413日目 惑いの夜の学園パーティー(3)
楽しい撮影会で大分気を持ち直したところだったけど、やっぱりこれでお終いとはいかないらしい。私は皆に倣い、ドキドキしながら【ready?】と表示されたアイコンをタップした。
すると景色が変わる。先ほどパートナーの選択や衣装設定などにも使用した、個別待機室に送られたようだ。
現れたダイアログには、こう書かれていた。
あなたの役職は【アンフェア】です!
トゥルーと一緒に最後までパーティーを楽しもう。
ぎゃあーーーー!
即行、頭を抱えるはめになったのだった。だってこの役職、見ただけで、説明文の長さだけで、もう一番ややこいって分かるやつじゃない。
うう、せめて一番味方が多くて目標も一番シンプルっぽい【フレンズ】がいいなと思っていたのに……。運命とは残酷なものである。
しかし落ち込んでいる暇はない。あと三分も経たず、ゲームの第一フェーズが始まってしまうからだ。
取り急ぎ、私は待機室の隅にいるシエルちゃんに話しかけた。これが最優先ミッションなので。
彼女は少し困った顔で、こめかみに指を当てている。
「ううーん……頭がぽやぽやする。さっき飲んだあのドリンク、まさかアルコールが入ってたとかじゃないわよね……?」
そっか。シエルちゃんは今、学院に紛れ込んだというスパイに“惑わされている”という状態なんだ。
おのれスパイ! シエルちゃんに変なものを仕込みおって!
「なんだか今の私、ちょっとイケないことがしたい気分。たとえばそう、誰かの心を弄んだり……?」
でもシエルちゃんの意地悪な顔、滅茶苦茶可愛いです! ありがとうスパイ!
それから余った時間で進行の確認をする。
えーっとまずは密談フェーズから始まるんだね。今からランダムで4人のプレイヤーと、それぞれ1分ずつ会話ができるみたいだ。
フレンズはそこで得た情報をもとに敵陣営が誰なのかを推理し、スパイは上手くフレンズに紛れようと工作することだろう。
アンフェアである私は、どちらかといえばスパイと似た動きになる。自分がアンフェアだとばれないよう、ヘイトを買って追放されないよう、フレンズのふりをしなければならない。
でもアンフェアにはスパイと違って、もう一つこのフェーズで大事なお仕事がある。それは【真実の友情の証】と【偽の友情の証】を一つずつ、誰かに手渡すというもの。
二人のプレイヤーを自陣にスカウトする、みたいなかんじなのかな。
引き抜く相手はスパイかもしれないし、フレンズかもしれない。スパイ、フレンズ双方にとって、盤面を濁らせる厄介な役職ってことだ。
もっともこの行動にはリスクも伴う。なぜって、証を渡した相手側からは、それが真実の証なのか偽の証なのかの見分けが付かないから。
だから結局のところ唯一の味方であるはずのトゥルーからも、上手く誑かしたいライアーからも、疑われ裏切られる可能性がある。
いや~、やっぱ立ち回りむずいよな~、アンフェア。
因みに“証”アイテムにはプレーンバージョンがあって、それが普通の【友情の証】となる。
普通の証は、アンフェア以外の10人全員に一つずつ配られているんだ。彼等も密談フェーズの終わりで、誰にこのアイテムを渡すか決定しなければいけないらしい。
アンフェアと違うのは、直接渡すのではなくシステムパネル上で相手を決めるということ、密談しなかった相手も選べるということ、それと受け取った側は自分が証を貰えているのか貰えていないのかを知らないということ。
勝利陣営には関係なく、証を渡したプレイヤーが最終盤面まで残っていたら、自分と相手の両方がポイントを貰える仕組みっぽいよ。
逆もまた然り。さらに両想いだったらポイントは倍だって。
アンフェアは片想いされる分にはポイント貰えるらしいけど、渡す側としては相手の残留がそのまま陣営勝利の条件に直結してるから、その分のポイント追加はないらしい。代わりに自陣勝利を達成できたときのポイントは、フレンズやスパイより多いみたい。
ゆくゆくはこの証交換システムも、盤面に影響してきたりするのかな。や、でもそこまで追い出したらきりないよな。
少なくとも
えーっとこのフェーズで私がやるべきは、なんか上手いこと戦力になってくれそうな人に友情の証を渡すこと……。
と、そこまで確認し終えたところで、眼前に二人の人物が現れた。同時に
ひえー、ついに始まってしまったようだ。緊張する。
でも幸い、最初のお相手は[
パートナーは彼の最推しキャラ、リルステンだ。
余談だがこのパーティーイベント、パートナーキャラは同じ部屋の誰かと被らない限り、任意で選べる仕様となっている。
今回はゾエ君主催のゾエ君が集めたプレイヤー達の部屋なので、パートナーキャラも予め彼が割り振ってくれた模様。だから喧嘩や競争にならず、私もしれっとシエルちゃんのパートナーポジをゲットできたというわけだ。
ゾエ君様様だね。
密談フェーズは一回につき二分となっている。与えられた時間は決して多くはない。
私はフレンズのふりをしつつ、さっさと腹の探り合いをすべきところなんだけど――――――。
「一番最初って、何話せばいいんですかね……」
「いやそうなんだよね……」
――――――私達は顔を見合わせ、苦笑いを浮かべた。
二番目三番目の相手となら、その前に密談した人の情報なども交えてそこそこ話すこともあるんだろう。けど最初手となると、お互い本当に真っ新な印象しかないからなあ。
なりきりフレンズ目線で疑うにしても信じるにしても、取っ掛かりになるものが何もない。
「じゃあとりあえずブティックさんの役職でも教えてもろて」
「それは勿論フレンズですよー」
「あ、今一瞬目が泳ぎましたね? どうやらあなたはスパイのようだ」
「じゃあ一旦そういうことにしておきまして、クドウさんに対する私の印象は悪い寄りにしておきますね」
結局、この程度の軽いジャブを打ち合うくらいしかやることないよねー。と、ぽふぽふやる気のないパンチを交わしているときのことだった。
「リルステンは、嘘を吐いているようね」
「へ?」
唐突に隣から上がった声に、私はぎょっとする。
発声源は勿論シエルちゃんだ。しかし横を向いても、彼女はそれきり涼しい顔で前を見つめるばかり。
今、彼女は何て言った? リルステンが――――――……と思考を巡らせていると、私の言動を不思議に思ったのかクドウさんが声をかけてくる。
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