405日目 寄り道(3)

 その後の時間は、何とも気まずいものだった。


「え、おまえきまくら。やってんの? あんだけ馬鹿にしてたのに? だーっせ、くそだせ、一生アトクロに引きこもってろよ」

「っ、誰のせいだと思ってるの! いい? 私はお兄ちゃんを矯正するためにこの世界に来たの。私が来たからには覚悟しなさい。ゲームは一日一時間! これからはこれを守ってもらうからね!」

「だる。おいブティック、おまえこんなのと付き合ってるのか。フレは慎重に選べ」

「こっちの台詞だ!」


 まずお察しの通り、幼稚で賑やかな兄妹喧嘩パートがあるでしょ。

 で、一頻りぎゃあぎゃあ争った後はいがみ合う二人のことだから当然解散するかと思いきや、なぜか二人ともこのまま遠征に行くのが当然のような顔をするの。


「だってそのために集まったんだろ」

「そうですよ。お駄賃はきっちり貰いますからね」


 で、変な方向で結託した二人にぶうぶう言われながら、遠征音痴な私ときーちゃんがひいひい付いて行くっていうね。


 あんなボロクソぶちまけられた後でこの二人のお守りを一緒にさせるだなんて、きーちゃんに申し訳が立たないや。

 それにリアル兄妹であることを知ってしまったからには、居心地の悪さは倍増だろうなあって。私は私自身がリアルヨシヲと面識あるからまだいいけど、きーちゃんきっと今「知らんでいいこと知っちゃったな」って内心苦笑いオンパレードだと思う。


「ごめんねきーちゃん。私としてはもっと平和なピクニックのつもりだったんだけど……」

「気にしないで。びーちゃんに誘われた時点で、何となくこういうことが起こる予感はしてたから」

「え、そうなの? 凄いねきーちゃん。予言者?」

「あはは……。それにしても、うずみちゃんってほんとに初心者? 吸収力凄くない?」


 そうなんだよね。私はきーちゃんに倣って、前を行くうずみちゃんに目を向ける。


 確かうずみちゃんは今、レベル八十幾つとか言ってたっけか。序盤はレベルが上がりやすいシステムとは言え、初めて二か月くらいでその成長は速いと思う。

 それに彼女はプレイヤースキルも秀でている。

 だからきまくら。歴一年と二か月、レベル135の私と比べて見ても遜色ない働きをしているし、何ならうずみちゃんのほうがちょっと上な気がする。


 さすが常日頃から効率云々うるさいだけはある。私とのレベル差、経験差を、彼女は持ち前の知力とセンスで補ってるんだ。

 生産重視か遠征重視かっていうプレースタイルは勿論大きいだろうけど、うずみちゃんはとても優秀で素質のある冒険者と言えた。

 聞けば彼女このゲームを始める前は、“アトモスクロニクル”っていう私も知ってるくらいにはメジャーなゲームで上位勢だったらしい。


『兄はドのつくゲーム実力主義者なんです。……同じ土俵に立たないと、話も聞いてもらえやしない』


 そんな台詞を聞いたときから薄々勘付いてはいたけれど、やっぱりうずみちゃん、ゲーム自体は好きで得意な子なんだね。だってその口ぶりには、自分が同じ土俵に立ってきた・・・・・・・・・・という自負が表れているような気がしてたから。

 そして彼女の実力については、ヨシヲ兄も認めているふしが見て取れた。


 この四人の中で圧倒的遠征強者たるヨシヲは、当然のごとく自分以外のパーティメンバーにダメ出しを入れてくる。

 やれ「スキルのタイミングが遅い」だの、「わざわざ射程に入る馬鹿がどこにいる」だの、「【目薬】持って来いよ常識だろ」だの。


 でも私ときーちゃんにはひとこと文句言って終わるのに対し、うずみちゃんには面倒臭そうにしつつも、アフターケアが手厚いんだよね。ただ失敗を責めるだけじゃなく、ちゃんと理由や改善点を説明して、教育してる感がある。

 うずみちゃんも大人しく聞いているタイプではなくしょっちゅう言い返すからっていうのもあるんだろうけど、ただ喧嘩しているように見えて、その実二人の間では建設的な会話が成立しているのだった。


 私達とうずみちゃんとの間に生まれたその差って、可能性とか期待の有無にかかってると思うんだ。つまりヨシヲにとってうずみちゃんは時間をかけて育てるに値する人材、将来有望な冒険者ってことなんだろう。

 教わってもなかなか身に着かない私達とは違うというわけだ、ふふ……。


 そんな二人の姿を後ろから眺めていると、うずみちゃんがきまくら。に乗り込んでまでヨシヲに会いに来た理由が分かるような気がしてきた。

『兄はドのつくゲーム実力主義者なんです。……同じ土俵に立たないと、話も聞いてもらえやしない』――――――あの言葉は、一種の信頼の表れでもあったんだな。同じ土俵に立てたのであれば、お兄ちゃんはきっと話に耳を傾けてくれるだろうっていう。


「仲良いねえ。あの二人」


 呆れ半分な様子で笑みを零すきーちゃんに、私も同意する。


 ――――――ところでヨシヲ、おまえ留年してたんかーい。


 心の中で、そんな突っ込みを入れながら。




******




【きまくらゆーとぴあ。トークルーム(個人用)】



[ヨシヲwww]

は?

それ、おまえに何の関係があるんだよ


[うずみ]

だから、関係ないからこそ迷惑してるんだってば

父母は直接は何も言ってこないからまだいいよ

一番厄介なのはおじいちゃん

お兄ちゃんがそんなだからもうゲームアレルギーみたくなっちゃって、私からVRセット取り上げようと躍起になってるんだから

なぜか、素行に何の問題もない私から・・・・・・・・・・・・・


[ヨシヲwww]

……そういうことか

確かに親とは話ついてるけど、ジジイは変に大人しかったから不思議だったんだよな

あいつ、俺のことは諦めてうずみにプレッシャーかける方向にシフトしたのか


[うずみ]

ほんと勘弁してよね

なんでお兄ちゃんの問題なのに、私のほうが行動制限されなきゃいけないわけ


[ヨシヲwww]

わあったわあった

今度俺のほうからしっかり言っておくから


[うずみ]

うん……頼んだよ


[うずみ]

てかお兄ちゃんどこ行くの?

私ずっとボス部屋の前で待ってるんだけど

……ちょちょちょ、引っ張らないで!


[ヨシヲwww]

あ? ボス部屋?

それならこっちに……あー、おまえそれ違う、キング部屋のほう

はよこっち来い


[うずみ]

え、キング?

確かでっかいモグラの可愛いやつだよね

えー、会ってみたい


[ヨシヲwww]

無駄無駄

今会いに行ってもなんも意味ねーから


[うずみ]

いいじゃんちょっとくらい

さっき暇だって言ってたじゃん、暇だから二次会遠征付き合ってくれてるんでしょ

それに意味ならあるよ、お話したり、好感度上げたり


[ヨシヲwww]

減らず口叩く前に足引っ張んない程度の実力身に着けとけって話

寄り道・・・すんなー


[うずみ]

……お兄ちゃん、知らないの?


[うずみ]

きまくら。って、寄り道が楽しいゲームなんだよ




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