233日目 流離い傭兵の衣装セット
【きまくらゆーとぴあ。トークルーム(公式)・遠征クエストについて語る部屋】
[ドロップ産制覇する]
弱小ながらもハント要素を楽しみたいんならツーフェイス
幻獣素材やクエストは一切無視してでもゲームを進めたいならファンデかイキリかな
[小柳°]
>>ドロップ産制覇する
ありがと
その三つで調べてみた
無理してバトらなくてもフィールド突破するのは可能なんだね
じゃあファンデかイキリにしようかな
[吉野さん&別府]
対立しないこと最優先ならイキリ一択だけど、
ファンデは友好幻獣を増やすというメリットがデカいからそこんとこも考慮に含めたほうがいいぞ
ファンデならではのイベントとかあるし
[ミルクキングダム]
>12/1のアップデート予定
>①新エリアを三つ開放します。
マジでこのお知らせは何やったんや…
[もも太郎]
よくあるよくある
いちいち気にしてたらきりがない
[msky]
いや気にするだろ
[いりす]
「エリア」って表現が地味に気になってる
「遠征フィールド」とか「幻獣巣」という書かれ方ではないんだよね
[ee]
えっ、ワンチャン居住区ですか?
[ナルティーク]
これで単なる補給都市だったら笑う
[ヨシヲwww]
いらねーよw
[鶯*]
別に何だっていいんですけどそれより発表したことはちゃんと実現させてくださいっていうね
[れおれお]
アプデ予定③の「スキル内容表記の仕様を一部変更します」もどこか分からん
どうでもいいと言えばそれまでだが
[重]
アプデなんてなかった…?
[狂々]
>>ミルクキングダム
この文面普通のゲームだったら「大型アプデ」として大々的に宣伝しそうなもんなんだけどな
[エルネギー]
マジでそれ
新マップ一挙開放と聞いてわくわくしながら有休取ったらこれだよ
お陰様で明日から皺寄せ連勤だしほんまクソゲー
[モシャ]
うわあ
ご愁傷様過ぎる…
[ゾエベル]
>>エルネギー
そんなおまえに多分ほへプロはこう言っている
「実装はしてますが何か。有休中にそれを見つけられなかったおまえが無能なだけだよ(鼻ホジ)」
[イーフィ]
何となく傾向は分かってきた
「ワールドイベント【賢人達の遊戯会・エリン主催編】開催決定!」みたいなかんじであざとく宣伝してきたら運営把握済み
「12/1のアップデート予定①新エリアを三つ開放します」みたいなかんじで事務的なお知らせだったら運営も把握できてないAIの暴走
[ねね]
商売下手なほへプロちゃんは新エリアの開放が重要な集客要素であるとは認識していないと予想
[檸檬無花果]
だとしたらその極端な判断、それこそAI運営なんじゃ?
[ナルティーク]
まずほへとプロジェクトを「運営」とする我々の考え方が間違ってるんだと思う
はじめに「きまくら。」という世界があり、ほへプロはその観測者に過ぎないんじゃないか?
ほへプロはきまくら。と我々を仲介しているだけなんだよ
[陰キャ中です]
ちょっとおもろい
60点
[えび小町]
運営の背景とかどうでもいいけど、
実際システム的に開放されてはいるがプレイヤーがそこまで辿り着いてない、っていうのがファイナルアンサーなんだろうな
…って妙な信頼感が植え付けられているあたり、俺も大概訓練されているらしい
[エルネギー]
ぐだぐだ言ってないでおまえらさっさと新エリア見つけてこいよって話
だが来週末までは待っててくれな
俺がインできねーから
******
ログイン233日目
その日私はショップの操作パネルから開いたリクエスト販売ページを睨んで、少し悩んでいた。
納品した順――――つまり古い順に並ぶよう設定してあるんだけど、トップに表示されているのは【流離い傭兵の衣装セット】となっている。これは依頼者のアバターに似合うよう仕立てた、新デザインの衣装なんだ。
切っ掛けは、「久々に男の子用の服でも作りたいなー」って思ったこと。そうしてリクエストページをぱらぱら捲ってたら、[エルネギー]さんっていう名前が目に留まった。
依頼内容はデザインとは全然関係なくて、『雷ダメージ無効若しくは雷ダメージ吸収の服』という性能に関するものだった。
でも彼の名前には覚えがあったんだよね。一応会ったこともある。
この方は先のワールドイベント【賢人達の遊戯会・エリン主催編】のメインゲームにリーダーとして参加していたのだ。
しかも、イーフィさんと手を組んでうちの拠点を乗っ取りに来た張本人。挙句の果てに勝手に仲間割れしてあっさり散っていくという、見事な小物ヒールムーブをかましていた。
とまあ決して友好的な関係にある人ではないんだけれど、それはそれ、これはこれ。
さっきまでバチバチに敵対していた人が時と場所を変えれば客と店主の立ち位置になるだなんて、ゲームの世界ではよくある事象だ。そのことは彼がうちのリクエストボックスを利用していることからも瞭然である。
何より、依頼者の
そういったわけで私はエルネギーさんの依頼を引き受けた。そして以前目にした彼の外見をもとに、好みを推測したり似合うコーディネートを考えたりして出来上がったアイテム――――それがこの【流離い傭兵の衣装セット】なのだった。
彼ははねっけのあるメンズミディアムな黒髪で、右側に二筋、青のメッシュを入れている。切れ長の鋭い双眸や三日月型に歪んだ大きな口が、どことなく蛇を連想させる青年だ。
ちゃらっぽくて胡散臭い優男ってかんじかな。
で、大太刀と脇差を一本ずつ背に差していて、纏っているのは和風っぽい衣装。でも足元はブーツだった。
それで私は、エルネギーさんの嗜好から逸脱しないよう“和洋折衷”というテーマを支柱にしつつ、衣装を作ることにした。
着物っぽいゆったりした袖と和柄の付いた外套に、学ランのような立て襟のかっちりした上着。
ボトムスは大きなポケットの付いたカーゴパンツだけれど、その上からロングブーツを履く仕様にして、たっつけ袴――――袴の裾を膝下に括り付けた、武士や旅人が用いた服装――――みたく見えるようにしている。
ブーツは
全体の色は藍色と黒で、水色や黄緑なども時折装飾に混ぜている。
そうして派手ではないけれど、異国情緒の感じられるネオファンタジックな装いが出来上がった。
依頼通りの効果も付けたし、オリジナル新作ならではのミラクリも勿論付いてるんだよ。
【流離い傭兵の外套】
品質:★★★★★
ライフクロスで作られた服。
主な使用法:装着
効果:雷属性ダメージ無効 持久+1700
消耗:670/670
習得可能スキル:アリスメティック・ミロワール
(アリスメティック・ミロワール:任意発動スキル 消費10~ 対象の弱点属性を算出する)
セットボーナス:木属性付与
【流離い傭兵のブーツ】
品質:★★★★★
ライフレザーで作られた靴。
主な使用法:装着
効果:雷属性ダメージ無効 [眠り]無効
消耗:670/670
習得可能スキル:走馬灯
(走馬灯:条件発動スキル 消費40~ 自身が[衰弱]状態にあるとき限定で発動可能 対象の[耐久]が半分以下である場合に限り、対象を[衰弱]状態にする(範囲・大) このスキルは発動するに当たって[衰弱]状態の影響を受けない)
セットボーナス:木属性付与
ね、悪くないでしょ。
因みにスキル【走馬灯】の要点となってくる[衰弱]状態っていうのは、いわゆる瀕死――――耐久ゲージが残り少なくなって赤くなってるときのことね。
きまくら。だとこの状態のときさらに、スキルに使う持久値が二倍になって、且つスキルの威力が減ったりと、結構なハンデが生じるんだ。
よって走馬灯はいわば周りの人を大量に道連れにするようなめいわ、じゃなくて強力スキルとなり得るだろう。使いどころは選ぶだろうけど、いざというとき嵌まれば強いってかんじかな。
とまあデザイン的にも内容的にも、胸を張って自信作と言いきれるようなアイテムができたのはいいんだけど――――――冒頭で述べた通り、リクエスト販売ページのトップにこれが表示されてるんだよね。しかもずっと、きっかり一週間も。
これが何を意味するのかというと、エルネギー氏が購入せずに放置している、ということに他ならない。
私のショップではリクエスト依頼者の優先購入権は一週間に設定しているため、通常ならここでこのアイテムは一般販売に流すことになる。
でもなあ……、やっぱ、エルネギーさんのために特別に仕立てた服だったから、勿体ないなあ残念だなあって、思っちゃうんだよね。
以前にもこういうことがなかったわけではない。何てったってリクエスト販売の利点はそこだからね。
リク主は購入の責任を負わず、店主も販売の責任を負わない。ただ需要と供給の事情が上手い具合に合致すれば取引は成立するかもしれないっていう、そんな曖昧で気楽なシステムなのだ。
けど、リクエストボックスに納品したオリジナルの新作が購入されないのは初めてだったもので、ちょっぴりショックを感じているところ。何せ新作デザインに付き物な“習得可能スキル”は、相変わらず大人気要素だからさ。
そしてしょんぼりしてしまう自分を分析するに、そういった世間一般の評価に甘えて調子乗ってたところは確かにあるかもって、反省もしてみたり。
だって結局どんなに凄いスキルを付けようとどんなにデザインを凝ろうと、依頼者の要望がそこでなかった以上、私のエゴ、自己満に過ぎないもんね。
エルネギーさんのリクエスト内容は、『雷ダメージ無効若しくは雷ダメージ吸収の服』というもの。別にスキルもデザインも、彼の希望に含まれてはいないのだ。
何なら私がオプション色々付けたせいで値段バカ高くなっちゃって、逆効果ですらあったかもしれない。
だからといって価格についての意見があったわけでもなし、自重しようとも思わないけど、それで買われなかったからってがっかりしちゃうのは目的をはき違えてるよね。
私は作りたいものを作る。
このスタンスはこれからも崩す気はないのだから、傲慢になっちゃいけない。お客さんは買いたいものを買えばよいのだ。
でも――――――折角エルネギー氏のアバターに合わせて仕立てた服を誰かも分からないプレイヤーに売る気にはまだなれなくて、私はその衣装セットを、そっと収納インベントリに仕舞い込むのだった。
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