122日目 舞踏会(15)

 え? と、私は驚いて顔を上げる。

 ユカ嬢なんかはもう「ええ!?」と口にだして驚愕を表現している。


 ……いや、四票、までなら分かるんよ。

 私とゾエ君とササでしょ。それからヨシヲ。

 ゾエ君はあまり信用できないなんてこと言ってたけど、結局ヨシヲも約束を守ってくれたんだなーって、まあ、そこまでは分かる。

 けど五票て。


 ユカさんは絶対シエルに入れた一人だろうから、残っているのは――――――だ、ダムさんまさかのリルへの自投票? なんで!?


「悪癖がでたな」と呆れ顔のヨシヲが呟く。それを受けてミルクキングダム氏は、「いやあ」と頭を掻く。

 私と目が合うと、彼は苦笑した。


「だって見たいじゃん、レアケ。他の卓だったら俺の一票ごときで結果は変わらんだろうけど、ここは天下のブティック卓ですよ。大船に乗った気分だわ。あとトワちゃんは絶対リル擦り狙ってるだろうなーと思って」


 彼の言っていることはよく分からなかったけど、そんなことを話している間にBGMが切り替わる。可愛らしいテンポではあるものの、怪しげな響きのクラシックメロディだ。

 がたっ、と顔を青くしたリル様が立ち上がった。

 エンディングが始まったらしい。


「馬鹿なっ……! 私が、犯人だと……!? 頼む、もう一度考え直してほしい! これは罠だ、私達は嵌められている! 害を被るのは私だけではない、いずれ君達も……もしかすると王国全体が震撼する事態に陥るかもしれません……!!」


 必死に訴えるリル様だったけれど、フェルケ姫は悲しくそして厳しい眼差しで彼女を見つめ、静かに首を横に振る。


「これは綿密な調査と推理のもと、皆で導きだした結論です。決定は覆りません。リル……まさかこんなことをしでかすあなたを見ることになるなど、どうして想像できたでしょうか……」

「違う、私ではない! フェルケ姫、正義と真実を愛するあなたなら分かるはずです! 私はそんなことはしない!」

「………………連れて行きなさい。話は後でゆっくり聞きます」


 リル様の叫びも虚しく、フェルケ姫は厳かに命令をくだした。騎士達がやって来てリル嬢を捕らえ、連行していく。

 静まり返った胡蝶の間に、くすくすと可愛らしい笑い声がこだました。


「リルステンさんたら、優等生のふりして結構凄いことするのねえ」

「さすが勇気のあるお方だわ。私、見直しちゃった」

「ふふ、最近すこおし注目を集めていたものだから、調子に乗ってしまったんじゃなくて? 傲慢さは才気溢れる淑女をも破滅に至らせるもの……わたくしも気を付けなくてはいけませんわ」


 顔を見合わせて微笑む双子に、アントワーナ嬢が乗っかる。


 私としてはさすがにちょっぴり罪悪感が残る。改めて、めっちゃ悪役ムーブしてしまったなあと。

 嵌めておいて何だけど、リル嬢、後でどうにかこうにか誤解が解けるといいなあ。

 っていうかこの結果、のちのち公式サイトでダイジェスト公開されるし、何なら今まさにダム氏の配信に載ってるんだよね。ひえー、めっちゃ叩かれそう。


 けれど、しみじみ事の重大さを実感する間もなく、シエルちゃんが私の手を引っ張る。シャンタちゃんのほうはゾエ氏の手を引っ張っている。


「さあフィナーレよ、ビビア」

「特等席へ案内してあげる、ゾエベル」


 そうして二人は私達を導くのだけれど、行き先はそれぞれ別方向のようだ。私とシエルちゃんのほうは、やがてお城の西側にある塔の屋上へ辿り着いた。


 下界の喧騒に紛れて、「チッ、チッ、チッ……」という秒針を刻む音が聞こえてくる。

 屋上の真ん中に、筒状金属の集合体のようなものが不自然に設置されていた。音はそこに繋がる時計から発されているようだ。

 時刻はもうすぐ22時――――――。


 俄かに、“王城爆破”が現実のものとして迫ってくる。

 実は起爆装置なんてないって、そんなのただの双子のおふざけだって、自分に言い聞かせて悪役を演じてきた。けど装置は当たり前のようにそこにあって、物語は何の捻りもなくバッドエンドを迎えようとしている。

 本当に、シエルちゃんは最後まで悪役令嬢なのだろうか? 自分もシャンタちゃんも、私のことも巻き込んで、すべてを破壊しようとしているの? 


「怖い? ビビア」


 シエルちゃんがこちらを振り返って微笑んだ。


「私が信じられない?」


 その問いに、はっとした。脳裏に、いつぞやかのゾエ君の言葉が蘇る。


『彼女等のそういった一面を最もよく理解しているのは、――――俺にとっては悔しいことでもありますが、現状、ビビアさん、あなた一人なんですよ。そのあなたが双子の味方をやめてしまったら、それこそあなたの恐れることが起きるのみですよ』


 私は首を横に振った。


「シエルちゃんのこと、信じてるよ」


 すると彼女は一瞬、泣きそうな顔をした。瞳を潤ませて「バカね」と呟く。

 こんな時に不謹慎かもしれないけど、「きゅんっ」ときちゃったよもう。




******




【きまくらゆーとぴあ。トークルーム(非公式)・竹の配信をリアタイで視る部屋・チラ裏用・他鯖・他視点からのネタバレ禁止】



[初心者です]

うおおーーーーっ

リル様かっこいいーーーーっっ


[sangatsu]

きりっとした名探偵リル様美麗

ご飯三杯いける


[Itachi]

令嬢四人仲良くなってるのてぇてぇ

これぞまさにハッピーエンド


[森田池上]

配信視てるかんじこのエンディング導きだしてるの何気竹卓だけなんだよな


[陽子@SK]

結構条件厳しかったっぽいよね

・起爆装置を二つ見つけてフェルケに二枚の情報カード提示

・フェルケ&リルのミッション「犯人が吐いた最も重要な嘘を見破る」で少なくとも片方が成功

・投票をシエル&シャンタに集中させる


[hyuy@フレ募集中]

>>森田池上

他卓のネタバレ禁止


[昴アキラ]

竹むかつくなgg


[Peet]

竹空気読めナイスゲーム!


[SAKURAGI]

もうこれ圧倒的正史でしょ

ここ以外の展開に投票するとか有り得ん


[レナ]

まあリル派はそうなるよね

シエシャンの行く末だけが気になるなあ


[きがす]

結局ほんとのほんとに真犯人で装置もしっかり仕掛けてたとかw

どう考えても国家反逆罪w


[YTYT]

おにゃのこの友情ふつくしい

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