111日目 銀河坑道(2)
そうと決めたからにはさて、銀河坑道ですよ銀河坑道。これがほんと、噂に違わぬ幻想的な美しさでさ。
岩壁で色とりどりの鉱石がきらきらと輝いてね、まるでその名の通り星空みたいな景色なの。
特に入り口から真っ直ぐ進むと現れる大洞穴は、迫力満点で圧巻である。
ここでは天井から
これで人混みがなかったら最高なんだけどねー。
あとちょっと気になるのが、その柘榴ライトの周辺でやたらプレイヤーがわちゃわちゃ蠢いてるところ。【浮遊】スキルを使ってライトにへばり付いてる人までいる。
このフィールド内でのプレイヤーの動きとしては、大体採掘作業してるか、それを邪魔する敵対幻獣と対峙しているかで、そっちはまあ分かる。けどあの柘榴ライト大好きマン達だけ、よく分からない動きをしている。
セミアクティブモードを解除してみたらば、なんか若干揉めてる雰囲気? いや、揉めてるを通り越して、争ってる……?
いつもなら帰ったら調べてみるか~くらいで目を逸らすところなんだけど、今日は遠征のベテランがいるのでね。折角なので聞いてみよう。
「あー、あれっすか。あれはね、ライトの光を奪い合ってるんです。ここ銀河坑道は、別名『縄張り争いフィールド』とも呼ばれてまして」
「光を、奪い合う?」
「そ。あの柘榴ライト、光の向きを変えられる仕組みがあるんすわ。スイッチがあって、それを押すとザクロの口が別の方向に切り替わるんです。こんなふうに」
言うなりゾエ君は腰から銃を引き抜き、ばきゅんっと天井に向けて発砲した。
瞬間、私達の周囲一帯にスポットライトが当たる。ザクロが私達のほうを向いたのだ。
と同時に、灯りに照らされた場所で沢山の採集ポイントが発生する。
「アイコンがいっぱいでてきたでしょ。ザクロライトに照らされたところは採掘作業にボーナスが入るギミックになってるんです。それと幻獣に標的にされやすいというデメリットもあります。考えようによっちゃこれもメリットですけど。そんなわけで効率ガチ勢どもは光を確保する組と場所を確保する組に分かれて、それぞれライバルと競ってるわけですね」
へ~、そうなんだ。面白い仕組みだね。
分かりやすい実演解説ありがとう。
けどねゾエ君、今君がスポットライトをこちらに向けたことにより、光のみならず人の視線をも集めている気がしてね?
プラスその視線というのが、ぎらっぎらした、「あんだこいつら邪魔しやがって。喧嘩売ってんのか?」っていう闘争心剥きだしの眼差しに見えてね?
「ゾエ君! 早くライトの向きを戻してあげて! あの、すみません、妨害する気はなかったんです!」
「あーもーアホが。こうなったからには行ったれ行ったれ」
「あひゃひゃ、ちょおーっとイイとこ見せようとして調子乗りましたわ。ま、元より無職の牽制がウザいなって思ってたところなんでえ? ここまできたら陰でちょっかい捌くより、堂々と花火ぶっ放すほうが芸術点高いっしょ」
んじゃ、行ってきま~す。舌なめずりしたゾエ君は突然腰を低くして駆け出し、人混みの中に消えていった。
反射的に呼び止めようした私の手を、リンちゃんが掴んでとどめる。
「さ、こっちこっち。銀河坑道はね、ザクロのあるメインストリートは治安悪いけど、分岐してるちっちゃい坑道のほうは比較的平和に遊べるから」
言って彼女は私の手を引いてずんずん歩いていくので、私もそれ以上の干渉は諦めた。でもやたら「わー」だの「ぎゃー」だの「くたばれ」だの騒がしくなった背後がめっちゃ気になってですね。
っていうかそういえば、きーちゃんのほうは無事だろうか。ここしばらくの間、視界に収めてないような……。
そう思って周囲に視線を走らせると、あれ、きーちゃんはきーちゃんでなんか揉め事に巻き込まれてる!?
あっちはそこまで険悪な空気ではなさそうなんだけど、集まってきた人達に対してきーちゃん含む数人のプレイヤーが何か説得するような素振りを見せている。
「リンちゃん、きーちゃんが……!」
私が訴えると、リンちゃんも足を止めて背後を振り返った。僅かに届いてくる話し声からは、「ブタキムチの……」だとか、「協定があって……」だとか、そんなワードが漏れ聞こえてくる。
「きーちゃんもしかして、いじめられてる!?」
「……いや、あれは押し寄せる波をとどめてくれてんのよ。今ブティがキムチのためにできることは一つ。さっさとこの場から離れること」
「ええ? ほ、放っといてだいじょぶかなあ」
「あのかんじじゃ喧嘩とかでもないでしょ。キムチ側にも味方が結構いるっぽいし。キムチはあれできまくら。初期からプレーしてる玄人なんだからね。いずれにせよブティの出る幕じゃない」
「うーん。ま、それもそうか……」
元より、“一緒に行動する”って約束じゃあなかったものね。確かにそれなら、あんま私が出しゃばるべきじゃないか。
ちょっと後ろ髪引かれる思いを抱きつつ、再び坑道の奥に進む私達。
けれど今度は突然目の前に、見覚えのない一人の女の子が立ちはだかった。
「もし! そちらの方、【夢幻の右手を持ちし者】、ブティックさんとお見受けします! 私は【砂塵嵐の新参者】の異名を持ちし、またの名を正義と平和の守護者ユカ! この私の目に捉えられたからには、あなたの悪行もここまでむがっ、」
……何て? なんか自己紹介がややこしくて何も頭に入ってこんかった。
などと混乱してる間に、彼女は後方から現れた集団に取り押さえられ、連行されていく。
「し、失礼しました! この子ちょっと人間違いしてるみたいです! 気にしないでくださいね、ブティックさん!」
「何をするのです! ……反乱っ、反乱ですか!? まさかあなた達、既にブティックさんの毒牙にかかっているというの!? ブティックさん、あなたという人は、よくも私の大切な仲間達を……っ!!」
「いいんちょ、いいんちょ、違いますよ、人間違いですよ。あれはブティックさんではありません」
「嘘仰い! ネームもコードも一致しています! 結社の者を引き連れているのもその証拠! っていうかさっきミキさん自身『ブティックさん』て呼びかけてたじゃないですか! あなた達こそ目を覚まして! 私達の絆を、共にきまくら。に秩序を取り戻そうと結んだあの誓いを、忘れてしまったというのですか!?」
「すみませーん、この子ちょっとアレな子なんです~~」
集団はぺこぺこと頭を下げつつ女の子をとどめようとするのだけど、なかなか難攻しているようだ。
というのも彼等が撤退しようとしている方向と私達の進路が、同一方向でしてね。こっちも後方――――メインストリートの騒ぎには巻き込まれたくないもので、戻るわけにもいかず、そうするとわちゃわちゃ集団との距離も広がらない。
寧ろ彼等からは私達がじわじわと距離を詰めてきているふうに見えるらしく、わちゃわちゃに拍車がかかるばかり。
「ひいっ、追いかけてきてる! 追いかけてきてるよ!」
「めっちゃ怒ってるじゃないですか委員長の馬鹿あ~~」
「そんな意気地のないことを言ってはいけません。勇気を出して、立ち向かうのです!」
「いいんちょもう黙って」
「あの余裕ある動き……! 俺達をじわじわ追い詰めて弄ぼうという魂胆なんだ……!」
先に痺れを切らしたのはリンちゃんだった。
「あ~~も~~埒が明かない。ブティ、いったん今日はここでお別れ。先行って、ひとりで遊んどいて。私はちょっと、こいつらとオハナシがあるんで」
彼女はこめかみに指を当て、溜め息を吐く。
「え? でも……」
「アホどもはゾエとキムチと私で分からしとくから、ブティが帰る頃には何とかなってるでしょ。いいから早く行って。あんたがいると逆に話がややこしくなるのよ」
言って「しっし」と手で追い払う仕草をするリンちゃん。なんだよう、私はお邪魔虫だってのかよう。
けど、そこまで言われてしまったからには、私としても反論する気は起きなかった。私を想っての言動であることは察せたし、こういうときのリンちゃんは結構頼もしいんだよね。
わちゃわちゃ連中も、中心の女の子はアレだけど、他の人達からはそんな剣呑な空気は感じない。だからまあ、大丈夫でしょう。
ということで私はリンちゃんを信頼し、わちゃわちゃ集団をすり抜け独りで奥へ。すたこらさっさのほいさっさ。
やがて後方のわちゃわちゃも完全に聞こえなくなったところで、一旦立ち止まり、一息吐く。ふう。
なんだか今日は色んな人が現れて、色んなことが起こるな。自分のペースが乱れてるかんじがして、ちょっと落ち着かないかんじ。
でも、ここから。ここからの遠征はいつも通りだからね。
ちゃんとサポートキャラのみんなも連れて来ているので、独りでも問題ない。
呼吸を整え、さあ行くぞ、と一歩踏み出したところで――――――。
「おい、おまえがブティックだな」
――――――ん~、またお邪魔が入っちゃった。
******
【きまくらゆーとぴあ。トークルーム(非公式)・雑談する部屋・話題無制限・チラ裏】
[二部]
こぐにに浮気してたけどきまくら。に復帰してもいいブヒか?
[おでん]
ダメです
[まーちゃ]
きまくら。萎えたのでこぐにに逃げてもいいですか?
[univerese202]
おk
[否定しないなお]
メイポリときまくら。両刀でもよろし?
[吉野さん&別府]
メンタルがもつなら好きにするがよろし
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