3日目 コミュニケートミッション
ログイン3日目
さて、今日こそ外に出るぞ。と、思ったのだがその前に。
何やらギルドアプリ更新の通知がきているようだ。これを先に確認しておこう。
アプリ画面を開くと、ミッションに新しい種類が追加されている。その名も『デイリーミッション』と『コミュニケートミッション』。
デイリーのほうは想像通り簡単な指令が揃っており、一日ごとに復活するログインボーナスのようなものだった。『アイテムを三つ生産しよう』とか『アイテムを三つギルドに納品しよう』とか、そんなの。
『コミュニケートミッション』のほうは、NPCと接することにより達成していくミッションのようだ。昨日シエルと会話したことが引き金になったみたい。
こちらは『町の住人に話しかけてみよう』といったオーソドックスな指令の他、『・シエル』と書かれた特定のキャラクター名の項目がある。
開いてみると、昨日会ったシエルの全体画像と共にこんな文章が現れた。
【進行中のイベント】
・シエルのファッションチェック!
進行度:■□□□□
報酬:100GP
なるほど、個々のキャラクターと繰り返し接することによりイベントが進んでって、ミッションが達成されていくってことなのかな。
これは進行度を1マス進めるごとに報酬がもらえるらしい。早速100GPをゲットできて、結構おいしい。
ミッションの確認はこれでOK。次に昨日店に出した商品がどうなってるかを確かめる。
店舗のほうに進み、カウンターでショップの状況を確認すると――――――おっ、売り上げ金額が増えてる! 私がいない間にも売れてるんだ。
売れたのはたったの2着だけど、初めてのお給料、なんだか嬉しいな~~。店主不在でも売れるって分かったことだし、他のアイテムも全部追加しておこーっと。
なんてにまにましながらパネルをぽちってたら、からん、とベルが鳴って扉が開いた。
おおっ、シエルちゃんじゃないの。昨日の今日で来てくれただなんて、私のこと結構気に入ってくれたのかしら?
「相変わらずしけた店ねえ。……あら、でもちょっとはアイテムが充実するようになったじゃない」
そうなのそうなの。ちゃんと気付いてくれるんだねえ~。
私は顔を赤らめた照れ笑いのスタンプを押しておく。
こうすると自分で表情筋を動かそうと意識しなくても、勝手にその感情の顔を作ってくれるのだ。コミュ障には打ってつけの機能である。
「まあ、まだまだ私には相応しくないけどね。早く一人前になって、私を唸らせる衣装を作ってみせることね」
はあい。頑張ります。
「ところで、今日の私の服装と、昨日の私、どっちがいかしてると思う?」
お、きたな。コミュニケートミッションのイベントのやつ。選択肢は……。
→今日!
昨日のほうが好きかな。
いつだって今日のあなたが一番!
よく分かんない。
この子の雰囲気から察するに曖昧にぼかされるのは好きじゃなさそうだから、三番目と四番目はないかな。ここは正直に、自分の好みでずばっと答えておくことにしよう。
そう思い、本日のシエルちゃんのコーディネートを改めて観察してみる。
今日は黄色の膝上ワンピの上に灰色のパーカーを羽織っている。足元は茶色のウエスタンブーツだ。パールのネックレスに蓋部分を毛皮で覆ったバスケット、と小物も気合が入っている。
昨日は統一感のあるメリハリファッションだったけど、今日は敢えてアイテムどうしをちぐはぐに掛け合わせることにより、ゆるい空気を醸し出しているかんじがある。
これはこれで好きではある。
ただ、シエルちゃんの髪型って長い金髪をしっかり編み込んで上で纏めた、きちんとアップスタイルなんだよね。髪型はこれがデフォなのか昨日も同じだったんだけど、このヘアアレンジだと、昨日の格好のほうが合ってる気がするなー。
ということで、二番目の『昨日のほうが好き』を選んでみた。
「あっそう」と彼女は顔色を変えずに答える。昨日と同じである。
「なるほどね。参考にするわ。じゃ、また来るから、それまでに腕を上げておきなさいよ」
言って彼女は今日もあっさりと店を出て行った。まあ、『また来る』って言ってるし、まずい返答ではなかったと思う。
一応先のシエルちゃんのミッションページを確認してみたけど、イベントの進行具合に変わりはなかった。
一筋縄じゃいかない性格っぽいし、気長に接してればその内仲良くなれると思っておこう。でもっていつか私のコーディネートで服着てもらお。くふふ。
それにしても、昨日といい今日といい、お店に顔を出してからすぐシエルちゃんが現れたなあ。
さすがに同じ日に彼女が再び現れることはないと思うけど、もしかしてこれ、私がお店に入るとお客さんも入る仕組み? 一度戻ってからもう一回入り直したら、また誰か来たりしない?
そんなことをふと思いついたので、試してみると――――――。
「あら、いつの間にこんなところにお店ができてたのねえ」
――――――からんころん、とベルが鳴り、私の推測通り、お客さんが現れた。今回はロップイヤーのマダム――――っていってもこのゲームは若々しく可愛らしいキャラデザがデフォなため、外見からは年齢は分からないのだが――――で、ウィリフレアさんというらしい。
そしてもう一度出入りすると、次には犬耳のミコトという男の子が現れた。この子は実際にアイテム購入もしてくれた。
因みに二人ともNPCである。っていうかお店の設定いじってたら分かったんだけど、今の設定だとプレイヤーは利用できないようになってたみたい。
私には都合のよいことだったので、そのままにしておこう。仮にプレイヤーが来たとしても「しょぼ」って思われるだけのラインナップだろうし、まだ心の準備もできてないしね。
で、四回目の出入りチャレンジをしてみると、今度は誰も来なかった。一日三人限定とかなのかなあ。
この辺ちょっと気になったので調べてみると、出戻り作戦で入店してくるのはやはり一日三人で、でもそれ以外にもランダムで客は入ってくるとのことだった。
その際は、もし自分がホームの別の部屋にいたとしても、ベルが教えてくれるとのことだ。お客さんは店が充実するにつれて段々増えてくるので、玄人はそのベルも基本ミュートにしちゃうみたいだけどね。
この来店客は、私がログアウトしてる間に商品を購入していった客の類とは全く別であるそうだ。
っていうかこれも調べて初めて気付いたんだけれど、昨日私が自分の店に出すつもりで行っていたアイテムの出品作業は、同時に“ワールドマーケット”への登録でもあったらしい。初期設定でそうなってるんだって。
ワールドマーケットは、要はこの世界のネットショッピングのようなものなんだと思う。
だから私が接客していない取引はすべて、マーケット上で自動で行われていたことになるようだ。
こちらもNPCとプレイヤー、両方が利用するとのことで、しかしこちらは両方に開放されているのがデフォルトのようだ。まあオートで勝手にやってくれるんなら、別に公開してて構わないかな。
あとこれも気付いちゃったんだけど、ワールドマーケットなんてものがあるってことは、もしか本当にホームだけで生産と売買を完結させることも可ってこと?
アプリでワールドマーケットを開いてみると、案の定素材アイテムも数えきれない種類のものが売られている。うわあ、なんて引きこもりに優しいゲームなんだ。
いや、さすがに引きこもらないけどね。私がマーケットとミコト君で稼いだお金じゃあ、ほんとに大したもの買えないし。
ただ、この販売に関するあれこれとキャラクターとの接触により、お金は貯まらずともGPは貯まってるんだよねえ……。
……ということで、ごめんなさい。やっぱり今日も引きこもります。
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