93日目 情報屋(前編)

ログイン93日目


 場所はレスティン中央市街の一角。特に目立った要素のない一軒の店舗に、鳩のマークの看板がぶら下がっているのを確認する。

 目的の店を見定めた私は、気合を入れるべく大きく息を吸った。


 そこは聞いたところによると、“情報屋”であるらしい。NPCが商う公式のものではなく、まさしく[情報屋]と名のついたプレイヤーズクランが非公式で行っている商売の、その支店だそうだ。

 彼等は一般向けの攻略サイトも運営しており、かなりちゃんとした信頼できる組織――――勿論きまくら。的になわけだけれど――――であることが知れている。


 かく言う私もくだんの攻略サイトにはたびたびお世話になっている。それときまくら。内の情報屋も過去に一度、間接的に利用したことがあったり。

 二か月くらい前になるだろうか。シエルちゃんとの一回目のデートが終わったときのことだ。

 いつぞやの革命イベントみたく変に絡まれるのが嫌だったもんで、こちらから攻略情報をばら撒くことにしたんだよね。それを手伝ってもらったのが、この情報屋という組織なのだ。


 とはいえあのときは陰キャさんが率先して動いてくれたので、私が直接このクランのメンバーと話したり、店舗に赴いたりすることはなかった。だからいずれにせよ、相手は初対面のプレイヤーだ。

 昨日タイミングよく妹から連絡があったもので、この件について少し相談することはできている。組織の勝手は大まかには理解できたし、私の意向に沿うサービスを提供していることも確認済みだ。


「門前払い? ないない。ブティなら大歓迎でしょ」


 私を安心させようと大袈裟に言ってる感は否めないけど、そんなお墨付きもいただいた。


 ……でも、やっぱり緊張する!


 思えば私、自分から“クラン”というコミュニティに関わりに行くのは、これが初めてかも。


 プレイヤー個人のショップを覗くことはちょいちょいあるし、偶然そこの店主本人と鉢合わせてしまったりすることもある。

 露店とかなると本人がいないと成り立たないシステムになってるから、その手の交流であれば多少は慣れてきた。

 とはいえ、それはそれ、これはこれ。未知の組織の門を叩くというのは、私にとっては並の勇気では足らない。


 でも、決めたんだ。


 正直なんでここまでして慣れないことに挑んでるのか、自分でも分からないところがある。けど、だったら分からない内に、我に返らない内に、勢いのまま押し通さねばという気持ちもある。

 いざ尋常に、馳せ参ず!


「いらっしゃいませ~。あ、ブティックさんですか? リンさんからお話はうかがっております、どうぞ中へ」


 え、あら、そうなの?

 店の前に立っていた町娘っぽいプレイヤーにさらっと案内され、拍子抜けする私。


 なんか“情報屋”って秘密組織っぽいというか、非日常的な響きがあるじゃん。もっと、「合言葉を言え!」って無茶ぶりシリアスロール振られるとか、制服は黒スーツに黒ネクタイ銃は常に携帯してるとか、エンタメチックな世界観を勝手に想像していた。

 こんな普通も普通、ともすれば街に埋もれてしまいそうなくらい普通なお姉さんが、普通ににこやかに接客してるもんなんだね。


 あとリンちゃん、先に私が来るってことを向こうに伝えておいてくれたらしい。さすが我が妹、機転が利く。


 そんなわけで、少し肩の力を緩めて敷居を跨いだのだけれど――――――。


『いらっしゃいませ、ブティック様! ようこそ情報屋へ!』


 ――――――次の瞬間には、再びぎゅっと、肩に力を込めるはめになったのだった。




******




【きまくらゆーとぴあ。トークルーム(非公式)(鍵付)・クラン[秘密結社1989]の部屋】



[ゾエベル]

でしょでしょ

マジで月曜楽しみ過ぎて俺こっから一睡もできんかもしれん


[リンリン]

あーはいはい

よかったねよかったね


[ヨシヲwww]

一睡もしない予定なら今夜オールでラッシュ狩り行こうぜwww


[KUDOU-S1]

若いねえ


[ゾエベル]

しかもNPCへのプレゼント用だっていうのが分かっていつつ、ちゃっかりスキル付いてくるのがビビアクオリティなんですわ

こーゆーところが国宝たる所以ゆえんなんだろうなーと


[KUDOU-S1]

へえ?何のスキル付いてたの?


[ゾエベル]

はんのろっす


[ヨシヲwww]

は?


[KUDOU-S1]


[リンリン]

ちょま、え、な、んでそういうことさらっと言っちゃうかな!?


[ヨシヲwww]

はああああああああ!!?


[KUDOU-S1]

おっとっとっと


[ヨシヲwww]

おいゾエ

まさかとは思うが


[ヨシヲwww]

まさかとは思うがおまえそのはんのろ付きアイテム、脳死でシャンタに渡したりしてないだろうなあ?


[ヨシヲwww]

勿論プレゼント用にコピー品を頼んで、オリジナルのほうはちゃんと自分でキープしてるよなあ?


[ゾエベル]

えー?

んなケチなことするわけねーじゃん

愛する人にこそ一流品を捧げるのが漢ってもんだろ


[ヨシヲwww]

くたばれええええええええ!!!!


[リンリン]

あーあー


[ヨシヲwww]

てめえっ、俺がそのスキルをどれだけ欲していたか知らんかったとは言わせねーぞ!

結晶の使い方を会議するたび、何度はんのろの候補が挙がったことか!!

さすがにくれとは言わねー

だがしかし、PTに一人でも所持者がいればPT全体に恩恵が行き渡るそれがはんのろ!

ラッシュのたびイベントのたび、俺等は何度このスキルがあればと嘆いたことか…!!


[ヨシヲwww]

おまえは忘れたのか!?

対アルマジロ戦のとき、あのスキルのせいで同盟に狩場を荒らされた絶望を!悔しさを!!


[ゾエベル]

はあ

言うてヨシヲいっつも全然関係ないスキルに結晶使ってるじゃん

そこまで欲しいなら自分で取れよ


[ヨシヲwww]

サブスキはまだ国宝産でワンチャンあるからまずは順当にハイスキで地力を上げていこうって、

毎回毎回会議の結論はそうなってんだよクソがあ!

おまえは今まで何を聞いてたんだ!?あ!?


[リンリン]

待って待って落ち着いて

ゾエは「はんのろ」って言っただけで、「反撃の狼煙」とは限らないよね

違うんでしょう、ゾエ?

その、はんげきの、えーっと…のろまとか


[KUDOU-S1]

リンちゃん( ;ㅿ; )


[ゾエベル]

いや反撃の狼煙だけど

のろまなんてスキルあるんすか?


[KUDOU-S1]

リンちゃん……!( ;ㅿ; )


[ヨシヲwww]

外野は黙ってろってんだよボケが!


[KUDOU-S1]

リンちゃん、時間の無駄だからもう抜けていいよ

ヨシヲは後で潰しとくから^^


[ヨシヲwww]

あーーーーーーもう限界マジで限界ダル過ぎこいつ日本語通じねえ

俺は常々思ってたよゾエ

スタンピードのサボりといいラッシュのとき急に消えるんといい

てめえはゲームへの熱意が!きまくら。への真剣さが足りん!

自身の技術に甘えるがあまり、チームへの誠意が疎かになってんだよ!!


[リンリン]

頭痛い…


[ヨシヲwww]

破門だ破門!

おまえなんか結社にいる資格なし!

二度とそのツラ、俺の前に見せんなあ!!

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