104日目 ビビア(2)

 その子もきまくら。をやってて、しかも誰もが認める凄腕生産プレイヤーだったんだって。


 その子はきまくら。でとても有名になって、その子のもとには連日沢山の注文メッセージが舞い込んでくるようになったんだけど――――――でも彼は、そういった人との関わり合いだとか、ゲーム上での商売だとかに、一切関心を持たないタイプの人間だったらしい。

 彼がきまくら。をプレイする理由は、ただただ自分の作りたいものを作って、自分の作ったもので遊ぶ、それだけのためだった。


 けれど意図せず名を揚げてしまった彼を、周りは放っておいてはくれない。「自分にも同じものを作ってほしい」だとか「自分のクランに入って一緒に活動しないか」だとか「作り方を教えてほしい」だとか。

 そういった依頼を全部無視していたらば、果てに、「情報を共有しないのは人としておかしい」、「自己中だ」なんて攻撃的な批判まで上がるようになっちゃったんだって。


「結構目立つプレイングで遠征面でも実力があっただけに、槍玉に挙げられやすかったんだろうね……」

「そ、それでその子は……?」

「今でもきまくら。、やってるよ。でも、前ほど楽しんではいない、かな。色々言われるのに辟易しちゃって、目立つようなことは一切やらないようにしてるみたい。生産もしてるけど、それを表にだすことはしないの。ただ作って、自分で眺めて、時々私に見せてきて、それで終わり」

「そうなんだ……」


 なんか、悲しいな。

 ゲームなのに。仮想空間なのに。遊びのための、世界なのに。

 その中でさえ、そんな窮屈な思いをしながら、物作りをしているだなんて……。


「びーちゃん見てると、その子と重なるの。何かを作るということ、完成させることだけじゃなく、作る過程、完成した後どんなふうにそれを活かすか、そういうの全部ひっくるめて、生産プレイを楽しんでるんだなって。心の底から、物作りが好きなんだなって。だからあの動画と、その再生数とかコメントとか見たとき、ちょっと慌てちゃった。周りの声に圧倒されて、びーちゃんが作ることを心から楽しめなくなっちゃったらどうしよう、って」


 そうだったんだ……。


 ……まあ、その子の気持ちも、きーちゃんが心配する気持ちも、分からなくはなかった。

 きまくら。始めて日が浅い頃だったなら、私も同じように感じたかもしれない。そもそも自分のアバター丸々晒して実況動画公開するとか、絶対拒否反応あったろうな。


 でも今は、そこまで人目を気にすることはなくなったんだよね。へっちゃら、とまではいかないけども、否定的な反応を恐れる気持ちは以前ほど強くはない。

 慣れた、ってことなのかもね。だから私は、大丈夫。


「……びーちゃんは、強いんだね」

「強い? うーん、どうだろ」


 その子と私は確かに似てるのかもしれないけど、ゲームの楽しみ方って点で言えば結構スタンスが違うからねえ。

 その子は徹底してきまくら。をひとりで黙々とやるのが好きみたいだけど、私はまあ一応、アイテムの売り買いで他の人と関われるってところで言えば、辛うじて交流を楽しめていると言えなくもない。

 メンタルの強さとか、そういうのとはまた別問題な気がするよ。


 ……ああ、でも、『慣れた』ってことは、昔よりは進歩してるということだもんね。どうして変われたのか、理由を上げるとするならやっぱり――――――。


「――――――恵まれてたんだと思う。周りに」

「『恵まれてた』?」

「うん」


 何を思ったか、目を丸くするきーちゃん。そんなに驚くことかな?


 それは私だって思い返してみれば、嫌だな、ウザいなって感じた経験、そこそこあるよ。革命イベント起こしたときに文句言われたりとか、ワールドイベントのとき妨害行為受けたりとか、ササに虐められたりとか。

 でもその都度その都度、直接的に助けてくれたり、間接的に気持ちを支えてくれたりした人も、きまくら。には沢山いたんだ。


 加えて、そういうヤな気分にさせてくる人以上に、私の気分を引き上げてくれる、きまくら。の楽しさを教えてくれる人が、沢山沢山いたんだ。

 それは、私の作るものを心から喜んでくれるお客さん達もそうだし、私のゲーム活動に力を貸してくれるもも金や情報屋の人達もそうだし、ゾエ君やリンちゃんといったきまくら。で親しくなれた人達も、そう。


 そして同じオリデザ生産職として、いつも私のモチベを上げてくれるきーちゃんの存在も、勿論大きい。


 きーちゃんとこうやってちゃんと話せるようになったのは、つい最近のことだ。

 けど彼女の作る素晴らしいクロス達は、次は何作ろう、この布をどんなふうに使おうって、私の心を常に躍らせてくれた。

 自分と同じように物作りを楽しんでる人がいるんだって事実は、顔を見たことはなくても一緒にきまくら。を遊んでる感覚を与えてくれて、それが嬉しかった。


「あとはまあ、最初ヤだな、苦手だなって感じた人も、別の面から見たら案外いい人だったり面白い人だったり、或いはよく分からない行動にもこういう事情があったんだなって意味が理解できたり。きまくら。続けてると、そう思うことが割とあって。なんかそういうの繰り返し経験していくうち、あんま他人のこと気にしなくなった、引き摺らなくなった、っていうのはあるかも」

「そっかあ」

「だから心配しないで。きっと何とかなるよ」


 そう言うときーちゃんは「うん」と頷いて、初めて笑ってくれた。私はほっと胸を撫で下ろす。


「よかった。私てっきり、きーちゃんのほうこそあの動画に困ってたのかと」

「あ、ううん。それはほんとに、気にしないで。嫌だったら嫌って事前に言うし」

「ほんとのほんとに? なんかほら、コメントでも『豚キムチ』とか言われてたじゃない? だからきーちゃん、大丈夫かなあ、うんざりしてないかなあって」

「えっ」


 その瞬間きーちゃんは顔面蒼白になって、びくりと肩を揺らした。

 あれ? もしかしてきーちゃん、そもそも豚キムチって言われてたことすら、気付いてなかったかんじ……?

 私、余計な地雷踏んだ……?


「あ、ああ、うん。なんか、言われてたね、確かに。あはは。でも、ダイジョブ。私は別に全然、気にしてなんかないから。私は」


 なんかめっちゃ気にしてる態度なんですけどおおおお!

 あああ、私のバカバカ。知らないなら知らないでそっとしておけばよかったじゃんね。

 折角話が穏便に纏まりそうだったのに、なんでこうデリカシーのないことやらかしちゃうかなあ。




******




【きまくらゆーとぴあ。トークルーム(公式)・総合】



[ねね]

エミリアクエストで静けさの丘来たけど、人多くない?


[可憐哀憐]

密林と沼も人多いよ…(震え声)


[ドラ焼き]

そしてビギナーが圧倒的に多いよ…(震え声)


[弐]

えっ、それってつまり新規が増えたってこと?

何で急にまた…って、まさかB効果…?


[明太マヨネーズ]

きまくら。公式はマジでBさんと3745に感謝すべき


[ウーナ]

ビップ待遇与えて然るべきよね


[エルネギー]

あの動画で新規が増えるってことは、これからB式人間国宝が増える可能性、ワンチャン?


[レティマ]

あると思う?


[エルネギー]

ねーか

ねーわ


[リンリン]

聞けばブティ、ゲーム開始初っ端からから工房レクチャーも無視で2,3日引きこもってあの・・生産作業してたらしい

所詮初日から真っ当に遠征始めてるまともなプレイヤーにブティの後追いなんて無理って話


[ヨシヲwww]

リンリンはブティックを上げたいのか下げたいのかw


[ポワレ]

なんか今回参入してきた新規怖いよ(;´Д`)

街中で普通に声かけてきて普通にフィールドの行き方とか道具の使い方聞いてきたりするんだよ

それでもって笑顔でお礼言って普通に去ってくの

おかしいよ


[いりす]

それを怖がるのはもう病気なのよ


[檸檬無花果]

俺達のきまくら。を浄化しないでくれ~~~~


[PENE]

まあどーせビギナーズフィルタ取れた辺りで解散するっしょ

一週間くらいの辛抱よ


[イーフィ]

いや新規が増えるのは喜ばしいことだろ

それを切っ掛けに運営もやる気だしてゲーム盛り上げてくれるかもだろ


[つららE]

はじめまして、書き込み失礼します

新らしく公開トークルームを建てたいんですが、どこから作れるのか分かりません

もしかしてレベル上がらないと建てられないとかあります?


[イーフィ]

誰でも作れる

画面のどっかしらタップすると左上に「三」みたいなアイコン出るからそこ押してタブ開いて新規作成


[つららE]

あっ、ほんとですね

見逃してました、すみません(;´・ω・)

ご親切にありがとうございます!


[イーフィ]

お、おう


[hyuy@フレ申投げるな]

↑おまえも若干引いてるやん


[イーフィ]

いや…今あんなかんじでもいずれ皆yuka嬢のようになっていくと思うとだな…


[いりす]

だから病気なのよ


[深瀬沙耶]

みんな泥沼に長らく浸かってたばっかりに最早泥沼が居心地よくなってるの草

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