406日目 テロ(前編)
ログイン406日目
ワールドイベント【惑いの夜の学園パーティー】開催決定!
開催期間:6月10日14:00~6月17日13:59
季節は初夏。入学したばかりのピカピカ新入生達も、そろそろ馴染んできた頃合いでしょうか。
そんななか各国の王立学院では、
生徒達は学院内学院外に関わりなく、一人のお友達をパートナーに選べるとのこと。もしかしたらあなたにも招待が来ちゃうかも……!?
けど、はしゃいでばかりはいられないようです。
???「ふーん、面白そう。参加できないのが残念だわ。そうだ、私の代わりに可愛い部下達を送り込んでやろうかしら。マティエルに内緒でこっそり作ったお薬の効果、見てみたいのよね」
とある筋からの情報によると、なんとこのパーティーに悪の組織からのスパイが送り込まれたんですって!
それはあなたと楽しく語らったあのご令嬢かもしれませんし、あなたとワルツを踊ったあの紳士かもしれませんし、もしかしたらあなたの隣で笑うパートナーかもしれません。
様々な思惑が交差する六月の夜。
星空が照らすは真実か、偽りか、友情か、裏切りか――――――。
きたああああーーーー!
運営からの[お知らせ]に目を通した私は、独り静かに湧いていた。
それはワールドイベント開催の通知だった。
ワールドイベント自体は毎月行われているので、別に珍しいものではない。でもね、ワールドイベは毎回ピックアップされる職業があって、それが今回は【仕立屋】なんだ。
もっとも此度のイベントは結構特殊で、仕立屋がポイントを集めるのに有利だとかそういうわけではないみたい。
今までの明らか遠征職優遇な緊急イベントや、【大工】がチームの鍵を握る拠点争奪イベントなどと比べると、「こんなのピックアップとは言えない」って不満を感じる人もいるかもしれない。
しかし私にとっては有意義も有意義。滅茶苦茶テンション上がっちゃう。
なぜってこのパーティー、パートナーに選んだキャラクターに好きな衣装を着せることができるのだから……!!
わっほーい。私はアトリエにて、喜びの舞のスタンプを連打した。
読者諸賢はもうお分かりのことだろう。そう、シエルちゃんも学院の生徒、パートナーに選ぶことのできるキャラクターなのだ。
色々ややこいルールはあるみたいだけど、一旦それは置いておく。兎に角今回のイベント、私にとってはシエルちゃんと一緒にお洒落してパーティーに参加できるという、縮小版デートイベントみたいなかんじで楽しめるものなのだ。
主体となるゲームは、昨年夏に行われたミステリーデートツアーと似たかんじの、マダミス風推理ゲームになるっぽい。
前回は選ばれしデート勝者のみ参加できるものだったけど、今回はあれを誰でも、何回でも参加できるよう、汎用性の高い仕組みにしたってところなのかな。
実際に始まってみないと分からない部分も多々あるようなので、まあこの辺は追々学んでいくことにしよう。
そんなことより大事なのは、シエルちゃんに着せる衣装である。イベントは約一週間後だから、時間はありそうでない。
当然のごとく、シエルちゃん用の
私と同じことを企む人間は勿論沢山いるようで、ちらとリクエストボックスを覗いたらばぱんっぱんに依頼が詰め込まれていた。
新着リクが『306』て。やば。今まで見た中で一番大きい数字かも。
でもこれがイベント通知が来てまだ一日も経っていない時分の出来事であると考えると、この数字はさらに増えていくに違いない。
しかあーし。わざわざうちを選んでリクエストしてくれたお客様方には大変申し訳ないが、今はメッセージを読んでいる時間も惜しいのだ。
シエルちゃんの衣装を作り終えたら考えてあげてもいいけど……いやでも、そしたら今度は自分の衣装を考えたいな。
何ならこのパーティーゲームはリセットして何回でも遊べるもののようだし、シエルコスの二着目三着目を作ったっていい。他のキャラの衣装を作ったっていい。
可能性は無限大。きまくらゆーとぴあ。ばんざーい!
というわけで、完全に私利私欲の権化とかしたワタクシ、本日はおドレスのお材料をお見繕いにショップを色々回ってみることにする。
ワールドマーケットは便利だけど、やっぱり実際のサイズとか質感とか、画像と説明文だけじゃイマイチ分からないことも多いからね。
それにシエルちゃん用コスを新調しようと思い立ったのは、お知らせを見た今日のさっきなのだ。まだ構想なども全然固まっていない。
よってインスピレーションを促す一助になればいいなという考えもあり、出かけようと思い至ったわけだ。
さーあて、まずはやっぱりダナマスの[キムチって呼ぶ奴絶許(ʘ言ʘ#)]ショップに向かいますかね~。と、裏口から
「手を挙げろ」
背後で低い声が響いたと思ったら、何者かに口元を塞がれた。
こめかみにこつ、と硬く冷たいものが当たる感触。
視線をずらすと予想通り銃口が突きつけられており、私は遠い目をした。
怖かったからではない。この不届き者の正体が、声と銃、そしてタイミングにより、一瞬で分かってしまったからである。
「大人しくしろ。さもなくば……分かっているな?」
私がこくこく頷くと、不届き者は私の体をくるりと振り向かせ、自身の姿を晒した。
「お疲れ様でいすビビアさん! いやはや、突然のご無礼は承知の上でさ、お許しくだせえ。あ、脅迫は続行中すよー。言うこと聞いてくれないとバキュンどころかあんなことこんなことすげーことになりますから」
「はあ……さいですか……」
私は両手を挙げ、素直に不届き者――――ゾエ氏の命令に従った。あんなことこんなことすげーことにはなりたくないので。
ゾエ君は満足げに頷きながら、私の額を銃口でつんつんつつく。
「さて、ビビアさん。俺が今なぜこんな強硬な態度に出ているのか。聡いあなたのことですから、既に気付いているんじゃありません?」
「ええ、それはもう……。来週のパーティーイベント用に、シャンタちゃんのお召し物を作れと……」
「そゆことー。勿論報酬はたんまり弾みますぜ」
問いかけには正しく答えられたようで、ゾエ君はにかっと白い歯を見せて笑った。
けれど私は気付いていた。眠そうに半分閉じた瞼の奥で、彼の金色の瞳が爛々と妖しげな光を湛えていることに。
冗談めかして話しているが、奴は
しかしこのイカれた弟分をあまり調子付かせてもいけない。年上としての威厳はやっぱり保ちたいところ。
よって私はさも仕方がないなあとでも言いたげに、溜め息を吐いてみせた。
「分かった分かった。可愛い後輩の頼みだからね。作ってあげるよ、シャンタちゃん用ドレス」
「ひゃっほおーーーーい」
「それにしても、一体いつから張ってたの? 別にここまでしなくても……。ゾエ君、私のこと何だと思ってるの。ゾエ君とはもう長い付き合いだし、同じシエシャン推しとして
「マジすかあ? ビビアさん……!」
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