず、三人は各々視線をあらぬ方向へ泳がせている。
え? もしかして見えてないの? そんなことってある?
私がそう思ったのと時を同じくして、クー君が「あ」と、何かに気付いたかのような声を発した。その顔色を見て、私はちょっとたじろぐ。
彼は一見表情に乏しいから、会って間もない頃だったら分からない変化だったかもしれない。けど、きークー姉弟の表情精査に慣れてしまった今、彼の顔つきに確かに険があるのを私は見逃さなかった。
クー君は不審げな面差しのまま、システムパネルを操作しだす。
「名前、何て言った?」
「えっと、クドウさんとゾエベル君」
「クドウ……? ……それ、漢字?」
「あ、ううん。正確にはアルファベットの大文字でね? それから……」
と、こちらでごにょごにょやってる間に、対面の二人も何かに気付いたようだ。ゾエ君とクドウさんは顔を見合わせ、苦笑いをしている。
「あー……、このパターンってもしかして……」
「うははっ。気まずくて草。あ、ちな俺よっぽどのことがなきゃ
「いやまあ俺も同じくなんだけど。ってかもしこっち側の
『ぶろっく』……? ぶろっく……。
二人の言葉を反芻する私は、その意味を理解するのに数秒かかった。そして悟る。
――――――ブロック……!
「……びーちゃん、戦争でも始める気?」
「いやこっちの台詞」
ついに互いの姿を認識した三人の間に和やかな空気など微塵もなく、私は心の中で頭を抱えるのだった。
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