413日目 惑いの夜の学園パーティー(7)
「俺がブティックさんと密談したとき、彼女はこう言ったんだ。シエルが、俺のパートナーリルのことを嘘吐きだと言ってるって。
そしてブティックさんは断言したんだ。俺のことをスパイだと。
でもみんな、ちょっと考えてほしい。嘘を吐く役職ってスパイだけじゃないはずだろ。
確かに俺とブティックさんが話したのは最初の密談だったから、トゥルーとライアはまだ存在し得ない。クレイジーも自分の属す陣営が決定するのは密談フェーズの最後なわけだから、まだ嘘吐きな役職とは言えないかもしれない。
だがもう一つ、確実に嘘を吐く役職がスパイ以外に存在する。そう、アンフェアだ。
ではなぜブティックさんにはその可能性が漏れていたんだろう。答えは簡単、彼女自身がアンフェアだからに違いない。
ブティックさん目線では、俺がスパイだということは紛れもない事実だったんだ。つまりこれは視点透けってやつだ。
因みにだけど、彼女がアンフェアであることの裏付けならもう一個ある。
今話した通り、ブティックさんは俺がスパイだと気付いている――――――にも拘わらず、その情報を皆に明かす素振りが全くない。
これが彼女がフレンズではないこと、別の目的を持った何者かであることの確たる証明となるだろう。
そういうわけでみんな、投票はブティックさんによろしく頼むよ」
すべてを語り終えると、クドウさんは室内を見渡してにっこり微笑んだ。
――――――や、やられたああああーーーー……!
それはいわば捨て身の特攻だった。
だって彼の言葉ははっきりと、自身がスパイであることを認めているのだから。その上で私を巻き添えにして連れて行こうとしているのだ。
そんなのただの意地悪だしさすがにやらないだろうと思ってたんだけど、クドウさんは普通に意地悪な人だった模様。いやでもよくよく考えてみれば、戦略的に利がなくもないかもしれない。
前半のフェーズで追放されるのは、投票の集まった上位二名。もし今、実はクドウさんだけじゃなく、もう一人のスパイにも投票が集まりそうな状況だったとしたら?
そう、せめて相方からはヘイトを逸らすという観点で、この行動は大きな価値を持つようになる。
そうでなくとも、今の発言により盤面が荒れることは必至だ。折角意見が纏まろうとしていたところで投下された爆弾は、皆の思考を大いに濁らせるだろう。
しかも投票まで残り時間は一分を切った。プレイヤー達が混乱して、精査が明後日のほうへ向かったとしてもおかしくない。
「ブティックさんが……アンフェア?」
「ぎゃはは、悪女ブティックじゃん。解釈一致キタコレ」
「出来過ぎててさすがにないだろって自分に言い聞かせてたけど……。でもクドウのこのかんじ、咄嗟に考えた嘘にしてはそれこそ出来過ぎなんだよね……」
「おいおまえら、真に受けるな! スパイの言ってることだぞ? 何簡単に信じてんだよ!」
「ゾエトゥルー確定じゃねーか」
「もうちょっと人選ひねれよ」
実際クドウさんの捨て身作戦は功を奏し、みんなの頭の中は私とアンフェアのことでいっぱいになってしまった。
そして私自身だって大いに混乱し、慌てふためいている。何ならこの場にいる誰よりも。
上手い言い訳など思いつかなかったし、咄嗟に話を逸らすこともできなかった。
唯一ゾエ君のみ、私のため声を上げて戦ってくれた。しかしこの流れになってしまったからには、もうどんな反対意見も皆の耳には届かなさそうだ。
寧ろゾエ君が私の相方なんだろうと決め付けられ、私がアンフェアであることへの確信を強めるばかりとなっていた。
ササ?
腕組んで足組んで遠い目して静観してたよ。一瞬私と目が合ったけどすぐ逸らされたよ。
もう即行諦めることにしたらしい。
ライアのゾエ君があんな一生懸命庇ってくれてて、トゥルーのササが我関せずっていうのがまた皮肉だよね。まあ私も相当早い段階で諦めの境地に至ってるから、他人のことは言えないんだけど。
こんなことになるならやっぱりゾエ君に真実の証を渡しておけば良かったって、心底思う。
そう、アンフェアの敗北がほぼ決したと言える今、私の意識は次に来るだろう未来に向けられていた。私が追放されたと共に自身が裏切られていたと知ることになる、ゾエ君の心情を想像せずにはいられない。
シエルちゃんなら絶対にシャンタちゃんに渡すはずって、二人で勝ちましょうって、ゾエ君たらあんなに無邪気にはしゃいでたのに、私ったら、うう……。
かくしてクドウさんの思惑通り、議論は混沌としたまま終わりを迎える。今回は部屋やメンバーが変わることはなく、同じ教室にて【投票フェーズ①】が始まった。
結果は勿論――――――。
【投票結果】
1位:KUDOU-S1(得票数6、投票者:リンリン、エルネギー、レナ、ビビア、ゾエベル、狂々)
2位:ビビア(得票数3、投票者:クドウ、ヨシヲwww、
3位:ゾエベル(得票数2、投票者:モシャ、陰キャ中です)
――――――ってちょっとおおおおーーーっ!! ササのやつ何ちゃっかり私に入れちゃってんのおおおお!?
しかもこれ結果的に決定票になってるんですけど!
あなたが別のところに投票してくれたら、ワンチャンこのターンだけでも生き残れる未来があったんですけど!
それだけでも多少なりとも貰える報酬は増えたはずなんですけど!
私は非難の気持ちを込めてササを睨まずにはいられなかった。ササはどこ吹く風で、「さもありなん」とでも言いたげに目を閉じる。
あ、ゾエ君も一緒になって睨んでくれている。でも今はその優しさが罪悪感にしみて痛いよ……。
さて、“捨て台詞”の時間がやって来た。追放が決まったプレイヤーは舞台を去る前に一分間、弁明なり助言なり文句なり、残ったプレイヤー達に向けて自由に話すことができるのだ。
まずクドウさんペアが話し、それから私とシエルちゃんの番となった。シエルちゃんは追放が決まった後も凛と背筋を伸ばしていて、全く動じた様子はない。
「私を仲間外れにするだなんて、あなた達センスないわね。別にどうでもいいわ。こんなパーティー、めちゃめちゃになっておしまいなさい」
つんと顎を逸らし、周囲のナンセンス野郎どもを睥睨するシエルちゃん。くうーっ、最後まで誇り高くヴィランを演じきったシエルちゃん、なんてクールで愛らしいの。
ゾエ君も目に涙を浮かべて見守っているよ。
きっと心の中で「たとえこの場の全員を敵に回したとしても、俺達だけは味方ですよ! どこまでも付いて行きますから!」なんて叫んでるんだろうな。君のその願いが叶うことはないんだけどね……。
というわけで、私は自分の発言ターンになるとまずゾエ君のほうを向いた。
「ゾエ君、ごめんね」
そして次になるたけシエルちゃんの真似をして、ササに冷たい眼差しを送った。
「信じてたのに……」
どこからか息を呑む音が響いてきたけれど、それが誰のものだったのかは分からない。勝負が決した今私にこれ以上話すことなんてなくて、すぐスキップボタンを押したからだ。
アンフェア、退場!
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