413日目 惑いの夜の学園パーティー(6)
どれだけ心に抵抗があろうと、どれだけ気まずかろうと、私に選択肢は残されていなかった。
真実の証と偽りの証は一回目の密談フェーズで話せる四人の誰かに渡さなければならず、ササは最後の密談相手となる。もう後はない。
私は渋々覚悟を決め、しずしずと真実の証をササに差し出した。
「………………」
受け取ったササの反応は、
けれど私には、何となく彼の心中が察せられるような気がした。
多分どんな顔をすればいいか分からないくらい、大いに困惑してるんだろうなあって。言い方を変えると、凄く迷惑がってるんだろうなあって。
まあササはいつも無表情だから、あくまで何となくの想像だけど。
その後も私とササはほとんど言葉を交わすことはなく、ただ各々のパートナーキャラから情報を集めて密談を終えた。二分がこんなに長いとは思わなかった。
一応このフェーズにはスキップシステムというものが存在している。参加者である十一人全員が次の密談若しくは次のフェーズに移ることに同意したときのみ、時間を短縮することができるのだ。
余ってしまった沈黙の一分間、私はずっとこのスキップボタンを連打していたのだが、ついぞ私の望みが叶うことはなかった。
地獄のようなひと時をやっとこさ越えて、ゲームは次の展開――――【会議フェーズ①】を迎える。十一人のプレイヤーは全員一つの教室に集められ、コの字型に並べられた机の前に座った。
ここでは10分間、自由に話し合いが行えるらしい。
流れとしては、その後【投票フェーズ①】に移り、誰を追放するか多数決を取ることになる。そして得票数の多かった上位二名がそこで脱落。
ゲームの後半ではこれまでの密談から追放までの流れをもう一度繰り返す――――アンフェアがトゥルーとライアを選ぶくだりは前半にしかないけどね――――。
最後、それでもまだスパイが生き残っていたら、会議は挟まず投票のみでもう一人だけ追放できるチャンスがある。
そして勝敗が決まり、エンディングだそうな。
結果としては、ササに真実の証を託したことは良い選択だったかもしれない。
彼はどう見ても寡黙タイプなのでこの手のゲームに強いとも思えないけど、少なくとも余計なことはしなさそうだもの。それに直感的に、私と繋がる相手とは思われにくいだろうし。
そう考え直し、私は気持ちを切り替えることにした。
幸い後半の密談フェーズでは、幾らか相手を選ぶことができるみたい。もうあのような気まずい時間を過ごすこともないだろうし、今はこの“会議”に集中しよう。
会議では皆が密談で得た情報を公開することから始まり、順当に推理の擦り合わせが進められていった。
私は可能な範囲で自分の見聞きしたことを共有しつつ、フレンズ目線でそれらしい意見を話すことにする。みんな目線でちゃんとできているかどうかは謎だけどね。
クドウさんがほぼスパイであるという決定的なカードは、少なくともこの会議の後半までは伏せておくつもりでいた。
私としてはフレンズが追放されようがスパイが追放されようが、最終的に自分とトゥルーが生き残ればそれで良い。
とはいえ、
よって基本的には白陣営として動くつもりだ。クドウさんのことだって、必要とあらば積極的に追放したいと思っている。
でもね、だからといってさっさとクドウさんを糾弾するとしたら、彼のヘイトが私に向かうのは避けられないだろう。追放は逃れられないと悟った彼が
「命を大事に」がモットーなアンフェアとしては、そのような状況はなるべくして回避したいところである。
だから一旦は様子を見ようと心に決めていた。
それでクドウさんにもちゃんと疑いの目が向けられるのであれば、話の流れに任せれば良い。しかし彼が白位置に入ってしまうようであれば、この攻撃力の高いカードをオープンして自身の白上げを狙うのも良い。
――――――なるほどな。
シエルちゃんからクドウさんの情報を聞いたときには、「えっ、こんな爆弾発言もらえるんじゃフレンズの楽勝じゃん」って思ってた。けど今の私のごとく他陣営の様々な思惑も交差するから、推理は一筋縄じゃいかないんだろうな。
あと今のところ、それだけで役職を絞れてしまう情報っていうのは皆の口からは出てきていない。私は結構レアな台詞を引けたってことなのかもしれない。
それでもみんな頭と勘が良いもので、不思議と疑いの目線はゆっくりとクドウさんに向けられていった。
順序としては、まずNPCの発言の擦り合わせを行うことによりざっくりフレンズと思しきところを洗いだし、残った人達に議論の焦点が向くというかんじだった。
最終的にはプレイヤー個人の発言精査が主となり、何となーくクドウさんの挙動がおかしいっていう話になってくの。
これ、この部屋の人達がそこそこ皆冷静でゲーム慣れしてるから、こんな理路整然とした綺麗な進行ができているんだろうな。
一人一人が情報の把握すらできず、なんか訳分かんないまま終わっていた――――他ではそんなゲーム内容が普通だったとしても何もおかしくないように思えるよ……。
何にせよ、この状況は私には好都合だった。私が表立って手を下すまでもなく、クドウさんは自然な流れで沈もうとしているのだもの。
私がざっくり白ポジションに含められることはなかったので、その時だけはちょっとひやっとしたかな。でもそこはゾエ君がさり気なく庇ってくれたことを切っ掛けに、ぬるっと疑いを払拭することができた。
2ターン目の会議は分からないけど、一先ず今回の会議では安全圏内に入れていそう。
ササは……んー、案の定寡黙位置のグレーなだけに、生き残れるかは正直微妙。でもこればっかりは自分で何とか頑張ってくれと、心の中で応援するしかない。
そんなわけで会議時間も残り二分を切ると、このフェーズでの仕事はもう終わったとばかりに、私はすっかり気を抜いていた。
私はその時まで、一つのことを失念していた。だから対策も何もあったもんじゃなかった。
それ即ち――――――。
「オーケーオーケー、俺が追放されるのはもう免れられない未来のようだ。分かった、みんなの視点を晴らすためにも、ここは一旦疑いを受け入れよう。その上で他の精査を進めよう。俺に投票してくれて構わない。だから少しだけ俺の話を聞いてほしくて、俺はブティックさんがアンフェアだと確信しているんだ」
――――――別に私が
皆の視線が、一斉にこちらを向いた。
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