137日目 マッチクエスト(5)
はやっ!!
考えることなど何もないような、洗練された無駄のない動きに私は目を瞠る。
いや、一応私も動画とか観て予習はしてきてるもので、似たような素早い立ち回りも目にしたことはあるよ。
けどこういうのって気心の知れた人間どうしのパーティだからこそ、あるいは事前にしっかり作戦を練っているからこその、コミュニケーションありきのものだと思っていた。
しかし試合前に聞いた話によると、この三人は普段から同チームで行動しているわけではなく、ちょんさんも名無しさんもあの募集ページから参加してきたとのこと。
にも拘わらず、彼等はまるで最初から自分の役割が分かっているかのような迷いのない動きをしている。
凄過ぎない? このまま彼等の動きを観察しているだけでも、十分勉強になりそう。
しかし勿論私もパーティの一人としてゲームに参加しているわけで、のんびりしてはいられない。敵チームの面々も既に動きだしている。
マップを見ると、三つの味方アイコンが三つの旗アイコンのほうへそれぞれ向かっているのが見えた。
えーっと、まずは一人一つの旗を担当して点数を稼ぎに行くという、滅茶苦茶特攻的な戦略かな? そしたら私は余った最後の旗に向かうのがよさげか。
そう思い、こちらのリス地からは一番遠い旗印を目指して走りだす私。
しかし台座が見えてきたと思ったら、そこには既に水色――――相手チームの紋章旗が立っていた。そしてそれを認めると共に、私は敵達に囲まれていることに気付くのだった。
ひえー! すみませんでしたー!
画して始まるスキルの集中砲火。私の耐久はあっという間に削り取られ、何が何だか分からないままゲーム開始の場所にリスポーンする。
いや確かに今のは私が圧倒的に悪い。旗に向かってる最中、マップ上で他の旗アイコンが黄色――――自陣の色に輝いていたのは見えていたわけだから。
既に三か所、相手チームに占拠されてしまったとあらば、まず未だ手を付けられていない残りの一か所を確実に取りに行くのは普通の考え方だ。
そしてそんなふうに相手プレイヤーが集中するであろう場所に私みたいなお雑魚さんが単独で向かったら、そりゃ袋叩きにもされるわけだ。ぐぬぬ!
となると、味方の近くでサポートに徹するのが、少しでも自分を役立てる方法だろうか。気を取り直し、今度はいまだしっかり黄色く輝いている旗のうちの一つを目指し、走りだす。
けれど少し移動したところですぐ、私の前に敵プレイヤーが立ちはだかった。
もっとも今回相手にするのは一人。私は護身具である番傘を構えて応戦する。
さっきの四人に囲まれた状況とでは、訳が違うんだから。
【傘技】はね、防御とダメージ射程に秀でた器用な子。
傘を広げれば盾のようにして攻撃を防げるし、閉じた状態から勢いよく開けば花火みたいなモーションがでて、銃や弓矢のように飛び道具としても使えるよ。さすがに銃や弓矢よりかは飛距離が劣るけどね。
……って、あれ? 傘盾で上手く攻撃を防げたと思ったのに、いつの間にか無防備な背後に回られてる!?
ちょ、追い付かない追い付かない、動きが追い付かない! この人私が一回アビリティコマンド発動してる間に、二回攻撃してきてない?
ズルだよそれ! ズルでーす、この人ズルしてまーす!
と、嘆いてる間にさようなら耐久値、こんにちはリス地。そして繰り返される粘着攻撃。
なんか……イライラする! このゲームイライラするんですけどお!
その時だった。
大きなカラス型幻獣【コクヨウガラス】が突如飛来し、私に絡んできていたプレイヤーに攻撃を仕掛ける。そして彼がカラスに気を取られている間に、頭上の枝からこちらの枝へと、ちょんさんが飛び移ってきた。
「【
ちょんさんがそう叫んで持っていた杖を横薙ぎに振ると、そこから雷光迸る
「だいじょぶか、ブティックちゃん?」
「あ、ありがとうございます! すみません、あの人攻撃が速過ぎて私じゃ全然太刀打ちできなくて」
「傘は動きが鈍重なのと近距離に弱いのがネックだからな。こんなん、味方の背中に隠れてぱしゅぱしゅやってんのが一番いーのよ。ほらこっちおいで」
言ってちょんさんは駆け出す。自分の持ち場に私を連れて行ってくれるようだ。
めっちゃいい人!
旗台までの道中では二回ほど攻撃を仕掛けられたけど、どれもちょんさんの幻獣が防いでくれた。
辿り着いた旗台では、丁度名無しさんと白いわんこが二人のプレイヤーと旗取り合戦を繰り広げている。
名無しさんは私達を認めるとすぐにその場を離れたもので、一時旗は相手チームの色に染まった。しかし即座にちょんさんが二人を仕留めたため、それは本当に束の間のことだった。
しばらくは脅威が来ないものと判断したのだろう、ちょんさんはこの時間を用いて立ち回り方のレクチャーをしてくれる。彼は旗の脇に立つと、私を呼び寄せた。
「ブティックちゃん、ここ。君は基本、ずっとここに立ってるのがいい」
「ずっと、ですか? 動かずに?」
「そう。俺は前にでて向かってくる敵の相手をするから、君には傘で援護射撃を頼みたいんだ。マッチクエではフレンドリーファイアないから、俺のことは気にせずばんばん撃ってくれていい。何なら別に相手に当たらなくともいい。君がそこにいて、傘花火撃ってくれてるだけで大分嫌な牽制になるから」
「なるほど!」
いいアイディアだし、それなら私にもできそう!
なんて感心してる間に、早速復帰した敵さん二人がスキルを放ちながらやって来た。
ちょんさんは鮮やかな手並みで幻獣を操りながら、彼等の猛攻を捌いていく。私はそのごちゃごちゃしたポイント目掛けて、ばっしゅばっしゅと脳死で傘花火を打ち込んでいく。
凄い! 敵さん達、めちゃくちゃ迷惑そう!
こんなに簡単なのに、なんか仕事してる感あって楽しい!
実際私の花火がトドメの一撃になって、敵の一人をダウンさせられたことなんかもあったしね。……って、まあ、それもこれもちょんさんの前衛としての働きありきなことは、勿論分かってますけど。
やっぱりこの人、相当ゲームが上手い。そして私達のところに敵が集中したりすると狂々さんと名無しさんが援護に来てくれたりするんだけど、この二人も凄く上手い。
その上手さというのに違いがあるのも面白いところ。
ちょんさんは機動力とコマンド捌きの鬼ってかんじ。すばしっこくて、相手を攪乱しながらの攻撃がほんとに正確無比なの。
しかも彼、職業獣使いなわけでしょ? 自分があの動きしてる中で、眷属獣三匹への指示も怠ることなくこなしてるんだよね。
結果生み出される人間一人と獣三匹の鮮やかで調和の取れた協力プレーは、見事と言わざるを得ない。
名無しさんは非常に分かりやすい特攻屋だ。とにかく前にでて派手に動くタイプ。
だからちょんさんや狂々さんと違って、ダウン――――耐久ゼロになって倒されてしまうこと――――することも少なくない。正直はじめは見てて、この人ちょっと無鉄砲過ぎやしないか?って思うこともあった。
けど、観察を続けていく内に分かってきた。ことチーム戦においては、こういう役回りも必要なんだなって。
名無しさんが先頭で暴れて目立っているものだから、相手チームのヘイトを全部そっちで引き受けてくれるんだよね。だから他のメンバーが自由に動きやすいんだ。
名無しさんがそれでダウンしたとしても、その間機を窺っていた他二人が残党を処理してくれて、総合的に見るとすごくスムーズに事が回ってるようだ。
狂々さんは個人としての能力が飛び抜けてハイスペックなかんじがする。何ていうか、バランスがいいの。
味方ありきで200%の力を発揮する名無しさんとは違って、防御を怠らずノーデスで着実に点を取っていくタイプのようだ。そして勝てない勝負には絶対でないという固い意志を感じる。
見てて安心感があるね。さすがマイペース大王。
なんて観察しながらばしゅばしゅ傘花火打ってたら、いつの間にか二戦終わっていて、いつの間にか我々のパーティが二勝先取していた。
当初の不安があっという間に吹き飛んでしまうくらい、あっさり終わったマッチクエストであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます