413日目 惑いの夜の学園パーティー(4)
「どうしました?」
「あ、いや。今聞こえましたよね? シエルちゃんが喋ったの」
「何て言ってた?」
「リルステンは嘘を吐いてる、って、……あ」
待って。これヤバいか?
気付いた頃には、時既に遅し。
「ええー? 何ですかそれ、頭ごなしに失敬だなあ。僕等まだここで出会ったばかりじゃないですか」
しくじったしくじったしくじった。そーゆーことか、そーゆーかんじなのね。
クドウさんはすっとぼけた態度でいるけれど、私には彼が内心にやついているようにしか見えなかった。
シエルちゃんの台詞は、何も取っ掛かりがないところから真実を紐解いていくためのヒントなのだ。
そしてその発言は私にしか聞こえないもの。クドウさんには聞こえていなかった。
秘密にしておくか、或いは駆け引きに使うこともできる、利用価値のある情報だったんだ。それを私はさらっと惜しげもなく公開してしまって、え、しかもリルステンが嘘を吐いてる、ですって?
現時点、嘘を吐くことが確定な役職ってスパイかアンフェアだけだよね。でもアンフェアの席は私が潰している。
ってことは?
――――――この人スパイ確定じゃん!
「ちょ、クドウさん、鎌かけましたね?」
「やだなあ、何のことですか?」
「クドウさんだけ狡いです! 不公平です! 私にもリル様が何て言ったのか教えてください!」
「リルが? えーっと、『シエルは可愛いですね』だって」
「ウソツキーーーー!」
くっ、この人このゲーム上手いな! 冷静にのらりくらりと躱されて、全く牙城を崩せる気がしない!
……いやでも、冷静になるんだ私。今立場が有利なのは、圧倒的に私なはず。
だって彼の明らかな弱味を、この手に握り締めているのだから。
「クドウさん。嘘を吐いてももう無駄なんじゃないですか。本当のことを言ってくれるんであれば、クドウさんがスパイだってこと、黙っててあげてもいいんですけどね」
「……あ、ねえ。相手キャラにも喋りかけられるみたいだよ」
「聞いて!」
華麗なるスルースキルにしてやられつつ、でも一応私もリル様に[話しかける]コマンドを使ってみる。すると……。
「私が嘘を吐いている、だって? 冗談はよしてください。私がくだらない嘘を容認したりする人間でないことは、シエル、君が一番よく知っているはずです」
ほんとだー。なるほどね。
今回のゲームはこうやってちょっとずつ情報を集めていって、それらを皆で擦り合わせつつ真実を紐解いていくってかんじなのかも。ロジックパズル的な。
なお、もう1回2回と話しかけても同じ台詞が返ってくるのみだった。それはシエルちゃんにしても同じ。
なんてことをやっていたらば、
「じゃ、また後でー」
「あ、ちょっ」
――――――こんなことなら、クドウさんにどっちかの証を渡せば良かったああああーーーー!
鷹揚に手を振る彼の姿を呆然と見送った後で、私はようやくその考えに思い至る。
そうだよね、絶対そうだったよね。
だっていわばそれは、弱味を握った上での契約のようなもの。
たとえ自身がライアにされたことを疑うとしても、クドウさんが私に攻撃の矛先を向けてくる確率は低い。そうしたところで、自分の正体をばらされて共倒れになるのが関の山だからだ。
真実の証を渡すにしても偽の証を渡すにしても、私に分のある取引に違いなかった。
ぐおおー、ゲームの流れや仕様を確認することに気を削がれて、本来の目的を遂げることが疎かになってしまった……。ゲーム開始前、あれだけ頭に叩き込んだというのに……。
しかし落ち込んでいる暇はない。間を置かずして、次の密談が始まるからだ。
クドウさんの件は残念だったけど、このゲームがどういうものなのかは一回目の密談で大体把握できた。それだけでもよしとして次に繋げよう。
そして今度こそ、証を渡すべき相手を見定めることに注力するんだ……!
と、意気込んだはいいものの――――――。
「うっすー。あ、次はおまえか」
「チェンジで」
「は? ふざけろ」
――――――現れたのがヨシヲだったもので、私はつい本音を滑らせてしまった。
因みに今回の彼のパートナーはティルダという大人しそうな女学生である。
いやヨシヲは駄目でしょ~。
あんまりこういうゲームに
彼のぴーぴーうるさいさえずりは「はいはい」と適当に聞き流すとして、私はさっさとシエルちゃんティルダちゃんから話を聞くことにした。
「ティルダ? 別にいつもと変わらないように見えるわ。けどスパイってよくできた【変身薬】なんてものを使ってるんでしょう。きっと見た目だけじゃ分からないわよね」
「シエル様の前に話した方はアントワーナさんでした。私、あの人苦手なんですよね……」
今回はクドウさんのときとは違って、決定的な発言はいただけなかった。
まあそりゃそうか。毎回その人の役職が特定できるようじゃあゲームにならないものね。
でも彼の言動からして、多分白なんだろうなーという雰囲気は透けて視えた。
残った時間は一緒に真面目に推理するふりをしつつ消費。さあ、問題は次からだ。
一回目の密談フェーズで対話することのできる相手は四組。残りは二組だから、その両方に必ず真実の結晶か偽りの結晶、いずれかを渡さないといけない。
肝心の三組目は――――――。
「お、ビビアさーん。ここでも会えるなんてラッキー。これはもう俺達運命共同体なのでは?」
――――――ゾエ君だ!
良かった、話が通じそうな人だ! 彼なら安心して証を委ねられそう。
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