187日目 沈黙の都(2)
じとっと胡乱げな眼差しのクー君に、諦観したような苦笑を浮かべるクドウさん、にたあっと意地悪く笑うゾエ君。そんな三者三様の反応を順繰りに見て、すべてを悟った私は肩を縮こまらせた。
つまり、こういうことだよね。
クー君に二人が、そして二人にクー君が見えなかったのは、クー君が二人をブロックしていたから。
そして詳しい事情などは分からないけど、少なくともクー君は二人のことをよく思っていない。じゃなきゃブロックなんてしないもんね。
どうやら私は彼にいいところを見せるどころか、とんでもない地雷を踏み抜いてしまったらしい。
「おーっ、のりきゅう久しぶりじゃーん? 昔はよくそっちのデカブツで俺等の狩場を荒らしてくれたっけなあ?」
「……おまえ、エイリアンとボマーか。ルドルフ一号を壊された恨み、忘れていない」
「『エイリアン』てなんだよ」
「ヤギのおまえ、動きが人間辞めててきもい」
「ひゃひゃひゃ。照れるじゃねーかあ」
盛り上がる三人のそばで、私はおろおろと彼等の顔色を窺うことしかできない。
もーっ、男子っていっつもそう。野郎どもで熱くなると、他のことなんか眼中になくなっちゃうんだから。
って、そうじゃなくて、今はそれを野放しにしておくわけにはいかないのだ。
一見話が弾んでいるようにも見えるけど、その実空気は一触即発なバチバチ状態である。これ以上盛り上がられては敵わない。
私が集めた三人でこうなっちゃってるんだから、私が責任持ってどうにかしないと。
言ってもゾエ君クドウさんなんかは大人だから、余裕がある。と、信じたい。
私がまずフォローすべきは、クー君のほうだ。
「えっと、その様子からすると、三人は前から知り合いだったかんじなのかな?」
「知らないけどウザかった記憶ならある」
「そっ、そうなんだ。きっとよきライバルどうしだったんだね! ああああのね、二人を呼んだのには理由があって、まずこの二人、遠征においてはすっごく強いんだよ」
するとクドウさんが、降参スタンプを使った。両手を上にあげて目をうるうるさせるポーズである。
「そういうことだから今日は仲良くしような、のりきゅう……じゃ、なくて、えーと、クレクレ? 【クラーケンの被膜】を手に入れたいんだろ。俺等は飽くまでブティックさんの友人として協力しに来ているわけだから、まあ過去のあれこれはお互い一旦飲み込むとしよう」
ナイス援護、クドウさん!
それを受けてクー君は、私の顔をまじまじと見つめる。
「友達は選んだほうがいい」
……いやまあそう言いたくなるのも分からなくはないけどさっ。
概算年下の子に真顔で諭され、何とも言えない気持ちのワタクシ。けどとにかくクドウさんの口添えもあり、クー君も一先ず話を聞く態勢にはなってくれたようだ。
「それにね、こちらのクドウさんは何と、【
「ふん……」
そう、【泡の鱗】。このハイスキルを彼が所持しているという事実は、クー君にとっても価値の大きい要素だろう。
【泡の鱗】は、時間無制限でパーティ全員に潜水能力を付与するという、水中フィールドにおいてはとってもありがたいスキルなのだ。
クー君も私も、【潜水】スキルは未所持。それで当初はクー君お手製の【空気タンク】を使用する予定だったんだ。
これがあれば、水中フィールドでもぐんぐん潜っていけるそうだ。
けどこのアイテムにはスキルとは違ってネックもあって、その一つがまず特殊装着アイテムの分類であること。つまりこれを身に着けると、他の装備アイテムから得られる恩恵が一つ分減ってしまうの。
加えて、タンクに蓄えておける空気は最大一時間分なんだって。だから一時間ごとに水上にあがらないと、空気枯渇でゲームオーバーになってしまう。
帰りのことも考えなきゃいけないから結構シビアだよね。いつもの遠征より考えて行動しなければならない。
そもそも潜水持ちでない私にとっては、それでも空気タンクを借りられるのは大変ありがたい。けど、時間無制限にして特装スロットも圧迫しない【泡の鱗】が使えるっていうんなら、絶対そっちのほうがいいよね。
このスキルの重みはクー君にも響いたようで、クドウさん達を見る顔つきは少し変わったようだ。
よしよし、クー君が合理的な考え方のできる子でよかった。険悪な空気はちょっとだけ和らいだね。
この勢いとノリで、過去にあったらしき何やかんやは押し流してしまおう。そう、今こそ私の、“本日最大の仕込み”の出番なのですよ!
「そういうわけだからよろしくね。みんなで仲良くラッシュ攻略楽しもうね! でねでね、私の準備してきたものは他にもあってね。じゃーん、みんなにこれを見てほしいの!」
言って私は、スキル【レオニドブリッツ】の効果内容を共有画面に映し出す。
「見てみて! 凄くない? まさにこの日のためのスキルだと思うんだ!」
「ふーん……」
「これは……」
「おお……」
レオニドブリッツ:任意発動スキル 消費70~ 周囲一帯に雷を迸らせ、対象に雷属性ダメージを与える(範囲・大)
そこにはそんな文字の羅列が燦然と輝いている。私は誇らしげに胸を張り、息を呑む皆の次なる反応を待った。
「この日に一番の迷惑スキル、作ってきた」
「これは……使えねー……」
「ぎゃはははは! ビビアさん情弱で草」
え……。と、しばらく思考が追い付かなかった。
言われていることの意味が分からない。
あれ? もしか私、別の関係ないスキル表示してる?
慌てて確認したけど、間違いはない。じゃあなんで?
呆然とする私に向けて、三人は容赦ない言葉を次々淡々と告げた。
「雷属性のダメージスキルは、水中フィールドでは御法度」
「水中独特の仕様なんですよ。雷属性のダメージスキルなりアビリティなりは、使うと自分もダメージ食らうんです。感電ってやつですね」
「しかもこれ広範囲スキルでしょ。こんなん打ってたら味方全員諸共
「対象が単独の【カミトケ】なんかは、自分が雷耐性の装備で固めてたら何とかなったりもするみたいですけどね。これカウンターは発動者のみならず周りにいる俺等全員食らうんで。今からこのスキルに合わせて全員の装備整えるなんてのもナンセンスですし、却下で」
「ただでさえ装着スロットはドールでぱんぱん。水中と暗闇対策もしなきゃいけないし、これ以上の調整は無理」
「頑張って雷ダメスキ使うよか、物理で脳筋ゴリ押しのほうがよっぽど楽に攻略できるんですわ。まあ前提がめんどいフィールドではありますけど」
雷属性ダメスキが、都では御法度……? 自爆同然の凶悪行為……?
そんな……じゃあここしばらくの私の努力は一体……。そもそも目標としていたものが完全に間違っていた……?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます