104日目 ビビア(4)

「あの、もしよかったらポシェットとは別に、その子のために改めて、衣装を仕立てさせてもらえないかな」


「え?」と、きょとん顔のきーちゃん。う、なんか勢いのまま言っちゃったけど、結構不自然な流れだったかも。


 私が思ったのは、確実に成功するまでその子用の服を仕立てることはできないけども、一回くらいなら試してみてもいいかな、ってこと。

 えーっと、ポシェットを欲しがってるわけだから、【アーティファクト・サーチ】だっけかな? 一回その子用に作ってみて、例のスキルが付いたら万々歳だし、付かなかったらそこで諦めようかな、と。


 けど変に期待されちゃうと私としてもプレッシャーだから、成功しようと失敗しようときーちゃん達の心証には影響ない流れにしたかったんだけど……ちょっと無理あったか?

 いきなり、今日初めて存在を知った会ったことも見たこともない弟さんのために服を仕立てたいです!って……あれ、なんか私キモいくない?

 アウト? アウトかこれ。


「ああああのね、えっと最近、特定の人とか特定のキャラクターをイメージして服作ることにはまっててね? いいモデルいないかな~って、探してたところなんだよ」


 苦しい。苦しいねえ!

 モデル探してるんなら他にもいっぱいいるだろうに、って話だよね。何ならまず目の前にいるきーちゃんでいいやんってなるよね。

 いや勿論きーちゃんはきーちゃんで仕立ててみたいって思いはあるんだけれども。


「ほんと? いいの?」


 あ、やっぱなんでもないです忘れてください出直してきます。


「だったら……女の子用のほうが喜ぶかも」


 ごめんねきもいこと言って、……って、ん?


「あ……っと、勿論さっきも言ったように、びーちゃんが動画で作ってた現代風の衣装、すっごく可愛いんだけど。ちょっと、タイプが違うんだよね。もしあの子用に仕立ててくれるって言うんなら、もっとクラシカルっぽいかんじっていうか……んー、何て言えばいいんだろ」


 あれ。なんか、案外すんなり受け入れてくれたっぽい? 私がその子用に仕立てるっていうんで、いつの間にか話が進んでる?

 なら、いいんだけど……え、女の子用?


「違う違う、彼が女装するわけじゃないよ」

「あ、もしかして好きなキャラクター用に?」

「それとも微妙に違くて。えっと、本人嫌がるから詳しいことは言えないんだけども、“ドール”って分かるかな」


 ……あ~~~~っ、はいはい。分かるよ。聞きかじった知識だけど、何となく憶えてる。 

 特装アイテムに分類されるもので、【息髪リザード・テイル】ってスキルを使って作ることによりパーティメンバーみたく自立させて使役することができる、っていう、あれね。


「うん、そんなかんじ。彼、それの使い手なの。本人自分の身なりにはあんまり興味ないんだけど、ドールの衣装なら凄く喜ぶんじゃないかなって思って」

「なるほど」


 あれ、でもそれって、もしスキルが付いた衣装をドールに着せた場合どういう扱いになるんだろうね。

 まあ時限スキルは時間を置けば誰でも何度でもそのスキルが使えるようになる仕組みらしいし、大丈夫か。習可だったとしても先に自分でスキルを覚えてからドールに着せれば、何も問題ないだろうしね。


 サイズとかどうするのかなとも思ったんだけど、これも普通にプレイヤー用の標準的な型紙で平気なんだって。


「ドールっていうと子どもみたいなサイズのミディアム型とかもっと小っちゃいトイ型が定番で、そうなると専用の型紙が必要になるんだけど……。あの子は結構特殊で、大きいのが好きで、だから大丈夫なの」


 へ~、ドールってそんなに色々あるんだ。ちょっと興味湧いたかも。

 どっかの使い手さん、ひすとりあ。に動画とか上げてないかな。今度見てみよっと。


 よっしそれじゃ、次の製作はきーちゃんの弟さんに贈るドール衣装で決まり。身内――――って呼ぶのはおこがましいかもだけど――――関係の仕事だし、俄然やる気湧いてきたぞ!




******




【きまくらゆーとぴあ。トークルーム(個人用)】



[송사리]

そしたらね、「私は周りに恵まれてた」なんて言うもんだから、びっくりしちゃった


[송사리]

無理して言ってるとかじゃないの

ほんとにけろっとしてるの


[송사리]

けどなんかそこで納得しちゃったよ

じゃなきゃあんなことあった後でゾエさんと和解できないだろうし、今でも交流あるなんて有り得ないだろうし


[송사리]

許せるところと許せないところ、すぱんっとはっきり分けてるかんじ

だからきまくら。で、あんなクセの強い人達に囲まれてる中やってけてるんだね

しかも真っ当な生産プレイヤーとして

これって凄いことだよ


[송사리]

まあだからこそ、ちょっと危うさを感じるところもあるけどね

許せないことに突き当たったとき、多分この子、愚痴ることも相談することもなく、

あっさりきまくら。からいなくなっちゃうんだろうな、みたいな(´・ω・`)


[송사리]

あ、勿論これは私の勝手な想像ね


[송사리]

でも何にせよよかったよ

これからどうなるかは分からないけど、今回のこともびーちゃん、前向きに受け止めてるみたい


[송사리]

それでねそれでね!

びーちゃん何と、カズノリのドールの衣装を仕立ててくれるんだって!

これ、またとないチャンスだよ!

あの子今や超人気の仕立屋さんで、リクエストも滅多に通らないんだから!


[滅べクレクレ]

…何で?


[송사리]

あれ?何でだっけ

あ、えーと…ん?


[滅べクレクレ]

名前


[송사리]

びーちゃんの?

ブティック…じゃない、ビビアだよ


[滅べクレクレ]

ショップ


[송사리]

え~っと、


[송사리]

「ブティックびびあ」

だって


[송사리]

私としてはカズノリに内緒で作ってもらって、サプライズプレゼントにしたいなーって思ってたんだけど、

びーちゃんが「こういうのは本人にある程度希望を聞いたほうがいい」って言うからさ~

まあ確かにファッションって好みの差が激しい分野だからね

ノーヒントはむずいよね


[송사리]

だからカズノリにどういう系がいいかイメージ聞いてみてって、あ、ちょっと待って

配達届いた

なんだろ


[송사리]

え……


[송사리]

ちょっとカズノリ……


[滅べクレクレ]

(画像)

(画像)

(画像)


[송사리]

ねえってば


[滅べクレクレ]

【スピードクロス(っ・-・)⊃ ⌒三】

→カーキverで


[滅べクレクレ]

よろ


[송사리]

ちょっと(ʘ言ʘ#)


[滅べクレクレ]

よろ


[송사리]

……はあ

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る