83日目 星月閣(後編)
幸い一時間くらい待てば夜になる時分だったので、それまでビャクヤの他の箇所を回って暇を潰すことにする。
万華鏡に関してこれといって有益な情報は得られなかったんだけど、眼鏡の専門店っていう面白い場所で意外な人に会ったよ。シエル&シャンタちゃんの家に仕えるメイド、ルフィナさんだ。
和風なビャクヤでは浮いている西洋風ドレスとはいえ、私服だったもので、最初誰だか分かんなかった。
眼鏡使ってる様子はないのになんでこんな店にいるんだろうね。シラハエ観光ついでに物珍しかったから入ってみた、とか?
不思議に思ったけど話をする余裕はなく、ルフィナさんは軽く挨拶しただけで消えてしまった。
勝手にモブ以上サブ未満のキャラと認識していたけれど、こんなところで会えるってことはちゃんとしたメインキャラだったのかしら。
で、何はさておき夜になりまして。
宿に戻って、裏口からこっそり外へ出る。人の気配はなし。
昼間とは打って変わって、今夜は空がすっきりと晴れていた。
……いや、さっき街を歩いていたときはやっぱり曇ってたし霧が出ていた。もしかしたらここだけ晴れている――――――つまり、個別イベントに入った可能性アリかも。
涼しい風が、りー、りー、という虫の音を運んでくる。街の喧騒の届かない、静かな夜が広がっていた。
満月を少し歪めた形の、くっきりと明るい月に、粉砂糖をまぶしたみたく空一面を彩る星々。光で飾られた群青色の下、淡いスポットライトを浴びる一面の赤――――――……て、あれ?
なんか、既視感かも。この景色、私、どっかで見たような?
けど記憶を掘り返してみるも、これといった正解を見つけられない。
まあいっか。いずれにせよ、思っていたより清々しくて綺麗な景色だったもので、ちょっと拍子抜けしてしまった。
怖い雰囲気ではない。月や星、灯篭といった光源が優しい明かりとなって、逆に彼岸花の赤を和らげているのかも。
さーーーーっと風が吹くと花達は波が寄せるように一斉に揺れて、美しい。
一歩、花園へ足を踏み入れる。……よし、邪魔は入らないね。
胸を撫で下ろしたところで、声が響いた。「うっ……、うっ……」と、押し殺した涙混じりの声。
でた、シエルちゃん達が言っていた通りの、男の人の泣き声だ。
どこから聞こえるんだろう、と辺りを見回す。するとやや離れた位置にある灯篭の足元に、蹲る人影があった。
そーっと近付いていって、息を呑む。
ジャコウ様だった。あの堅物でミステリアスなかんじのジャコウ様が、ぼろぼろと涙を零して、顔を埋めた着物の膝を濡らしている。
私に気付いた彼は泣き顔を恥じることもなく、真っ直ぐに目を合わせてきた。その間も、涙の雫はつー、と白い頬を伝っている。
「誰だい? 君は」
言葉の調子も、表情も、仕草も、なんだか昼間とは別人みたいだった。陽の光の下で見たジャコウ様は硬質で冷たい印象だったけれど、月明かりの下で見る彼は、物腰柔らかく感情も豊かだ。
私は一先ず邪魔してしまったことを詫び、それから昼間あなたを訪ねた者だと自己紹介する。けれど彼は全くぴんときていないようだ。
まあ話をしたのは少しの時間だったし、忘れられてても普通かも。彼としても別段興味があるわけではないらしく、それ以上素性を問い詰められることはなかった。
「そうすると君は僕のことを知っているようだね。そう、僕はシラハエ四賢がひとり、“昼夜彷徨う
現れた会話の選択肢の中から「何かあったんですか?」を選ぶと、彼は悲しげにはにかんだ。昼間のジャコウ様からはとても想像できないお顔だ。
「なに、ありふれた話だ。失恋だよ」
しつれん!
「愛しい人に邪険にされたもので、僕は毎晩こうして、ここで涙を流しているのさ」
そうして彼は『彼女』のことを語りだす。と同時に景色が変わった。
あー、これ、あれか。
私の視界に、昔四人の賢人の中で起きた出来事が、次々と映される。
あらすじはこうだ。
オルカに恋したジャコウは、彼女に愛の告白と共にプレゼントを贈りたいと思い、カミキリに万華鏡の製作を頼む。
美しい万華鏡が出来上がると、ジャコウは予定通りそれをオルカに贈る。オルカは喜んで受け取り、二人の雰囲気はいいかんじだ。
けれどある日ジャコウがオルカのもとを訪れると、一転彼女は怒りを露わにし、万華鏡を突き返す。「酷い人」、「二度と来ないでください」という言葉を添えて。
何か誤解があったのだとジャコウは何度もオルカに会いに行くが、彼女は全く取り合ってくれない。すっかり心を閉ざしてしまったらしい。
以降ジャコウはオルカの代名詞とも言える花が咲くこの庭で、毎晩彼女を想って泣いているんだとか。
……成る程。成る程。
話が読めてきたぞ。
『
『
昼間堅物で、夜は泣き虫。
昼間会った私のことを、夜の彼は覚えていなかった。
そして先程流れた過去の情景の空は、いつも暗かった。
――――――どうやら、そういうことらしい。
ついでに、群青色の星空と彼岸花の景色に見た、既視感の正体も分かっちゃった。この色合い、コントラスト、まんま万華鏡に映される煌めきとおんなじなんですわ。
これはもう一度、オルカ様に会いに行かなくっちゃね。
******
【きまくらゆーとぴあ。トークルーム(公式)・総合】
[ハミ]
>>ちょん
おおサンキュー
アンロックに各ステータストップも含まれるってなると、今後成長の書物の使い方も気を付けたほうがいいかもしれん
[MSR@SK]
イベントもアンロックもガチガチのガチ勢しか楽しめないシステムでツマンネ
[ドロップ産制覇する]
敏捷トップとかさすが逃げのちょんと謳われただけのことはある
[ちょん]
言われたことねーよ
[ウーナ]
ハイエナとはよく言われてたよね
獲物の横取りとか最早定番戦法過ぎて過去の栄光になってるけど
[ねじコ+]
イベントランクは星ケツとか書物とかはもういいからとにかく期間限定称号だけうらやま
一回でいいからレジェンドになってアンゼローラ様に「おまえも成長したな」って頭ぽんぽんされたい
[竹中]
そこら辺の廃ランカーになってくるともうそっち系の役得に興味ないのがな
ササとか一位とったとて凱旋キャラ巡り絶対行かねーだろ
[3745]
ちゃりは一回も行ったことないって言ってた
[アラスカ]
宝の持ち腐れエ
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