122日目 舞踏会(7)

 フェルケ姫に呼び寄せられ、私達六人、プラスNPCの六人は、円卓の席に着く。


「それでは会議フェーズに移ります。これから15分間、この場で皆さんに自由に討論していただきます。今の調査で気付いたことや見つけたもの、またご自身の記憶や経験に基づく気がかりな点など、何でも率直に話していただいて構いません。流れとしてはこの時間の後に第二調査・密談フェーズ、そして推理を発表する最後の会議フェーズ、投票フェーズへと続いていきます。焦る必要はございませんが、全員に早めに共有しておいたほうがよい、そんな情報もあることでしょう。どうぞこの時間を有効にお使いください。それでは、開始します」


 彼女の合図のもと即座に口を開いたのは、意外にもゾエベル氏だった。


「トワさん並びにヨシヲに聞きたいことがある。俺はこんな情報を見つけた」


 言って彼が空中に指を滑らせると、私の視界に文章の書かれたカードが現れる。



【情報カード:濡れた花瓶周り】

よく見ると花瓶の外側から水が零れ、テーブルクロスも少し濡れている。誰かが揺らしてしまったのだろうか。

そういえば、アントワーナ嬢はサロンで身に着けていた手袋を、今はしていない。



『情報カード』! こんなのあったのか!


 ゾエ氏の言葉を受けたアントワーナは、ぎく、と顔を強張らせている。


「犯行予告状は花瓶の下に挟んであったとのことだ。となると、水を零したのは犯人なんじゃねーの? そして、もし犯人がその時手袋を身に着けていたのであれば――――――その手袋は濡れているに違いない」

「そ、それがどうしたっていうの? ヨシヲ、言っておやりなさい」


 ふむふむ、NPCは反応はするけど、基本的に会話を進めるのはプレイヤーって流れなのか。

 突然話を振られたヨシヲは、しかし落ち着きはらっている。


「ふん、確かにうっかりテーブルにぶつかって花瓶の水を零したのはトワだ。その際トワは倒れかけた花瓶を咄嗟に手で掴み、手袋は濡れた。だから今は外している。だがそれだけのことだ。この一連の出来事が起こったのは皆がサロンにいる間のこと。誰か見ていそうなもんだが」


「その件については僕達のほうから証明がでるよ」とミルクキングダム氏が挙手。


「リルお嬢様が、アントワーナ嬢がテーブルにぶつかった場面を目撃している」

「うむ」


 お~~、みんな凄い。ちゃんと会議してる。

 ヨシヲとかまともに会話することできたんだね。

 フェルケ姫の話を聞いてるときはこのメンバーで討論とか無茶では?って思ってたんだけど、意外や意外。ちゃんと議論ゲーになっている。


 などと他人事のように感心していたら、ヨシヲからこちらにいきなり爆弾が放られた。


「俺はそんなことより、誰が最もこのカードを忍ばせやすかったか、ってことを考えたほうがいいと思うね。シエルとシャンタ、おまえらが一番部屋を出るのが遅かったそうじゃねーか。誰にも見つからずに予告状を残すことができたのは、おまえらしかいない」

「あら、私達は一緒にサロンを出たわけじゃないわ。シエルを残して私が先にここを出たのよ」

「何ですって? 真逆よ真逆。私が先に出たの。シャンタは最後まであそこのソファに座ってたじゃない!」


 ひえっ、シエルちゃんとシャンタちゃんがお互いに罪を擦り付け合ってる……! こんなとこ見たくないよう。

 えーっとえっと、でもハンドアウトのシエルちゃんの行動のとこには、『シャンタと共に自身も部屋を後にした』って書いてあるんだよね。

 つまり両方とも嘘を吐いてるってこと……? それとも、ハンドアウトに書いてあることが間違い、なんだろうか。

 うーん、頭が混乱してきた。


「証明はあるのか」


 静かに口を開いたのはササである。その目は私に、そしてゾエ氏へと向けられる。

 証明っていうのは多分、さっきゾエ君が開示したような情報カードのことだよね。あれに書いてあることは確たる事実として皆に提示できるんだと思う。

 けど勿論そんなもの私は発見できてないし、っていうかそもそも存在しないだろう。だって多分シエルちゃん、嘘言ってるわけだから。


 となると私にできることは一つ。奥義・話題逸らし……!


「残念ながらそこを証明することはできないので、現状疑ってもらって構いません。ところで私としても気になってることがあるんですが、ササさんのとこのテレジアお嬢様、シエルちゃんと話してる最中に急に席を立って、部屋を出て行ったそうですね。何でも『用事を思い出した』とか何とか言って。あの、用事って何だったのか、教えていただいてもよろしいですか?」


 するとテレジア嬢の顔色があからさまに悪くなった。

 お、これは何かあるぞ! 効果はバツグンだ!


「そそそ、そんなこと今はどうでもいいことでしょう? それより、この犯行予告状を書いた犯人を捜すことが大事ですう!」

「その通り。議題に関係のない話をするのは時間の無駄だ」

「いやいや、関係なくはないでしょう」


 追い打ち援護を仕掛けてくれたのはゾエ君だ。ニヤニヤなゲス顔が頼もしい……!




******




【きまくらゆーとぴあ。トークルーム(非公式)・ミステリーデートツアーの配信について語る部屋・話題無制限】



[Itachi]

会議フェーズ滞ってる卓そこそこあって笑う


[レナ]

そらそうよ

集ってるのは二次元キャラに現を抜かすオタクどもなんだから

今回のデートイベが赤の他人とやる議論ゲーだって最初から分かってたら、申し込まない人も多かったんじゃないかな


[弐]

デートイベ(デートイベではない)


[めめこ]

優先的にフレンドと組ませてくれるって話あったよね?

あんまり機能しなかったのかな


[えび小町]

こんな狭い界隈にフレがいるほどコミュ充な人間なんて、そうそうきまくら。やってない^^


[ドロップ産制覇する]

その真実の剣をしまってくれ

俺のライフはもうゼロよ


[くまたん]

意外にもダム卓が割かし会議は活発なんだよなあw


[きいな]

調査フェーズは他と比べて全然なかんじだったのにねw

情報カードもあんま集まってないんじゃないかな

けど議論は進んでるから不思議


[スペード]

やっぱダムって凄いんだな

プレイング、コミュ力、配信者適性

何か突き出ているものがあるわけじゃないが、バランス取れてる


[ピアノ渋滞]

っていうよりここって普通にブティック&結社派閥の卓だからね

他よりは内輪的なかんじでやりやすいでしょ

それが証拠に話し合いは進んでもいい方向にむかってるわけじゃないっぽいし


[ねね]

だよね

情報カードがあんまないのをいいことに黒二人が議論を掻き回してるかんじ


[椿ひな]

やっぱ双子は共犯なのかな?


[Peet]

でもハンドアウトには仲間とは書かれてないんだよな

対立してるし、元から喧嘩してるっぽいし


[もも太郎]

そういう意味で一番クリアに近付いてると言えるのはやっぱマユ卓か

もうほぼ照準を双子に絞ってるね


[深瀬沙耶]

後はどっちが真犯人かってところ

ここは共犯の線をあんま追ってないのか


[ポワレ]

マダミス的観点で言うとどうせ指名できるのは一人だからね

二人取り締まるってなるとなんだろ、投票数同率で成立とかかな


[universe202]

その線を追ってるのがワンマン竹卓


[賢者ビスマルクの息子]

これむずいな

副窓他視点で視聴できる俺等すら意見が割れるわけだし


[MSR@SK]

まあ何があっても最終的には推しを推すのみだ

リルたまがんばえ~

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