84日目 真実

ログイン84日目


「ジャコウ様が私を想って泣いている、ですって?」


 再びオルカ様を訪ねて話しかけると、こんな台詞を引き出せた。その顔は怒っていいのか泣いていいのか分からないといったかんじで、困惑気味だ。

 新しい反応である。よしよし、イベントは進んだようだね。

 心の中でにんまりする私を他所に、立ち上がったオルカ様は所在なさげに、あっちをうろうろ、こっちをうろうろ。


「そんな、果たしてそんなことがあるでしょうか。……いいえ、有り得ませんわ。あんな、他人の気持ちを容易く踏みにじるような男に、そんな感情があるとは思えません! ……分かったわ、あなたあの男の仲間なんでしょう! 共謀して、私を笑いものにしようとしてるんだわ! 酷い人……っ! 本当に、酷い人……っ!」


 炎の瞳に涙を浮かべて叫ぶ様は、まるで必死に何かに抗っているかのようだ。

 うーん、ジャコウ様はジャコウ様で拗らせてるけど、この人もこの人で相当拗らせてるらしい。一筋縄ではいかなそうだ。

 現れた選択肢は、『説得する』、『一旦話題を変える』、『諦める』の三つ。まあ普通に『説得する』を選ぶんだけど、ヒートアップしているオルカ様は話を聞く余裕がないようだ。


「やめて……! もうあの方の名前は出さないでくださいまし……!」


 終いには蹲って耳を塞いでしまう始末。しくしくと泣く彼女を前におろおろする私。

 けれど幾分気持ちが落ち着いたのか、やがてオルカ様はぽつぽつと語りだした。


「……そんなはずはないの。確かにあの方が私に愛を告げたこともありましたわ。でも私は、騙されたんですのよ」


 そして再び私は、過去の世界にトリップする。


 ジャコウに愛の告白と共に万華鏡のプレゼントを贈られ、喜ぶオルカ。その後二人はあの夜の花園にて、幾度となく逢瀬を繰り返し、絆を深めていく。

 ある日オルカは、昼の間に、ビャクヤにいるジャコウを訪ねることにする。自身の果樹園が豊かに実ったことが嬉しくて、沢山の果実を一刻でも早く彼に届けたいと思ったのだ。

 しかし骨董屋で店番をしていたジャコウは、無機質な瞳にオルカを映して、こう言った。


「誰だね、貴殿は」

「オルカ? ああ、ふるき仲間の一人か。名は知っているが……それで某に何の用だね」

「恋人……。何かの間違いでは? 某が貴殿に会うのはこれが初めてのはずだ」

「冗談が過ぎるな。相手をしている暇はない。帰ってくれ」


 彼は別人のように冷たい態度で、オルカを突き放すのだった。オルカが何を言っても「知らない」の一点張りで、遂にはオルカは店から追い出されてしまう。

 オルカは果物の詰まった籠をそのまま抱えてとぼとぼと帰途につき、屋敷に戻るとわんわん泣いた。


 彼女は悟る。

 自分はジャコウに騙されていたのだ、弄ばれていたのだ、と。ささやかな自尊心を満たすためだけの玩具にされ、都合が悪くなったので捨てられたのだ。


 だというのに同じ日の夜、ジャコウは何事もなかったかのようにオルカの屋敷を訪ねてくるではないか。「いつもの約束の場所はなぞのにいなかったので心配した」などとうそぶいて。

 激昂したオルカは万華鏡をジャコウに投げ付け、二度と彼の呼びかけに応じることはなかった。


 と、こういった次第である。

 ……うん、まあ、大体予想してた通りだね。


「この話を聞いてもなおあなたは、彼の肩を持つと言うの?」


 現世に戻り、オルカ様がそう問うと、先と同じ三つの選択肢が現れる。当然諦めるわけにはいかないので、私は変わらず『説得する』を選ぶ。

 オルカ様は声のトーンを下げて「よろしい」と仰った。


「なら私に分かるように説明してみなさいな。なぜあの人があの日、あんな冷たい態度を取ったのか、その理由を」



→・オルカのことが嫌いになったから

 ・オルカのことを忘れてしまったから

 ・あの時のジャコウは別人だったから



 一番目は論外、でしょ。

 悩むのは二番目と三番目だよね。両方合ってるっちゃ合ってると思うんだけど、明確な正解っていうのはそれぞれの解釈によっても違ってくる気がする。

 ただここでオルカ様に伝えるべきことって考えると、②はないかなあ。そこでぴしゃっと心を閉ざされてしまいそう。

 だから選ぶべきは、三番目だ。


「……別人、ですって? いいえ、有り得ませんわ。自分で言うのも惨めな話ですけれど、あの頃の私は確かに彼を愛していましたもの。見間違えるだなんて、そんな馬鹿なことしでかすわけがありません。……それとも、あなたが仰りたいのはそういうことではなく、もっと別の次元の話である、とでも?」


 話している内に、オルカ様は何かに気付いたらしい。ふと、口調に困惑の色が混じる。

 決定打をうつとしたら、チャンスはここしかないね。



→・ジャコウは双子である

 ・ジャコウは変装が上手い

 ・ジャコウは二重人格である



 一番ないのは、『変装』だよね。だからどうした、って話になるし。


『双子』は有り得なくもないんだけど、ジャコウ昼バージョンが一時期万華鏡を所持していたという発言があるから、本当の意味での別人説は薄いと思う。

 あとメタいこと言うと、シエル&シャンタちゃんの件で既に双子ネタ使っちゃってる以上、同じゲーム内でまた使い回すってことはそうそうないと思う。


 となると答えは、ジャコウ様には人格が二つあるってことでしょう。そうして三番目を選択すると、憑き物が落ちたかのような真っ白な顔のオルカ様の瞳に、力強い炎が揺らいだ。


「そんな……ジャコウ様には、昼の顔と夜の顔があったと……そういうことなの? 心も、記憶も、別物なの? 信じられない……。……ああ、でも、そうね。確かにあなたの言う通り、私が会っていたジャコウ様、優しくて泣き虫で愛情深いジャコウ様は、いつだって月明かりの下にいたわ……」


 まあ、だからといって昼のジャコウと夜のジャコウが無関係なわけではないだろうけどね。そこら辺をどう受け止めるか、どう割り切るかは、オルカ様次第である。

 でもとにかく彼女は、私の言わんとすることを理解してくれたらしい。


「分かりました。私、確かめて参ります」


 オルカ様はそう言って、立ち上がった。




******




【きまくらゆーとぴあ。トークルーム(公式)・生産、販売について語る部屋】



[いりす]

貯蔵庫作ったら薬品と食糧の鮮度気にせんでいいし持ち物整理も時々でいいしで

各段に本来やるべき作業が捗るようになった

なんでもっと早くハウジングに手え付けなかったんだろ


[戸嶋れお]

分かる

私もきまくら。始めたての自分にさっさと水環境整えろって言ってやりたい


[おにまる。]

割とちょっとの手間で何でもできちゃうから、ホーム環境の重要性に気付けないのよねw

実はそのちょっとの手間が積もりに積もって大分めんどいことになってるっていう


[鶯*]

まあそのめんどさが楽しかったりもするしね(´-ω-`)


[竹中]

貯蔵庫に端からぶっ込んどいたアイテムの期限がいつの間にか切れてて貯蔵庫のアイテム容量もいつの間にか圧迫されて

整理めんどくせーって嘆く>>いりすの未来が視える


[名無しさん]

倉庫の自動整理機能欲しい


[とりたまご]

きまくら。のことだから自動整理スキルにするぞ

もちハイスキルな


[こんぶ]

実は自動整理メカのフラグがどっかに埋まってるのかもよ


[知羽和<ちわわ>ジャッカル]

誰も掘り起こせない地中深くにな

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