157日目 老師戦(2)
ログイン157日目
さあ、やってまいりました、この日この時。あと20分で老師戦です。
私の
さて、私のチームメイトは誰になるのか。どきどきしながら、私はスキップドアを潜る。
次の瞬間現れたのは、椅子のみ置かれた殺風景な一室と――――――。
「えっ」
「わっ」
――――――なんと、きーちゃんだった。
「うそーっ」
「すごい! びーちゃんと一緒だーっ」
顔を輝かせ、手を取り合う私達。
やったあ、これは嬉しいね。知り合い、それもきーちゃんと同チームだなんて、こんなに心躍ることはない。
すると程なくして室内に、別のスキップドアが現れる。
「どうも」
軽く手を上げて挨拶したのは、機械種族の銀髪の男の子だった。[もも太郎]君だ!
正直彼とはビジネスの関係ってかんじで、気心の知れた仲とまではいかない。それでも全く知らない人よりかは全然いい。
常識あるし、気難しくもないし、これは私、PTガチャ大成功の部類なのでは?
と、はしゃぐ私だったが、ふと気付くときーちゃんはすすす、と私の影に隠れて警戒気味。絶賛人見知り発動中っぽい。
はっ、ここは二人とフレンドな私がしっかりしなきゃいけない流れかな?
「えと、お二人は初めまして、だよね……?」
しかしこう尋ねると、
「え? ……どうだったかな」
「………………」
なぜか気まずそうな顔で黙り込むお二方。いやいや、そこで悩むことある?
「お互い長いこときまくら。やってるし、談話室民だしで、どっかで関わりはあったようななかったような、ってかんじ。知ってはいるけど、まあほぼ初めましてみたいなもんだよ。……あー、昔クランメンバー通して取引持ちかけたことはあった、かな? 断られたっぽいけど」
「なるほど……?」
『談話室民』っていうとつまりあれだよね。主に公開トークルームで不特定多数と和気あいあいチャットを楽しんでる、みたいな。
へー、この二人、そういう陽キャ的一面があったんだ。正直ちょっと意外。
にしてもだったら尚更、「あなたはトークでいつも話していた……キムチさん!?」、「わーっ、初めましてもも太郎さん! まさかこんな形で会うことになるとは……!」みたいなやり取りがあってもいいのにねえ。
まあ間接的とはいえ取引上手くいかなかった過去があるらしいし、ちょっと複雑な思いがあるのかな。
しかし二人を引き合わせたのは紛れもなくこの私だろう。今こそ私の華麗なるコミュニケーションテクニックをもってして、この重い空気を払拭しなければ。
そんなふうに意気込んだところで、四つ目のスキップドアが現れる。
「こんにちは! 既に皆さんお揃いなんですね。って、あっ、ブティックさん!? わ~~、一緒のパーティだなんて光栄です! 力を合わせて悪を叩きのめしましょう! あら、あなたはそんなブティックさんの相棒、ブタキムチの片割れキムチさんではありませんか。 初めまして、ユカと申します。[きまくら。改革委員会]の委員長として、世界平和の実現に向けて日々活動している者です。どうぞお見知りおきを!」
今度は私が、きーちゃんの影に隠れるはめになったのだった。
いやね、覚悟はしていましたよ? デートツアーのときと同じく老師戦の注意書きには、『システムの都合上、今イベントにおいてはブロック機能を無効とさせていただきます。ご了承のもとご参加ください』って記載されてましたから。
けどそれにしたって、こうも再び外れクジ――――あっ、言っちゃった――――引く? 私もこのイベントに参加するに当たって老師リストを確認したから、彼女やササの名前を見つけて「あっ、そうなんだ~、ふ~ん……」とは思ってたけどさあ。
っていうかこうなってくると最早、そんなブロックしちゃうような人達がこういうイベントに参加できるくらいばりばりに活躍してるきまくら。のシステムに問題があるような?
あれ? きまくら。ってもしかしてくそげ……はっ、いかんいかん。
こういう事態になり得ることが喚起されていた以上、何を言っても私のエゴだ。
それはさておき、ユカさんはすっかり一人で盛り上がってしまっている。
因みに彼女、もも君のことは眼中にもない模様。……いや、寧ろ努めて視界に入れないようにしてるかんじ?
興味の有無がはっきり態度に表れるタイプの子なのかもしれない。
対してもも君も、相手にされていないことをよしとして距離を取っているように見える。
んー、まあ、これに関しては解釈一致。彼、以前話したときの発言から、明らか『馬鹿』を嫌っているようなふしが感じ取れたし……。
あっ、違いますよ。別に誰もユカさんをおバカさんだなんて言ってませんからね。
けどこの調子だとユカさん、私にブロックされてることも全然気付いていないようで、それだけはよかった。環奈さんとお揃いの衣装セットも気に入ってくれたようで何よりである。
あとはもうこんなPT編成になってしまった以上、力を合わせて勝ちを取りに行きたいだなんて無理は言わないことにする。
何事もなく、穏便に、この場をやり過ごす。それだけが私の目標だ。
なんてダッシュで保身に向かおうとしてたのに、ユカさんはとんでもないことを言いだした。
「それじゃ皆さん、フレンドになりましょう! そうすれば試合中お互いの距離が届かなくても通話で意思疎通が取れますからね。私達正義の側としては、今ここが正念場。皆で力を合わせて、勝ちを取りに行きましょう!」
ちょっとお~~~~。なんでえ~~~~。
なんで私ブロックした相手とフレンドにならなきゃいけないの~~~~。
これじゃブロック外さなきゃじゃん! 試合終わった後に再びBLするにしても今度はフレンド解除する手続きが必要じゃん! そしたらほぼ確実に、少なくともフレ解除した事実は向こうにも伝わるじゃん!
めんどくさい、めんどくさいよお~~。
するときーちゃんは、背中に回る私を見て何かを察したらしい。
「あ、えっと、それなら大丈夫ですよ。私【
ちら、と私に視線を送り、微笑むきーちゃん。
聖女降臨! きーちゃんの後ろに後光がさしてるよ!
「あら、そうですか……」
頷きつつも、ユカさんはまだ何か言いたげな様子だ。
まずい、ここで相手にターンを与えてはいけない気がする。何とかして話の流れを変えないと。
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