214日目 バックスタイル(表編)

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 かくして【賢人達の遊戯会・エリン主催編】のメインイベントは無事四日間をすべて終え、十三の派閥による拠点争奪戦は幕を閉じた。

 私達テファーナチームはなんと一位、優勝を獲得しました! わーいわーいやったー!

 メンバーそれぞれが自分の得意分野で活躍していたし、日を経るごとに団結力も高まってったし、まことちゃんとの協力プレーも上手くいったし、運もよかった。文句なしの結果で個人的には大満足のイベントだったなあ。


 バレッタさんに【グラウンドナッツ】の有用性や立ち回り方を教えてもらってからは、私自身も攻略フェーズで大分貢献できるようになったんだよ。

 バレッタさんは簡単に『雑魚狩り』なんて言うけど、私としては誰がざ……、生産主体プレイヤーなのかは分からないので、色々彼女に指導してもらいつつね。


 それとこのスキル、最初の一手として打つからこそ威力を最大限活かせるところもあってさ。たとえば既に耐久が半減してる人に使っても、あんまり意味がないんだ。


 グラウンドナッツの効果は『対象の[耐久]の内、装着効果・アビリティで加算されている数値を削る』というものである。

 これって逆に言うと“基礎耐久値のみを残す”っていう仕組みみたい。加算されてる耐久値をいつでもそのままダメージに変えてくれるわけじゃないようなの。

 つまり基礎耐久が2,000、加算耐久が1,000、合計3,000の人がいたとして、その人の残り耐久ゲージが2,000を切ってる場合、グラウンドナッツを打ってもダメージはゼロなんだ。


 だからこそ誰に、どのタイミングで使うのかってことが結構大事になってくる。そこんところも私のゲームセンスじゃ判断が追い付かないもので、バレッタさんに逐一指示してもらいながら動いてました。

 そしたらバレッタさんと接することも自然多くなり、彼女に対する苦手意識も大分薄れてきた。

 あの人沸点低いし無愛想だけど、意外と面倒見がいいんだなって。なんか姉御ってイメージになったよ。


 今じゃ彼女の掛け声に合わせて「ビー! ナッツ!」って言われればすぐ指さした方向の人にグラウンドナッツ打つし、「ビー! 待て!」って言われればすぐにバレッタさんの後方に隠れる体になっている。ツーカーの仲というやつですよ。


「おー、バレッタ。いい犬見つけたなー」


 って、笑顔で言い放ったゾエ君とはしばらく口を利かなかったけどね。


 まことちゃんはまことちゃんで上手くやれたみたい。

 彼は計画通りイベント三日目にしてマユチームの拠点をすべて更地にして、最終日にはうちと一緒に各所の生き残り拠点を狩るお遊びに興じていた。


 領地拡張をしたらしたで防衛に手が回らなくなって大変かなーとも思ってたんだけど、割とそんなこともなかった。

 攻略フェーズ終了時点で、ピースを奪えた土地は自分の陣地にできて、そこにもまた拠点を建てることになる。それと共に七つ目以降の拠点は、増やすごとに防衛用のNPCを雇えるようになるんだ。


 このNPCが結構ちゃんと働いてくれて、そこまで守りに人員割かなくても大丈夫だったっていうのが大きい。

 管制室を任せておけば敵が来たときすぐ知らせてくれるし、オートで反撃もしてくれるし――――――って、あれ? もしかしなくても、生身のプレイヤーである私よりNPCのほうが有能?

 ……うむ。人はこうやってAIに仕事を奪われていくのだ。


 しかもこのNPCが、その国に合ったキャラクターを使えるというサービスで、めっちゃテンション上がっちゃった。我がテファーナチームはレスティーナ王国の土地の一部が領地となっているので、なんとシエルちゃんシャンタちゃんを召喚できたのだ!

 管制室の椅子に座って並んだカメラを睨むシエルちゃん、凛々しかったな~。願わくばずっとあそこに入り浸っていたかったよ。

 そして最初にゲットできた拠点が二つで本当によかった。もし一つだとしたら、シエルちゃんを雇うかシャンタちゃんを雇うかでチーム内で戦争が勃発してたろうな……。


 え? ゾエ氏と私以外のチームメイトの希望?

 いやいや、リーダーは私ですからね。そこは独裁政治でやらしていただいておりますよ。

 文句のある奴は解雇です!


 そういったお助け機能はありつつ、とはいえあんまり油断できる状況でもなかった。もし他チームが複数で連携して一気にうちを攻めてきたら、盤面はあっさり覆っていたと思う。

 でも今回、予想に反してそれが起きなかったんだよね。


 まあ最初の攻略フェーズからササと狂々さんとの間で、またエルネギーさんとイーフィさんとの間で裏切りが発生していたことを考えると、それも無理はないかーって思う。

 不仲になった陣営が再び手を組むことは難しいだろうし、っていうか寧ろ一矢報いようとそちらさん同士でやり合ってくれたところもあったっぽい。


 そういう情報は得てして拡散するものだから、同盟には関係のないチームも他と手を組むことには慎重になったのかもしれない。

 別々で来ることはあれど協力してうちに攻め込んでくる勢力とかはなくて、お陰でうちもまことちゃんも伸び伸びと領地を拡大できたのでした。


 そうしてイベントは恙無く終了した――――――んだけど、一つ、不可解なことがありましてね。


「出たな! 神出鬼没のピーナツ雷帝!」

「冷酷無慈悲に弱者に狙いを定め打ちのめす、悪逆非道のザコガリーズめ!」

「また出たよブティック! 一体何人いるっていうんだ!」

「ええええまこと拠点一緒に守ってるって言うからこっちお留守だろうと思ってたのにー! なんでBさんここにもいるのー!?」

「さすが雷の異名を持ちし者……。その足まるで雷光のごとく閃き、その姿まるで雷鳴のごとく顕現せし……」


 なんか、時を追うごとに私に会う人の反応や私の評判が、妙なことになってってるんだよね……。

 “雑魚狩り”を嫌がられてるのはまあ、自覚もあることだししょうがないと思ってる。

 それから私が「まことちゃん拠点の防衛に協力している」という噂が立っている理由についても分かっている。事前にまことちゃんから、彼のロックスキルについての話を聞かされていたから。

 それがこちら。



虚仮威しブラフ:任意発動スキル 消費/10~ 過去に見たことのあるスキルを再現する



 え!? それってもしかして自分が取得せずとも、他の人の放ったスキルをコピーして使えるってこと!?

 めっちゃ強いじゃん!


 と思いきや、そういうわけではないらしい。

 このスキルはただのハリボテ、再現するのはスキルエフェクトだけで、効果はなんにもないんだって。まさにただの『虚仮威こけおどし』なわけだ。


 けれども読み合いが発生しやすい今回の試合においては、陽動として十分使えるだろうとまことちゃんは踏んだ。

 つまり【虚仮威し】で私のスキルを相手に見せることにより、あたかも私がそこにいる――――イコール私のチームが彼に協力して戦っているかのように思わせようとしたのだ。


 この技はロックスキルにしては珍しいことにクールタイムが短く、さらに射程が長いとのこと。こうした特性も上手く嵌まり、作戦は成功したようだ。

 まことちゃんちに攻め入ったチームは思惑通り援軍がいると勘違いし、怯んで去って行った。これを読み越して実は防衛に割く人員を最小限にしていたまことちゃんチームは、マユさん攻略に戦力を十分注ぎ込めたというわけだった。


 と、そんな計画を密談フェーズの時点で聞かされていたので、我が家を攻めてきた敵チームが私の姿を目にして驚くのも無理はない。

 彼等はつまり、うちがまことちゃんを支援していると誤解して、ならば逆にビビア領は守りが手薄になっているだろうと睨んでこちらへ来たんだと予想できる。そしたらまことちゃん領にいたはずの私がここにいるもので、びっくりしたんだろう。

 ええ、はい、そこまでは分かるよ。そこまでは。


 でもさあ、そこで何で、会う人会う人みんな、に対して超常的な存在を見たみたいな目を向けるわけ?

 が『神出鬼没』であるとか、が『何人もいる』だとか、の足が驚異的に速いだとか。終いには『実は分身を五人持つ』だとか『どこにいようとピーナツを降らせることのできる女』だとか、そんなバケモノ的扱いをしてくる人までいたからね!


 思考のぶっ飛んだ人が一人二人いても別におかしくはないかもしれないけど、全員が全員そういう考えに至るのは絶対普通じゃないでしょ!

 そこは“自陣にいる私”がオカシイんじゃなく、“私のスキルが発生しているまことちゃん領の何か”がオカシイって真理に至る人が、何でどこにもいないわけ?


 勿論そんなお馬鹿さんが沢山いたお陰で、まことちゃんの作戦が成功を収めたところはある。だから結果だけ見ればよかったんだけどさ。

 ……腑に落ちない! 納得いかない!


 そうねー今回のイベント、優勝できて爽快だったし、報酬もうまうまだったし、友達もできたし、何より楽しかったしで大体において満足なんだけど、唯一そこだけ引っかかったかな。ふーひょーひがいよふーひょーひがい。


 まったくもう。

 きまくら。住民ってほんと分かってないよね~。



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