407日目~ シアンマゼンタ(前編)

ログイン407日目~


 それでは本日より、シエルちゃんとシャンタちゃんのお召し物を作っていくことにしよう。


 因みに今回のパーティーイベントはどんな衣装でもオーケーというわけではなく、ドレスコードなるものが設定されている。『各国の文化とマナーに則ったフォーマルな装い』でないと参加できないんだって。

『各国の』って付いてるところがミソで、例えばレスティーナの学院パーティーに参加する場合は、幾らフォーマルだからといって着物とかじゃダメっぽい。ちゃんとその土地柄に合った衣装を着ていく必要があるようだ。


 自由度がなくなると言えばそうなんだけど、世界観や雰囲気を損なわないための計らいだろうから私的には賛成である。制限がないと悪ノリでヘンテコな格好してくる人とかいそうだもんね。


 お知らせに服装例の画像が載っていた。ツインズが在籍しているレスティーナ王立学院の場合は、西洋クラシカルなフォーマルファッションが主流になっているようだ。

 舞踏会の王道ってかんじなので分かりやすい。なのでふわひらしたドレスってところは確定前提で、昨日はゾエ君と買い物がてら、色々相談もしてきたんだ。


「ここはぜひ双子のお揃いコーデでいきましょう! この間のいりしゅあライブでビビアさんが作ってたようなやつ!」

「リンクコーデね! いいねいいね、絶対可愛い。そういえばシエシャン用にちゃんとしたお揃い衣装を用意したことはなかったな。新鮮で楽しみ」


「色はどうします? やはり同じカラーで統一したほうがより双子っぽくていいですかね」

「そこなんだけどさ。ゾエ君、今回シャンタちゃんの隣に並ぶパートナーは、誰だと思う?」

「それは勿論対になるシエルさ……いや、パートナーとなると……俺?」

「そう! ゾエ君、きみなんだよ! そしてシエルちゃんのパートナーはこの私! ってなると、私達も一緒にリンクコーデで行きたくない?」


「そんな……そんなワガママ全部盛りが許されると言うんですか!?」

「許される! いや私が許す! だからさ、カラーでリンクさせるのはパートナーサイド、つまりゾエ君とシャンタちゃん、私とシエルちゃんの括りにしようよ。シエルちゃんとシャンタちゃんには色違いで形の同じドレスを着せる、みたいなかんじにすることにして。言ってる意味分かるかな」

「分かります! 確かにそのほうがパートナーとしての特別感もあっていいですね!」

「でしょでしょ!? これはもう私達が最強だよね!」

「ええ、優勝決定です!」


 我々は馬鹿である。自覚はあるので以下同文。


 そんなわけでゾエ君と無事意見も纏まり、ツインズには色違いのお揃い衣装をこさえることになった。


 色はシエルちゃんがシアン、シャンタちゃんがマゼンタってことで決定したよ。

 ゾエ君は結構明るめのぱきっとした色が好みらしい。あと夜会だし華やかにしたいよねっていうのもあり、このチョイスになりました。

 くすみカラースキーな自分じゃあんまりメインに据えない色なので、目新しいかんじがして面白そう。

 他人の感性を取り入れるのはこういうとこが良いよね。普段通りの自分に制限を設けることにより、自分の限界値を伸ばしていけるというか。


 因みにパーティーイベント本番は、ゾエ君がフレンドを募って招待ルームを作ってくれるらしい。そう、つまり私とシエルちゃん、ゾエ氏とシャンタちゃんの4人揃って、パーティーに参加することができるってわけ。

 いやもう楽しみ過ぎる。針を握る手にも力が籠もるというものだ。


 それではいざ、製図から始めよう。

 今回は【バッスルドレス】と【コルセットドレス】を合わせたようなデザインにしていくよ。

 本来矯正下着としての役割を果たすコルセット。こちらはファッションとして表に出して、ぎゅっと腰元を引き締める。

 その上で、バッスル流にスカートの背面をフリルでもりもり盛るのだ。


 来週のイベント、どうせ参加者みんな、自分若しくは自分のパートナーが主役と思ってるだろうから、自重はしない方向でいくつもりだ。TPOに沿って上品さは損なわないようにしつつ、じゃんじゃん華やかに飾っちゃうもんね。


 仮縫いで全体のイメージをざっと固めたら、まずはそれぞれのメインカラーの【ロイヤルシルク】でコルセット部分を作る。胸下から腰上を締め、肩紐を付けたノースリーブタイプ。

 インナーは、胸部分にシャーリング装飾を施した白の【ベアトップ】でいこう。


 お次はこの衣装の肝とも言えるスカート部分に着手する。今回はオーバースカートを重ねまくった四層構造でいくよ。


 まず一番内側の一段目、インナースカートは、コルセットと同じメインカラーのシルクで仕立てる。裾は短く、膝上で。


 その上の二段目は透け感とシャリ感のある【シルヴィア・ラミー】。 

 メインカラーを少し薄くした色で、ワッシャー加工の施されたものを使うよ。裾にはタックを何段か寄せて、フリルとレースで飾って、思いきりロマンティックに。

 裾は四層スカートの中では一番長く、地面に付くか付かないかくらいのかんじでいこう。

 こちらの生地は大量に用意した上で大量にギャザーを寄せ、背面に配置。後ろにボリュームと華やかさを盛るのだ。


 三段目はメインカラーをさらに薄くした色合いにして、グラデーションを演出するよ。

 使う生地は二段目と同じく透けシースルー素材の【スイートリンネル】。きーちゃんクロスなんだけど、ドット柄の刺繍加工がしてあるのがとっても可愛い。

 こちらも裾にタッグとレースを飾り、八の字オーバースカートにして重ねる。


 最上段は、ベアトップに使ったのと同じ柔らかな風合いの純白シルク。同色のケミカルレースをあしらって、下の三段スカートが見えるよう短めに配置する。


 さて、こっからが楽しいところ。

 実は背面のラミー生地を除いた三段のスカート達には、あらかじめ縦に横に斜めにとランダム――――と見せかけて実はかなり苦労して計算してるんだけど、傍目にはランダムに見えることだろう――――に縫い目を入れてある。

 なぜかって? 絞るためである!

 ひゃっほう、これが初夏のドレープ祭だ~~い!


 というわけで、私は縫い目から敢えて出しておいた糸をぎゅぎゅっと絞って、ひだ飾りドレープを作りまくった。

 ちまちま装飾用の縫い目を配置しては、仮縫いであーでもないこーでもないとバランスを整え、また製図段階からやり直し……あの時の労力が一気に報われる瞬間である。うふふ、あー気持ち良い。

 そして見よ、このアンバランスにしてパーフェクトバランス、ホイップクリームが載ったケーキのごとき愛らしく美しいドレープドレス! どんな確定演出よりもこのひと時がいっちゃん多幸感あるわーって、自信を持って言えるんだから。


 興奮のままに、仕上げも手は抜かない。ドレープを作った先端にはメインカラーのリボンをあしらったり、コルセットの上下がちょっと寂しいのでフリルを寄せたレースでデコったり。

 もりもり、もりもり。足し算引き算、しっかり意識しながら、情報量を調整していくよ~。


 さあこれでツインズ用のドレスが完成。お次は小物を作っていこう。


 まずはヘッドドレスから。

 今回は花冠に挑戦してみよう。シエシャンは牛角耳が生えてるから、斜めに被せるかんじにしようかな。

 シエルちゃんには青の【アモネモ】、シャンタちゃんにはピンクのアモネモをメインに据えて、そこに【ウィンターマリー】や【ホワイトクローバー】を絡ませながら編んでいく。【プリザーブスプレー】と【コーティングスプレー】で形が崩れないよう仕上げた。


 足元は、敢えてここだけ雰囲気を変えてみてもいいかも。

 メタリックなハイヒールにしようっと。シエルちゃんのをシルバー、シャンタちゃんのをピンクゴールドにして、近代的なワンポイントをプラスする。

 んで黒のニーハイソックスを履かせよう。


 最後にちょこっとだけお互いのを交換して、より“二人でワンセット”感を強調しようかな。チョーカーやネックレス、アームウォーマーを作る際、シエルちゃん用のにはマゼンタ、シャンタちゃん用のにはシアンを少し取り入れてみる。

 片足にも対になる色のリボンをぐるぐる巻いたら、これでコーディネート一式が出来上がり。


 じゃじゃーん、どこの夜会に出しても恥ずかしくない、クラシカルでゴージャスな双子ファッションの誕生です!



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