105日目 弟君
ログイン105日目
ログインすると、きーちゃんから荷物が届いていた。
箱を開けて表示されたインベントリには、ずらっとアイテムの名前が並んでいる。
一番上にあるのは【スピードクロス(っ・-・)⊃ ⌒三】で、取り出すとブロード――――光沢のある平織り綿――――っぽいカーキ色の布が現れた。これはまあ、分かる。
昨日弟さんのドール用に衣装を仕立てる~って話になって、どんなのがいいか大体の希望を聞いておいて、って頼んだのよね。だから恐らく、この布で作ってってことなんじゃないかな。
けど、その後に表示されているアイテム群の意味が全く謎で。
【S式歯車(銀・大)】
時計などの小さな機構に用いられる歯車。古代文明の遺産。
代表的な使用法:発明
【ボルト式鍋ネジ&ナット(真鍮・小)】
金属製の固着具。
代表的な使用法:発明
【Y式コイル(銅・小)】
幻子回路などに用いられるコイル。古代文明の遺産。
代表的な使用法:発明
こんなかんじの、金属製の小さなパーツ達が、複数種ぎっしり収まってるの。
服の材料として送ってきたとは考えにくいし、アイテム説明に『代表的な使用法:発明』ってあるように、これって明らか機械に使う資材だよねえ。きーちゃん、送り先間違えたのかな?
そう思ってトークアプリを開けば、彼女のほうから既にメッセージが届いていた。
[송사리]
びーちゃん、ごめんねえ(´・ω・`)
弟にびーちゃんの申し出のこと話したら、なんかすっごい喜んじゃって、勝手にテンション上がって、変なやる気だしちゃって
[송사리]
色々資材、届いてるでしょ?
あれ適当に使って仕立ててほしいんだって
えっ、そうなの? と、私は二つの意味で驚く。
驚いた理由の一つは、弟さんがそんな乗り気になってくれる程度には陽キャだったこと。
いや、きーちゃん後から明かしてくれたんだけど、きまくら。民の反応が鬱陶しくて引きこもりがちになっちゃったっていう生産プレイヤーの話、あれ、弟君のことだったんだって。どうやら彼、凄腕のドール職人だったらしい。
でもって、
だから勝手に、引っ込み思案で人見知りで控えめな、繊細な少年を想像してたんだよね。
けどなんかきーちゃんの話と口ぶりから察するに、結構
で、もう一つの驚きが、このパーツ達を資材として送ってきているということ。
うーん……近未来でSFチックな、或いは大分前衛的なファッションを期待してるのかなあ。私そっち方面は全然自信ないんだけど……。
と、思いきや、その心配はきーちゃんの次のメッセージで解消されることに。
[송사리]
びーちゃん、スチームパンクって分かるかなあ
こういうテイストの衣装がいいんだって
(画像)
(画像)
(画像)
[송사리]
なんかめんどくさい注文付けちゃってごめんね
今までのびーちゃんの作品とはちょっと傾向違うと思うし、
もしよく分からなかったりやり辛かったら、全然無視しちゃっていいから
――――――あ~~~~っ、はいはい、スチームパンクね。
それなら、歯車とかの部品、超納得。ついでにこのぱきっとしたカーキの生地にも納得。
すっきり解釈一致きたわこれ。
スチームパンクっていうのは、蒸気機関が発達した西洋的世界観みたいな、確かそんなかんじ。はい俄かですどうも。
けど私もこれ系の作品は好きなもので、雰囲気は大体分かるよ。っていうかまさにここレスティンの街並みとか、そんなかんじだと思うし。
クラシカルとレトロとアンティークとメカと科学とファンタジーを全部お鍋で煮込みましたみたいな、そーゆーあれよね。
それでもって大体において、ちょっと薄暗くて濁ってて、ダークな空気なのよね。まさにこのカーキ色みたいに。
いやあ、弟君いい趣味してるじゃないの。確かにこの分野にはまだ手を付けたことなかったな。
っていうのも、こういう機械系のアイテムを服飾資材として捉えていなかったというか。ワールドマーケットや露店で見かけることもあったけど、私には関係ないものって、今まで全スルーしてたんだよね。
服の構想練るときって、きーちゃん製クロスとか手持ちの素材を念頭に置いて考えることが多いからさ。自然、機械パーツ必須とも言えるスチームパンクは度外視していたのかも。
けどこうやって色んな形の歯車やらネジやら並べてみると――――――うん、いいね。想像がどんどん膨らんでいく。
貼り付けてあった画像はネットで拾ってきたんだろう、コスプレ――――って言うと語弊があるかもだけど、まあ分かりやすさ重視で敢えて言いきる――――してる女の子の写真が並んでいる。
スチームパンク女子っていうと貴婦人タイプ、ロリータタイプ、ボーイッシュタイプ、この辺りがぱっと思い浮かぶけど、弟君はロリータタイプが好きみたいね。みんなパニエ仕込みのふんわり膝丈ドレスだし。
うむ、了解。イメージとしては、スチームパンクなアンティークドールってところかな?
それじゃ、デザイン描きだしていきましょーう。
******
【きまくらゆーとぴあ。トークルーム(個人用)】
[ee]
凄いですね、彼女は本当に凄い
まさかここまでとは
くまさんやヨシヲ君を見つけたときのような…いえ、それ以上の興奮です
[もも太郎]
へえ、あなたがそんなこと言うなんて珍しいね
僕が彼女と取引契約を結んだあの頃は、そこまで興味なんてなさそうだったのに
[ee]
あの時鶯嬢が、彼女のことを「台風の目」のようだとか言ってましたね
確かにそれもそうだけど、僕には海の真ん中でうねりを起こす大潮流に見えますよ
[ee]
激しくも大らかでミネラルたっぷり
破壊をもたらす一方、祝福ももたらす
楽しく美しい混沌の権化
[ee]
っと、失礼
もも君はこういう詩的な表現、お嫌いでしたね
[もも太郎]
彼女に干渉する気かい
[ee]
いえいえ
嵐然り渦潮然り、ああいう大自然から生み出される驚異的な現象っていうのはね、
余計な手を加えるまでもなく、あるがままを鑑賞するのが一番いいんですよ
っていうか、へたに手を出したら僕自身巻き込まれてお終いです
[もも太郎]
ふーん、あなたにそんな謙虚な面があったんだね
[ee]
とはいえ、あの偉大な潮流に一匙放り込んでどうなるか、化学変化を見てみたいスパイスが、一つ、二つ…
幾らでも思いついてしまうなあ
[ee]
…って言ったら、もも君は止めますか?
君だって随分、彼女を買っているようですが
[もも太郎]
いいや?
僕は止めないよ
あなたの好きにするといい
[もも太郎]
僕と、僕の組織に害が及ばない限りは
[ee]
成る程
彼女は君にそう言わしめるだけの人物である、と
[もも太郎]
想像なら、好きなだけ、ご勝手に
でも…そうだね
僕は少し、期待しているのかもしれない
[もも太郎]
あの偉大な潮流にあなたというスパイスを一匙放り込んで、どうなるか
[もも太郎]
ちょっと楽しそうだね
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