234日目 モグマキング(2)

 もっともこうやって手に入れたアイテムを全部売ったとて、私からすれば大したお金キマにはならない。結局私は私の得意分野、仕立屋仕事で儲けるほうが、タイムパフォーマンスは各段によい。

 それに本職――――狩人や採集師といった遠征職業のプレイヤーからしても、おねだり収集というのは効率がよいものではないだろう。


 でも、色んな種類のアイテムを集めることにより埋められるミッションがあったり、クエストがあったりするからね。そういうのをのんびりちょこちょこ進めていく分には、このプレーイングは打ってつけなのだ。


 その手のミッションやクエストは購入やプレイヤーからの譲渡品ではクリア不可なものが大抵なんだけど、おねだり入手はその範疇からは外れるっぽいんだ。

 獣使いのジョブスキル【ブラッシング】や【搾乳】で得られる素材はミッションやクエストクリアに対応できると聞くし、おねだりもそっちの枠組みに入ってるのかもしれない。

 つまりこれはズルではなく“スキル”――――――そう、れっきとした実力ということなのですよ。ふぁさあっ。


 あとはゲームの進行などに関わりなく、色んな幻獣キャラクターと触れ合えるのが癒しっていうのも、このマイブームの一因だったり。

 きまくら。の幻獣って可愛かったりカッコ可愛いかったりするやつが多いからさ~、近くで観察したり、ディルカちゃんの通訳介しつつお話したり、ちょっと触らせてもらったりするだけでも楽しいんだ~。


 このモグマ様も、滑らかでふわふわした広い背中を撫でてみたいなあって願望はある。でも彼、雰囲気的にちょっと短気っぽいかんじがあるので、さすがに自重しておきます。

 【扮装ファンデーション】で友好度が上がっているとはいえ、ただでさえ忙しそうなところに繰り返しおねだりアタックしちゃってるからね。これ以上長居したらぷっつんしてしまうかもとの判断のもと、私はそそくさとお暇することとした。


 がしかし、踵を返した私の肩に、ぽふ、と唐突に何かが載る。それを視界に収めた私は、顔を引きつらせた。

 鋭い刃物のようなものが、私の頬っぺたすれすれに突き付けられている。


「もぐ」

「『待て』って」


 落ち着いてよく見ると、刃物――――モグマキングの鉤爪の角度は微妙にこちらを向いていない。私を脅しつけようとしたわけではなく、単純に肩に手を置いて呼び止めようとしたつもりみたい。

 分かったので、早くその爪どけてもらっていいですかね。バーチャルと知っててもどきどきしちゃうよ。


 さて、いつの間にか立ち上がっていたモグマ様は腕を組み、私を値踏みするように見下ろす。そして厳かな口調でのたまった。


「もぐ、もぐもぐもぐもっもー、もぐもぐもぐもぐぐ」

「『おまえ、この坑道の主たる俺様に散々物をねだるだけねだっておいて、自分は何の置き土産もなく帰るというのか』」


 ……うむ。鳴き声の響きとポージングは厳かだけど、もぐもぐ言ってるのをディルカちゃんが通訳してるのはシュールな愉快さがあるね。

 笑いを堪える私の心情などお構いなく、モグマ様はふんぞり返って続ける。


「もぐもぐもぐも。もぐぐもぐぐももももももももっぐっぐ。もっぐもぐももももーももーもも」

「『そんなことが許されると思うなよ。俺様はおまえなんかよりもずっとずっと偉いのだ。何てったって俺様はここの王だからな』」

「もぐもも。もぐ、もぐぐぐももんも」

「『風の噂で聞いたぞ。おまえ、誰かの使いぱしりとしてこそこそ動き回るのが得意だそうじゃないか』」


 えっ、何その話。私幻獣達の間でも、そんな根も葉もない噂立てられてるの?


 いやでも待って、さすがにNPCにまで変人扱いされる謂れはないってゆーか、もしそうだとしたらNPCのほうこそ変人設定だよね。

 普通に考えるとしたらこの言動にゲームシステムに基づいた理由があるはずだけれど……えっと、NPCの対応に影響を与えるのは、分かりやすいところで言うと所持している称号……。

 ……あっ、もしかしてこれ!? ダナマの革命イベントを起こしたときに入手した、【歴史の裏の密使】?


「『本来ならもうちょっと信頼できる郵便屋にでも頼みたいところだったが、この際おまえでもいいことにしよう。おまえにこの書状を託すことにする』」


 言ってモグマ氏は机にあった封筒を私に差しだしてきた。



【モグマからの手紙】を手に入れた!



「『これを【ヒメカゲタイジュ】の主、クイーンビーに届けるのだ。大切な任務だぞ。しっかりやれ』」


 そうしてモグマ様はふんすと大きな鼻息を立てると、再び机に齧り付く。


 お、お~、よく分からんけどなんか特殊なイベントが始まったっぽい。

 それにしてもヒメカゲタイジュかあ。確かシラハエの、中上級者向けフィールドだったよね。

 私、マッチクエストでこのフィールドに挑戦したことはあれど、正規のマップで足を踏み入れたことはないのよね。

 ま、ギルドアプリで表記されてる危険レベルは銀河坑道ここと変わらないから、行けば何とかなる、かな……?



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