234日目 モグマキング(1)

ログイン234日目


 最近私の中でブームが来ているものがある。ずばりそれは、きまくら。での“遠征プレー”である。


 ふふふ、意外でしょう。あの引きこもって延々と服作ってばっかりだったビビアちゃんが、ついに活発な冒険者としてもブイブイ言わせるようになったのですよ。

 と、いうのは冗談だけれども、各地の遠征フィールドをちょこちょこ回っているのは本当の話。

 っていうのも最近、こんなハイスキルを取得したんだ。



扮装ファンデーション

愚カナレバ尋ネヨ、貧シケレバ求メヨ



 はい、相変わらずハイスキルちゃんの公式説明は絶好調に意味分かんないですね~。ってなわけで[情報屋]の攻略サイトの言葉を借りると、これは『幻獣に化ける』スキルだそうだ。


 もっとも本当に見た目が変身するわけではない。けどこのスキルを使うと、すべてではないものの敵対幻獣も友好的になるんだって。

 スキルの名前が「扮装」なわけだから、恐らく幻獣から仲間と見られるよう化ける、そんな能力なんじゃないかって言われているのだ。


 他にもこのスキルを使うとキング幻獣――――各フィールドの友好幻獣のボス――――に会えるイベントなんかもあったりして、色々新しい発見があるんだ。

 それで最近ちょこちょこ出かけては、行く先々でこのスキルを試して遊んでいるところ。


 一昨日は【病める森】の主【タイガーオウルKING】に、昨日は【古の王の墓】の主【シジマKING】に会ってきたよ。タイガーオウルさんはでっかいフクロウの幻獣で、シジマさんは黒い靄でできた身体を持つ人影を模した幻獣だ。

 キング幻獣に会うことにより達成できるミッションもあるので、ギルドポイント集めにもグッドだね。


 しかもこと私に関しては、このスキルを有用たらしめる要素がもう一つありまして。それが、スキル【おねだり】との併用なのだ。

 どうやらおねだりの効果は、幻獣の友好度と深い関わりがあるらしい。【扮装】によって敵対幻獣が友好的になるとおねだりの成功率が上がるのは勿論のこと、元々友好的だった幻獣も扮装を使うとその度合いがさらに増すらしい。

 それで扮装を発動した上でおねだりすることにより、通常よりもっとよいものやもっと沢山のアイテムが手に貰えたりするんだ。


 この法則はキング幻獣にも当てはまる。キング幻獣はやはり王様ってことで、プレゼントのグレードも高いんだよね~。

 タイガーオウルさんからは【タイガーダウン】を、シジマさんからは【ダークモス】と【ロックスネイル】を貢いでもらったんだけど、全部★5の大変質のよい素材だった。


 タイガーダウンはその名の通りダウンジャケットやダウンコートの中綿として使えるから、自分で取っておこう。

 ダークモスとロックスネイルは幻蟲素材で、属性付与に役立つ高級アイテムだ。きーちゃんに流して、属性クロス作りに役立ててもらえるといいな。


 こんなかんじで、この二つのスキルを使えばハンティングをせずともアイテム収集ができるというわけだ。【狩猟】や【解体】を持たない、且つアクションゲーが苦手な私でも、遠征を充実させられるので楽しい。


 さて、本日私が向かうのは【銀河坑道】である。

 今日も今日とてザクロライトを巡って争いを繰り広げるプレイヤー達を尻目に、私は奥へ向かう。目指すはこの幻獣巣の主【モグマKING】君のお家である。


 最近はレベルも上がってきてるし遠征系スキルも揃ってきたし装備も強いもの使ってるしで、深層にだってNPパーティで乗り込めちゃうもんね。

 それとやはり、ここでも扮装スキルが活躍してくれている。敵対幻獣が友好的になるイコールエンカウントが減るってことで、これだけでも普通にありがたい。


 あとは前回迷子になってしまった教訓を活かして、今回は【脱出の羽】なんてアイテムを持ってきているよ。これは幻獣巣にいるとき入口まで戻してくれるお役立ち道具なのだ。

 作るのが難しいらしく私でも「消費アイテムにしては高いなあ……」って考えてしまうくらいのお値段なんだけど、背に腹は代えられない。結局私のようなゲーム弱者はお金で問題を解決するのが一番なのよ。


 そんなわけで今日は帰り道を心配することもなく、さくさくと奥へ進んでいく。やがて暗い坑道の中、温かな光の漏れる扉が見つかった。

 モグマ様~、会いに来たよ~。


 モグマキングは以前訪れたときと同じく、机に向かって熱心に書き物をしているようだ。

 私は視界スクリーンの端にケモ耳フードのアイコン――――扮装バフがかかってる印だ――――がまだ存在していることを確認して、彼に話しかけた。するとモグマ様は手を止め、ちょっと迷惑そうにこちらを見遣る。

 すかさずやって来る通訳係のディルカちゃん。


「……もぐもぐ、もぐもぐもーぐもぐ」

「『今忙しいから後にして』だってさ」


 ……うん、その返答はやっぱり相変わらずなんだね。

 けど前回のプチキレ気味なかんじよりかはまだ穏やかな雰囲気かも? やっぱりファンデの効果、あるんだろうなあ。

 まあそれは兎も角としておねだりはしますけどね。胸の前で手を組み、きらきらきら~っと顔を輝かせるビビア少女。

 するとモグマ様は「仕方ないなあ」という顔をして、腰辺りをごそごそ。それから鉤爪付きの大きな手を差し出す。



【ニジイロトカゲの尻尾×3】を手に入れた!

【脱出の羽×3】を手に入れた!



 うをををを~っ、これは私にとってはかなりありがたい!

 さすがモグマ様分かってらっしゃる! やっぱモグマ様は他のキングの方々とも一味違うと思ってましたよ。

 よっ、太っ腹!

 と、心の中で喝采を浴びせつつ、ワンモアおねだり。



【ロイヤルモスの繭×5】を手に入れた!

【煌鉱石×2】を手に入れた!



 さらにさらに?



【ニジイロトカゲの尻尾】を手に入れた!

【金鉱石×10】を手に入れた!



 もう一声!

 と思ったのだけれど、おねだりチャレンジはここで打ち止め。モグマ様もさすがに四回目以降は反応しなくなってしまった。

 まあまあ、三回成功すれば全然いいほうよ。キング幻獣にしても普通の幻獣にしても、おねだりの連続成功はよくて三回、稀に四回ってくらいだからね。


 よしよしほっくほく。あとは帰りがてら他の幻獣にもおねだりしつつ、道に迷ったら脱出の羽でさっととんずらしますかね。

 おねだりはクールタイムが存在しないから、[持久]の余裕さえあれば使い放題ってところも神なんだよね~。



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