110日目 滅べクレクレ

ログイン110日目


 とりあえず、【エルドラドメイカー ver3.1】には“エド君”と名付けておいた。この設定を行っておくことにより、名前を呼べば反応してくれる仕組みっぽい。

 ただまあ、ゲーム世界の中の、それもプレイヤー産のロボットということなのでね。さすがに話し相手になってくれるなんてことはなく、返答は数パターン用意されてる程度っぽい。


 そして色々調べてはみたんだけど、相変わらず使い方は謎である。このままだとただの置物と大差ない。

 まあ今の時点で、この子にも大分愛着が湧いてきてはいる。いぶし銀のような少しくすみがかった金属ボディとお茶目なロボ顔は、レトロでアンティークな雰囲気があって、ただの置物だったとしてもお洒落である。

 とはいえアイテム説明に『生産補助』だとか『機能』だとか書いてあるからには、何かには使えるはずなのよね。


 実際、話しかけるコマンドを実行すると、選択肢の中に『・お手伝いを頼む』、『・おやつをあげる』とかいう項目がでてくるの。


 手伝いのほうは、選ぶとまた『・圧延』、『・切断』、『・穿孔せんこう』、『・研削』と分岐が発生する。そのどれかを選ぶと、今度はインベントリが展開され、何らかのアイテムを指定する流れになっている。

 だから多分、何か素材を切ったり削ったりっていう能力を持つ子なんじゃないかなー、と。


『おやつ』っていうのは動力源となるもの、つまり【幻石】だと思うのね。このアイテムを指定すると、なんとエド君に動きがあった。

 彼は内部に折り畳んであったらしい長い左手でそれを受け取り、背中のカバーを開いて幻石を収納したのだ。

 なるほど、これでエネルギーも充填完了となるわけか。


 それじゃ今度は適当な素材を選んで切断機能を試してみようかなー、と思ったんだけど、彼はそれっきり、うんともすんとも言わないんだよね。ネットで調べてみても、発明家や機械人形の情報ってほんと見つからなくて。

 ちょっと私独りの力ではここが限界かも。

 それできーちゃんに聞いてみることにしたんだ。


 クレクレ君に直接聞くっていうのは……うん、勇気がでんかった。

 だって『thx』の三文字だけ添えて、いきなりこんなよく分からないものをぶん投げてくる子なんだよ。説明してくれるだけの意欲と気力のある人だっていうんなら、最初っからもう少し言葉数多くしてくれてるはずだと思うんだよね……。


 で、今きーちゃんが来てくれたところなんだけど――――――。


「………………」


 ――――――エド君を目にして絶句している彼女は、驚くというより、あからさまに呆れた顔をしている。

 何だろう、既視感。これはまるで、私を見るリンちゃんの眼差し……。

 ……え、そうなると私とクレクレ君が同カテゴリ? さすがにそれはご免被りたい。


 肩を大きく上下させ深い溜め息を零したきーちゃんは、「ごめんねえ、びーちゃん……」と呟いた。


「多分びーちゃん、クーに気に入られたっぽい」


『クー』って……あ、弟君のことかな? なるほど、クレクレだからクーか。

 いいね、私も心の中でそう呼んどこ。きーちゃんとくー君でぴったり姉弟だ。

 それにしても、気に入られて謝罪されるとはこれいかに?


「あいつ基本どこまでも他人に無関心なんだけど、反面度を超えて内弁慶なとこもあって。なんか、身内と判断した相手にはやたらめんどくさい絡み方してきたりするんだ。これもその一つ」


 言ってきーちゃんはエド君を指差す。なんだか酷い言われようである。

 よく分からないけどそれって、義理堅いところがある、みたいなことでもあるよね。別に感謝される分には悪い気しないけどな。


「んー、いいふうに取ればそうなんだけど……とにかく今後めんどくさい絡みされたらごめんねって、先に謝っておくよ。何かあったら言ってね。っていうかウザって思ったら遠慮なくブロックしちゃっていいから。寧ろそうでもしないとあいつ通じないし」


 はー……と話半分で相槌を打っておく私。いや、今のところくー君のめんどくさい態度というのも想像つかないし、何ともかんとも。


 その後きーちゃんはトークでくー君に連絡を取り、エド君についてあれこれ聞きだしてくれた。


「これね、金属素材を加工する機械なんだって」

「――――――え、『金属』?」

「うん。まあ、木とか他の素材も使えるっちゃ使えるんだけど、一番金属が適してるってかんじ。切ったり、削ったり、圧力をかけて延ばしたり、穴を開けたり。ほら、びーちゃんこの前ネジパーツの長さを調整してほしいって言ってきたでしょ。あーゆーのがこの機械でできちゃうの」

「は、はあ……なるほど」

「使い方は~……って、あ、びーちゃん無属性の幻石入れちゃってるよ。これじゃ動かないよ。この子の属性は雷だから、できれば【雷幻石】入れてあげてね。風もそこそこ燃費いいほうかな。水は絶対やめてね、壊れちゃうから」


 そんなふうにきーちゃんはあれこれ実演しつつ、使い方を説明してくれる。……んだけど、私の意識は半分、別の方向に持ってかれていた。

 いや……なんかさ、これが金属加工ロボって聞いてから、きーちゃんの語るくー君の性質が妙に引っかかっちゃって。


 だって私、仕立屋なんだよ? 普通さ、こんなに機能のしっかりした、見るからに貴重で手の込んでるっぽい“金属加工ロボ”、仕立屋に・・・・お礼として贈る?

 ミシンとか、裁縫に関連した道具だとか、何なら特に機能のないただのお洒落人形とか、そーゆーんならまだ分かるよ。ちゃんと贈答品としての意味を成してるっていうか。

 けど、金属加工機って。


 気のせい、自意識過剰と言われてしまえばそれまでなんだけど、これさあ、そこはかとなくくー君からのメッセージというか、圧を感じるんだよね。

「スチパン物、これからも作れよ……。パーツ用意してやったし、加工用の機材も整えてやったかんな……。作れよ……作れよ……」って。


「……とまあ、こんなかんじ。結構便利だね。……にしてもクーの奴、なんで仕立屋のびーちゃんに敢えてこの子を寄越したんだろうね? ま、いっか。この前みたいなときに出番が来るかもだし、折角だから貰ってあげて」

「う、うん。そうだね。ありがとう。……って、よかったら伝えておいて。弟君に」

「うん!」


 きーちゃんの朗らかな笑みを横目に、私は一抹のプレッシャーを感じるだのだった。




******




【きまくらゆーとぴあ。トークルーム(公式)・アンロックについて語る部屋】



[檸檬無花果]

老師の枠も大分埋まってきたなあ


[ウーナ]

半分近くだから25人弱?


[水銀]

既に二十人以上ロックスキル持った危険人物が存在するのか…


[aubergine]

いやロックスキルて案外壊れでないし、生産系老師なんかは軒並み平和主義者やろ

キムチとかYTYTとか


[スペード]

↑そこに生産系代表のB嬢入れないところがちょっと草


[KUDOU-S1]

結構「なんでこいつが?」って奴がアンロック達成してるんだよな

よっぽど特殊なランキングが揃ってるんだろうか


[Wee]

まあ50種類もあるわけですから

イロモノも混じるでしょう


[ジャガイモ]

特にパンとまことちゃん謎やわ


[ミルクキングダム]

パンはレベルと死に戻り回数両方の数値とか何とか言っててすげー納得した記憶


[めめこ]

あ、納得


[ジャガイモ]

すげー納得したわw


[ハロー]

まことちゃんは知ってる人いないの?


[陽子@SK]

さあ…


[まことちゃん]

ぼく何もしてないよ(・ω・)


[ゆうのき。]

何もしてないってこたねーだろ


[まことちゃん]

だって何もしてないって書いてあるんだもの( ˘ω˘ )

>おめでとうございます! あなたはプレイヤーの中で最も怠惰を極めし者となり、臨界解放に達しました。


[チャーリー]

ええええw


[ドロップ産制覇する]

称号「ぐうたらの極致」でふざけてやがんなって思ってたけど、運営側もプレイヤー側も両方ふざけてやがった


[エルネギー]

具体的にはどういう数値なんだ?

ログイン時間の割にレベルの進みが遅いとか、イベント進行してないとか、キャリーしてもらってる率とか…

まことならどれも有り得そうだな


[aubergine]

これでロックスキル貰えるとかプレイヤーのことバカにしてんだろ


[まことちゃん]

きまくら。は個人の自由、個性を尊重した良ゲーなのだよ(・ω・)

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