171日目 蚤の市(1)
ログイン171日目
「えーっ、嬉しい~。すっごく可愛い! いいね、ちょっと力抜けたかんじがお店のテーマとも合ってる!」
さあやってまいりました。私ときーちゃんのコラボショップがお披露目となる、蚤の市当日です。
まずは
きーちゃんは早速身に着けてくれて、鏡の前で自分の姿を確認してはふわふわと喜んでいる。えへへ、気に入ってくれたようで作り手冥利に尽きるというものです。
思った通り、週末女学生の衣装セットはとってもきーちゃんに似合ってる。彼女の控えめながらも芯の通ったキャラクターをよく反映しているかのようで、自分の仕事の出来栄えににやにやが止まらないや。
私のほうもおそろのコスチュームをばっちり装着完了済だよ。私のアバターは鹿角と鹿耳付いちゃってるんで姉妹感とまではいかないまでも、きーちゃんと並ぶと仲良し同級生ってかんじ。
既にスクショもいっぱい撮ってます。自撮りはいつでもできるけどきーちゃんのほうはそうはいかないので、さりげに多めに撮影していたり。
そうして満足したところで、私達は会場であるレンドルシュカ・ギルド前広場に向かう。
ギルドが運営するこのバザール、仕組みとしては幾らかお金を払って出店許可証をもらう方式になっている。
早い者順だけど、その際場所の予約も取れるの。お客の集まりやすい良いスペースを取りたい人は勿論のこと、私達みたく複数の纏まったスペースを確保したい場合なんかも要予約になってくる。
勿論手続きは事前に完了してるよ。やってくれたのはきーちゃんだけど。
開催時間は昼の部と夜の部があって、昼の部が14:00~17:00、夜の部が20:00~23:00だって。私達は昼に参加することにしました。
夜のほうがお客もお店も多くて賑やかみたいだけど、私は初参加なのでね。まずは昼の部でまったり雰囲気を楽しんで、慣れたらその内夜にも参加しよって、きーちゃんが気を利かせてくれたのだ。
というわけで、スペースはそこそこゆったり確保できた。入口に凄い近いわけではないけれどそんなに外れでもない、色んな意味で丁度いい場所だと思う。
お店側の設営時間みたいなものは用意されていないので、14時現在、ギルド前の広場に既にお客さんは集まってきている。
まあゲームの露店なので、こだわりない人は準備に一分もかからないだろう。ぱぱっと敷物広げてアイテム並べればそれでオーケーだもんね。
とはいえ私達は生産物からも分かる通り、二人とも見栄を張りたい性分である。展示もそれなりに力を入れてくよ。
ストライプ模様の屋根のテントを張って、棚やハンガーラックを並べて、雑多な雰囲気に沿うようにしつつ見やすさ近付きやすさを意識してブースを作っていく。
古びたランタンをテントの天井からぶら下げたり、小物や布を籠に無造作に放り込んだりして、フリマっぽいアンティーク感、チープ感をだすのも忘れない。
一応今回私もきーちゃんも、ちゃんとセール品は用意してきてるんだ。やっぱ蚤の市の醍醐味の一つは安さなイメージなので、多少なりとも郷に入れば郷に従う方針でいこうと思って。
何だかんだ最近懐に余裕がある、イコール仕入れ費用に糸目を付けていないところがあって、結果的にうちの店、なかなか高級なかんじになっちゃってるのよね。
だから本日の蚤の市にはいつもより安い素材を使って、品質はやや下がるもののリーズナブルなものを多数用意してきている。
最近新規できまくら。始める人が増えたという噂も聞くし、そういう初心者さん達にとって幾らか敷居を低くできればいいなあ。
さらにいつもはやらない対面販売ってことで、私のほうはちょっと新しい取り組みをすることに。
その名もずばり、“蚤の市限定・その場で受注販売キャンペーン”! わ~~~~ぱちぱちぱち。
なんて一人で盛り上がってはいるものの、きまくら。の対面販売においては割と普通の習慣っぽい。要は普段リクエストボックスを通して行っている受注販売を、対面コミュニケーションによって即受付、即納品できますよっていうサービスである。
勿論デザイン面のリクエストとか時間のかかるものは無理だけど、素材違い、色違いリクなんかにはすぐ応えられるよう、資材を沢山用意してきてるんだ。
それに伴い素材の持ち込みもオッケーにしてるよ。つまり、隣のきーちゃんショップで買ったクロスをうちに持ち込んで、お客さん好みのお洋服に仕立てる、なーんてこともできちゃうのだ。
勿論仕事効率とのバランスを図って、レシピはこちらで幾らか限定してるけどね。
これ、コラボショップならではのすっごくいいアイディアじゃない?
きーちゃんも褒めてくれたんだから。ふっふーん。
あ、そうだ。「その場で受注販売可」の立て札に、ついでに「スキル付きアイテムは本日扱っておりません」って書いとこう。
ありがたいことに私達のショップは、設営中の現段階でもそこそこの注目を集めている模様。
でもそうやってこちらを遠巻きに眺めている人の中には明らか服に興味なさげな――――まあ偏見ですけど――――全身甲冑姿の男の人なんかもいて、ちょっとよからぬ予感がしたのだ。
案の定そういった人達のほとんどは、私が立て札に注記を加えた途端、ふらっとどこかに消えてった。ふう、危険回避成功。
準備してるさなかお隣ブースの人と軽く挨拶しちゃったりなんかもして、私今すっごく陽キャ陽キャしてる気分だよ。
これぞフリマ。あとは学祭みたいな雰囲気もあるかも?
それと同人イベン……はっ、違う違う。私は今陽キャ気分を謳歌してるの。ノーオタク、イエスパリピなの。
因みに左隣の露店の店主さん、なんと知り合いだった。って言っても直接会ったことはなくて、お互いがお互いのお店の常連だった、っていう知り合いなの。
[コハク]さんというその人は工芸家で、和風な図案が魅力的な作家さんなんだ。
今日はフードを目深に被ったエキゾチックな衣装で、カラフルな敷物の上に食器や陶製のブローチを並べている。インドのようなちょっとミステリアスなアジア感がでてて、とっても素敵だ。
ブローチ可愛いな~、後で私も買わせてもらおう。
それから右隣の店主さんとも挨拶したんだけど、こちらの方は私と同じ仕立屋で、服飾アイテムを扱っていた。でもお店の雰囲気は全然違うの。
[否定しないなお]と名乗ったこの方の作る衣装は、いい意味でよりコスプレ的、フィクション感の強いアイテムとなっている。ざっくり言えば近未来ファンタジー、みたいなかんじかなあ。
否なおさん自身もこのタイプのファッションに身を包んでて、とっても可愛い。
バッファロー角に絡まる鎖と宝石のアクセサリーだとか、複雑な構造の厚底ソールが付いた靴だとか、細かいところまで気を遣っている。勉強になるな~。
因みにこの人も私のお店を利用してくれてるみたい。
「へ~、コラボショップ? あ、その学生コスが新作? あっちのマネキン? めっちゃいいじゃないですかー。つか普通にリアルで着たいわこの服。タトゥータイツも超可愛い。さすぶたさすきむー」
だって。
へへへ、今日はきーちゃんにもコハクさんにも否なおさんにも沢山褒められて、気分がいいのだ。
ところで『さすぶたさすきむ』て何? 呪文? ギャルの間で流行ってんのかな。
そんなかんじでお隣さんとも良好な関係を築きつつ、準備は完了。さあ、コラボショップ“ブティック絶許”の開店だ!
え? 店名?
だってきーちゃんが“ブティックキムチ”は絶対イヤって言うからあ~……。
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