104日目 ビビア(1)

ログイン104日目


 公式動画サイト“きまくらひすとりあ。”――――――そこにアップされた、『【生産勢必見】某Bさんプレゼンツ衝撃ミラクル・クリエイション講座【アンロックもあるヨ(・Ꙫ・)】』。

 再生数の横に表示された5桁の数字を目にした私は、思わずガッツポーズを作った。よっし、よっし。

 きまくら。のアクティブユーザーが数万とかのはずだから、この再生数はもう大大大成功の部類でしょ。コメント欄も、全部にはとても目を通すことができないくらい賑わっている。


 まあやはりゆうへい氏の言う通り、そもそも私の作業工程全体が一般きまくら。民にとっては馴染みのないものだったらしく、そこら辺の突っ込みは大分多い。あと、分かりやすく画面映えするアンロックの流れに対する感想も多い。

 でもでもきーちゃん素材を称賛する声やウラクリ説に対して驚きの声をあげる人もちゃんと存在してて、私は俄然嬉しくなった。


 ほらほら、見て見て。きーちゃんの作るものは凄いんだから。

 そんな私のメッセージ、届いてほしい人にはきちんと届いた模様。


 とはいえ気になることもある。

 なんかね、コメント欄見てると、ちょいちょい『豚キムチ』って単語が目につくんだよね。あとミナシゴさんがなぜかタイトルに使ってる豚の絵文字も。

 これって多分きまくら。民が使ってるきーちゃんのあだ名で、絵文字はそこと関連して使ってるんだよね。


 きーちゃんただでさえ『キムチ』って呼ばれること嫌がってるのに、そこからさらに発展して『豚キムチ』だなんて、絶対怒りそう。このページ見てムカついてなければいいけど。


 でも何はともあれ、これで私のやれることは全部やった。しばし、大きな仕事を終えた達成感に浸る。


 するとふいに、裏口の扉がノックされた。ダイアログにはなんと、『[송사리]が遊びに来たようです。』のメッセージが。


「びーちゃん……!」


 慌てて出て行くと、高揚した様子のきーちゃんが飛び込んできた。びっくりした私が胸の前で両手の平を広げると、きーちゃんは自然、そこに自分の手の平を重ねてくる。


 彼女は嬉しそうでいて泣きだしそうでいて拗ねてもいるような、なんだか複雑な顔をしていた。でもとにかく、興奮しているのは間違いないっぽい。

 トークですぐに連絡取れるというのに、わざわざ私のホームへ訪ねてきたのだ。彼女にそんな行動を取らせる原因と言えば、やはり一つだろう。


「きーちゃん……。……ミナシゴさんと私で作った動画、見てくれた?」

「うん。視た。視たよ……」

「えっと、どうかな。結構いいものができたと思うし、きまくら。ユーザーの反応にも手応えあると思うんだ。これできーちゃんの作品の真価が、きーちゃんの凄さが認められてけばいいなって……」


 きーちゃんの丸い新緑色の瞳が、揺らぐ。困惑する私。

 だって、あれ? 本来の私の計画でいけば、これできーちゃんは大喜び、一緒にがっぽり金儲けしようねわっほーい、ってな具合に事が進むと思ってたんだけど。

 それが彼女の表情といったら、喜びというよりも、迷いとか、躊躇といった色を強く感じる。どうすればいいのか分からなくて、途方に暮れている、みたいな。


 私はそこでやっと、はたと我に返る。

 ――――――もしかして、迷惑だった……?


 いやね勿論、徹底して表舞台に立つことを好まない人が世の中にいることは知ってるから、事前に確認は取ったよ。

 情報屋に広めてもらうのはどうかなあとか、ミナシゴさんに実況動画作ってもらって、そこできーちゃんのウラクリ素材について説明したいと思う!、とか。


 その都度きーちゃんは決して積極的ではなかったものの、拒みもしなかったんだよね。

 情報屋の検証作業のときは素材提供にも協力してくれたわけだし、彼女のスタンスは常に、「びーちゃんの好きなようにしていいよ」というものだった。


 その前提として、「私は何かが変わるとは思わないけど」といった枕詞まくらことばが付いているのには、うっすら気付いていたけども。

 でもそれは彼女の自信のなさとか慎ましさの表れであって、嫌がってるようには見えなかったんだ。でもそれすら、私の思い違いだったのかなあ。


「ご、ごめんね。私、ひとりで勝手に突っ走っちゃって。きーちゃんもしかして、こういうの嫌だった?」


 おずおずとそう問うと、きーちゃんは目を瞠り、ふるふると首を横に振った。


「え? あ、ああ、違うの。私は別に、全然。ただ寧ろ、びーちゃんのほうこそ大丈夫かなって」

「私?」

「その、結果的に、注目集めることになっちゃったから。なんか、そうだよね。あの・・びーちゃんだもんね。私、もっと軽く考えてた。ちゃんと考えれば、びーちゃんが自分の製作動画とか上げてどうなるかとか、分かるはずなのに。まあびーちゃんが楽しそうだから、好きなようにやらせてあげればいっか~って、そのくらいの気持ちだったの。止めてあげられる立場にいるのなんて私くらいしかいないのに、私、そうできなくて、それが申し訳なくて……」


 え? え?

 なんか、全然分かんないよ。

 きーちゃんは何を訴えてるんだろう。なんで申し訳なく思ってるんだろ。なんでこんな思い詰めた顔してるんだろ。

 私は……飽くまで私は、だけど、注目浴びて、よかったと感じてるよ。だって最初からそれが目的だったもの。


 きまくら。界にウラクリというシステムの存在を認知させること。きーちゃんの仕事の価値を高めること。

 その悲願を、人目を集めずして達成できるとは端から思っていない。


 きーちゃんは一体、何を心配しているの?


 真面目にそう尋ねると、きーちゃんは少し肩の力を抜いたようだった。


「なら、いいんだけど」


 あのね、と前置いて、きーちゃんは目を伏せる。そして、自分の知り合いだというある人物について語り始めた。




******




CommonLand/【生産勢必見】某Bさんプレゼンツ衝撃ミラクル・クリエイション講座【アンロックもあるヨ(・Ꙫ・)】/みんなのコメント



[くるな]

えええええブティックさんえええええ!!

↑終始こんなかんじの動画だった


[明太マヨネーズ]

タイトル見て「Bさんてまさかな…。どうせ釣りだろ…」って思ったらまさかのまさかでパニックになった


[つばつば]

これネタだよね?

ガチ講座じゃないよね?


[もっちりモフ]

きまくら。ってこんなこともできんの!?

すご!


[にゅー!!!]

豚キムチ最高ブヒィィィィ(>Ꙫ<)


[大口彩]

はじめまして、いつも3745さんの動画楽しく視てます♪

今回の動画視て私もきまくら。すっごくやりたくなっちゃいました。

勝手なイメージでもっと殺伐としたゲームだと思ってたんですけど、生産作業めっちゃわくわくする!

キャラクターも可愛い~( *´艸`)


[犬飯]

急上昇ピックアップから何気なく視に来たけど、きまくらの技術力に震えた

ネタなのか何なのか知らんがきまくら動画上げてる人ってやたらモザイク多用するもんで、

こんな美麗なゲームとは知らんかった


[Otakar]

i love this movie!


[なまずん]

開発会社ほへプロ神か


[上田智一]

グラフィックすげー綺麗で感動した

なんでこんなハイクオリティゲーが埋もれてんだ


[匿名]

きまくら買うわ

この動画視て今決めた

ところでコメ欄でみんなが言ってるブティックとは一体…


 [まゆしぃ]

 動画に出てくる女の子の名前です


 [藤沢もしゃーん]

 豚キムチはブティックとキムチ(布製作者)のユニット名です(・Ꙫ・)


 [匿名]

 >>まゆしぃ

 >>藤沢もしゃーん

 なるほど!ありがとうございます!


[つらら]

ルクルクでホット入りしてたきまくら、検索したらこの動画に当たった

きまくら買います

出会いに感謝


[まとぅーしゅとぅーしゅ]

×きまくら

〇きまくら。

そこんとこよろしゅう


[ほのこ]

ランキングからきました!

VRでほのぼのクラフト系、こぐに以外にもあったんですね!

ボーナスの使い道が決まった~

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