66日目 シエビビシャンタ(3)

 ゾエ氏が口を開き、息を吸う気配がする。


「三つ、言えることがあります」


 ふむ? と私は顔を上げた。


「一つ。双子のスリリングな実態を知り、友達としてやや不安を抱くビビア、『シエルちゃん達のことは好きだけど、今の我が侭ぶりはよくないよ……。心配だし、このままでいいのかな……』――――――俺的にはこれはこれで美味しくいただけるシチュなんで別にむもんだ、あっ、ちょっと顔を下げないで、こっから、二つ目以降が重要なんですから」


 期待した私が馬鹿でした。

 それで? 二つ目は?


 胡乱げな眼差しを向ける私に、ゾエ氏はわざとらしく咳払いしてみせる。


「二つ。メタいことを言って恐縮なんですけど、ストーリーの中で彼女等の不遇な立場がチラつかせられたわけでしょ? さすがに何の意味もなくこの情報がシナリオに組み込まれるとは考えにくいです。多分伏線の可能性が高いっすよ。救いに繋がる伏線。カタルシスです」

「あー、まあ、それは私もちょっと思った。たださっきも言ったようにきまくら。ってユーザーに容赦ないからさあ。例えばこの前のワールドイベントの全体結果とか、失敗してる前例あるんだしもっとハードル下げてもいいんでない? って感じるんだけど、結局大成功には至らず終わったし……。革命イベントも、一方に利益があって一方に不利益がある、みたいなかんじらしいじゃん? そーゆーの考えると、シエシャンバッドエンドなんかも普通に用意されてそうで、且つそこに至る地雷も簡単に踏んじゃいそうで、怖いんだよね……」

「ビビアさん。それですよ、それ」


 無限マイナス思考に陥りかけている私の目の前で、彼はびしりと人差し指を突き立てた。


「仰る通りきまくら。というゲームはユーザーに容赦がない。しかしですね、それは裏を返せばユーザーの選択と行動を尊重した結果とも言えます。きまくら。はよくシナリオの多様性が評価されていますが、これはプレイヤーの意思決定に重きを置いた根幹的な理念に基づいているのです」

「う、うむ……?」

「ちょっと話が飛躍しましたが、つまり何が言いたいかというと、シエシャンの未来、最終的なポジションも、プレイヤー側の選択と行動にかかっている可能性が非常に高いということなんですよ」


 ………………ほう? 分かるような分からないようなかんじだったけれど、ちょっと今のは心に響いたぞ。

 僅かに揺れた鼓動を、次の彼の言葉が今度は大きく震わせる。


「じゃあ誰がシエシャンの未来を救える立場にいるのか。これが俺の言いたいことの三つ目。その位置に最も近いのは、ビビアさん、他ならぬあなたです」


 あっ、なんかいいこと言ってる。凄くいいこと言ってる気がするぞ!


「きまくら。がなぜプレイヤーに対して当たりが強いように感じられるかというと、簡単なことで、プレイヤーどもが糞野郎どもだからに他なりません。まあオンゲ住民なんてどこも大体そうですが、基本自分中心ですからね。ランキングなりデートイベなり、競争性を煽る仕組みなのでしょうがないっちゃしょうがないですが。俺も含め、奴等自分の優位性を確保するためならシナリオ上のハピエンなんてどうでもいいもんで、あの手のイベントなんざ成功しようがありません。それはシエシャンの件に関しても等しく言えることでしょう。最近は株が上がってきたとはいえ、ツインズはリルと対立してますから。今回のデートイベが公になれば、状況はもっと不利になるかもしれません」

「そ、そんな……。ダメじゃん」

「だからこそ、あなたが頑張らないで誰が頑張るんだって話なんですわ」


 そのとき、私の霧が晴れた。

 ――――――そっか。……確かにそうだ。


「このたびのデートで、双子のデンジャラスな一面が明らかになったのは事実のようです。けどビビアさん、あなたに対する態度はどうでしたか? 二人はあなたのこと、どう思っていますか?」

「シエルちゃんとシャンタちゃんは、私のこと友達だって……。貴族で、お嬢様なのに、私のこと尊敬してるって……」

「彼女等のそういった一面を最もよく理解しているのは、――――俺にとっては悔しいことでもありますが、現状、ビビアさん、あなた一人なんですよ。そのあなたが双子の味方をやめてしまったら、それこそあなたの恐れることが起きるのみですよ」

「……うん。うん! そうだね。ほんとにそうだ」


 ゾエ君、凄いなあ! 多分年下なのに、めっちゃ励まし上手!

 なんか俄然元気がでてきたよ。


「ありがとうゾエ君。私、頑張るよ! 諦めないで、シエルちゃん達を応援し続けるよ!」


 拳を握り締め決意を表明する私を、彼は微笑ましげに眺めている。


「昨日はシエルちゃん達を闇堕ちさせやがった貴族どもに一矢報いようと貴族街に火を放つことも考えてたけど……」

「ほう」

「いや、勿論冗談だけどね? でも、そんなんじゃなく、もっと真っ当な仕方で二人を幸せにする方法が絶対あるはずだよね! きまくら。ってきっと、そういうゲームだよね!」

「ええ、ええ。ビビアさんは安心して己の信ずる道を進んでください。俺はそれを脇からそっとサポートしますんで」


 もう、ゾエ君、『そっと』じゃなくて、がっつり協力してよね。まあでもシャンタちゃんラブなゾエ氏のことだから、彼もまた彼のやり方で手を尽くすに違いない。

 そう考えると、何だか自信が湧いてくるから不思議だ。

 シエルちゃん最推しの私と、シャンタちゃん最推しのゾエ氏。二人が力を合わせたら、もしかして無敵かも。なんてね。


 それから彼は彼の活動に戻り、私は私の活動に戻っていった。

 新しい衣装を製作している最中さなか、ぴーんぽーんぱーんぽーん、と全体アナウンスが入る。


『革命イベント【アダメラ伯爵家の大火】が実行されました。これより、新フィールド【隠された遺跡】の開放、アントワーナのコミュニケートミッションの開放、他、関係する社会情勢に変動が生じます。詳しくは公式動画サイト“きまくらひすとりあ。”を参照してください』


 それを聞いているとゾエ君の台詞が思い出され、自然私の口元は綻んだ。


 ――――――プレイヤーの選択で、未来は変わる……。


 うん。きまくら。って絶対、そういうゲーム。




******





【きまくらゆーとぴあ。トークルーム(非公式)・ダムの配信をリアタイで視る部屋・コメ凸するほどでもないチラ裏用】



[バレッタ]

ウルフ飼ってると持ってきてくれるの知らんのか


[ハカセ]

骨馬繁殖させようぜ


[3745]

だから牧場整備まで手を回したらキリがなくなるとあれほど…


[hyuy@フレ整理中]

フルムーンラビットマヂカワイイ…


[Itachi]

結局貴族街行くんかい


[ヨシヲwww]

優柔不断gdgd配信w


[ソース]

リル様警報発令!リル様警報発令!


[竹中]

ok

配信閉じる


[いりす]

リル関連は裏でやれよな

同接減るって分かってんだから


[名無しさん]

あ、ゾエじゃん


[ドロップ産制覇する]

しれっとゾエwwwww


[コハク]

ゾエさん何やってんの~


[アリス]

えwwwwww


[ハカセ]

wwwwww


[マ ユ]

ヤバ


[3745]

イカれゾエワロスw


[もも太郎]

え?火い点けようとしてる?

マジで何やってんの


[ポワレ]

見事なまでの火炎瓶の無駄遣い

セーフティゾーンで何やってんだか


[くるな@復帰勢]

これ絶対近付いたらあかんやつやろ


[いりす]

怖いもの知らずのダム


[Itachi]

wwwwww


[弐]

ゾ「ええ、ええ……。ビビアさんは安心して己の信ずる道を進んでください……。裏の始末はこの俺が……」

ダ「wwwwww」

俺「??????」


[否定しないなお]

ブツブツ言っててキモい


[深瀬沙耶]

呼吸荒くてキモい


[コハク]

ダムさんのこと全く視野に入ってなくてわろた


[ソース]

ゾ「ここの運営のことだからどっかにシステムの綻びなりバグなりあるだろ」

説得力あるんでやめてもらっていいすか


[レナ]

理解した

あの屋敷アントワーナの家だわ

シエシャンいびり筆頭の


[名無しさん]

ああ、あの陰湿伯爵令嬢


[まことちゃん]

ダム氏何かを察してそっと離れる


[((ぼむ))]

こいつ最初から最後まで笑って誤魔化してるだけだったな


[明太マヨネーズ]

え待って後ろ後ろ後ろおおおおーーーー!!


[くるな@復帰勢]

火!火い点いてる!

笑って去ろうとすな後ろ見ろ!


[ハカセ]

うええええええ!?


[狂々]

すんげー勢いで燃え広がったな…


[マ ユ]

ゾエ消えてる

個別モードに入った可能性微レ存?


[水銀]

なんかのイベント踏んだか


[レティマ]

同接数膨れ上がってて笑う


[バレッタ]

屋敷は燃え続けてんのに周囲のNPCの動きがほとんど通常通りなのシュール過ぎ


[msky]

これ、どうなるんだ…?


[否定しないなお]

あ、革命

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